公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(31)
「スペンサー」
「少しは落ち着いたか?」
「――え?」
静かに諭すように話しかけてくる彼。
「ティアが言っていた妹アリシアの話――。その話以降、ずっと焦っているようの見えたからな。ずっと張り詰めていると何時か壊れてしまう。もうティアが――、愛する人間が、傷ついて悲しむ姿は見たくない」
「……スペンサー」
「何だ?」
「とても良い事を言っているのは分かります。でも、胸を揉みながら話すのは、感心しません」
「コレは……、手が勝手に――」
「もう……」
それでも彼が私のことを心配してくれていることは分かる。
それに、何度も肌を重ね合ったことでずっと駆られていた焦燥感も殆ど感じない。
「ユウティーシア様」
彼と朝の逢瀬をしていたところで、部屋外からエリンさんの声が聞こえてくる。
「エリンか? どうかしたのか?」
「――ッ!? ス、スペンサー様!?」
エリンさんの驚いた声が聞こえてくる。
「スペンサー、今日は来ることを伝えていなかったの?」
「一緒に寝る予定は無かったというのが正確なところだ。……ただ、ティアが一人辛そうにしていたからな……」
「それで、一緒に寝たと……、手も出したと――」
「そうなる。嫌だったか?」
そういう言い方は卑怯。
嫌いな人なら、体を許したりしないし……。
「ううん。私だって、貴方を愛しているもの」
それに、肌と肌が触れあっていると安心して睡眠をとることが出来る。
正直に思ったことを――、そのまま口にすると彼が一瞬呆けたあと、私に微笑んできて――、抱き寄せてくる。
「ティアは、本当にかわいいな」
「――べ、べつに煽てても何も出ないんだから」
彼の言葉に顔が真っ赤になっていくのが自分でもハッキリと分かってしまう。
今は、抱き寄せられて彼の胸元に顔を埋めているから見られることは無いとおもうけど……。
「スペンサー様」
エリンさんの声が――、どこか遠くに聞こえる。
それよりも早鐘のように鼓動する自身の心臓の音の方が煩い。
「エリン、しばらくしてから来てくれ」
「畏まりました」
「――さて……」
顔を上げさせられる。
彼と目と目が交差し――、そして私は気が付いてしまう。
スペンサーの瞳の中に、目を潤ませている女性が映っていることを――、そして……、それは私で――。
「――んっ……」
自覚したと同時に、彼はキスをしてくると同時に私の頭を何度も撫でてくる。
殿方の力強いキスと――、それを受け入れる喜びに体が打ち震え――、そして幸福な気持ちが体を包みこんでいく。
「本当にティアは――、好きな女に愛しているなんて言われて手を出さずいられる訳がないだろう?」
彼の声が聞こえてきたと同時に、体の中に彼が入ってきた。
何度、嬌声を上げたのか分からない。
朝からだと言うのに……、気が付けばスペンサーに寄り添うようにして私は微睡の中で目を覚ました。
「……スペンサー」
私の隣で横になっている彼は、一枚の便箋に目を通している。
「これはエリンが持ってきてくれたものだ」
「エリンさんが?」
「ああ、父上からの手紙になる」
「それって……」
「ティアの妹――、アリシアの事に関してだな。結果から言うと――、アリシアという人物はシュトロハイム公爵家には存在していないようだ」
「そうですか……」
「落ち込む気持ちは分かる」
「はい……」
「それより一つ問題が生じた」
「問題ですか?」
彼は神妙な表情で頷く。
「リースノット王国より、ティアを返すように話が父上に来たようだ」
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