公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(28)
「自分でも分かっているんだろう? 自らの身を守ることすら出来ないほど弱体化してしまっている事に。転移魔法は、上級魔法師までにしか適用されない。それよりも上の魔法師では、自らの魔力で転移するしか術がない。だが――、そんな事が出来る魔法師は存在していない。俺の言いたいことが分かるな?」
スペンサーの言っていることは痛いほど分かる。
彼は、私の魔力が上級魔法師程度しか無いと遠回しに説明してきている。
それに私は、杖の補助を使わなければ回復魔法すら満足に使えない。
そして攻撃魔法に至っては一回使えば魔力が枯渇する。
「分かっています……」
私は彼の言葉に小さく呟きながら頷く。
理屈は分かる。
理解も出来る。
「でも、私はどうしても確認しないといけないのです」
「何をだ?」
「妹を――、妹のアリシアが本当に居ないのかを……」
「それで、もし居なかったらどうするつもりなんだ?」
「どうするって……」
言葉が喉元で詰まる。
だって、妹のアリシアが居ないなんて考えられないから。
「わかりません……」
「ティア。一時の感情で動いても、それが最善の手段とは限らない。まずは、ゆっくりと物事を見据えて行動したほうがいい。それにリースノット王国は、君の事を妃にしようとして色々と問題のある王子を宛がってきたのだろう? ――なら、安易に国元に帰るのは止した方がいい」
「でも……」
反論しかけた所で私は口を閉じる。
彼が私のことを本当に心配そうに見てきていたから。
「ごめんなさい」
「気にすることはない。ティアが、妹が居たというのなら居たのかも知れない。そして妹を大事に思っている気持ちは痛いほど伝わってきた。それでも! ティアをリースノット王国へ向かわせるわけにはいかない。リースノット王国の王家は、100年ぶりに生まれた女児であるティアを欲しがっているのは情報をして知っている。そして、ティアは自身を守る力がない。魔力が無くなれば抵抗も出来なくなるんだぞ?」
「抵抗が出来ない……」
彼の言葉に、洗脳されて凌辱されかけた記憶がフラッシュバックする。
「……わ、私――」
「大丈夫だ。いまの言葉は忘れてくれ――。最悪を想定した場合のことに過ぎないから」
彼に抱き寄せられ――、馬車が走る音と共に彼の謝罪の言葉を聞きながら私は小さく頷きながら彼にギュッと抱きつく。
「スペンサー、私……」
「今日は屋敷でゆっくりしよう。目を覚ませばいい案が浮かぶかもしれないからな」
馬車は、公都ルクセンブルグの貴族街に差し掛かる。
しばらく馬車は走ったあと、目的地である私が逗留しているスペンサーの屋敷に到着する。
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