公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(27)
「――え?」
一瞬、彼が――、スペンサーが何を言ったのか理解が出来なかった。
だって……、私には妹が居て実際に言葉を交わしていたのだから……。
「ティア、思い違いじゃないのか?」
「そんなことないわ……」
スペンサーの言葉を否定しながらも、彼が私に嘘をつくはずがない。
第一、私に嘘を――、妹が居なかったと虚実を教えたところで何の意味があるのか……。
「――で、でも! そんなこと――、ありえないわ!」
「ティア、落ち着け」
彼は私の両腕を掴むと冷静に語り掛けてくる。
「どうしたのだ?」
「父上――」
振り向くとフィンデル大公と、リーズロッテ様のお姿が拝見できて――。
「スペンサー、何かあったのか? ユウティーシア譲はどうしたのだ? そんなに取り乱して」
戸惑いの色を見せながらもフィンデル大公はスペンサーに話しかけた。
その言葉に一瞬だけ冷静になった。
そして嫌な予感が胸中を駆け巡る。
それは――。
――ううん。そんなこと……、ありえるわけがない。
そんな事があり得るわけが……。
――でも、だけど……。
一度、思い浮かんだ疑念と疑問は、消えることがない。
本当は、自分の家の事を他国の王家に聞くことは宜しいとは言えない。
そんな愚かな質問をするなんて普通はありえないから。
でも……、私は……。
「フィンデル大公様、シュトロハイム公爵家ですが――、私以外の子が居る事はご存知ですか?」
私ながら、おかしな質問だと思う。
だけど、これ以外に聞く術がない。
「なるほど、ずいぶんと面白い冗談であるな。何かのサプライズかの? スペンサー」
「――いえ、そんなことは……」
「シュトロハイム公爵家には、子供は一人だけだと対外的には聞いている。それが、どうかしたのか?」
「父上、ティアは少し疲れているようですので――」
「うむ。白亜邸から長い時間を移動したとも聞いているからの。静養するとよい」
「それでは失礼します」
「ティア、行こう」
私は、フィンデル大公の語った、『シュトロハイム公爵家には、子供は一人だけだと対外的には聞いている』と、いう言葉に茫然自失したままスペンサーに抱き上げられて城の外まで運ばれると待機していた馬車に乗せられる。
「ティア、大丈夫か?」
二人きりになったところでスペンサーが私に話しかけてくるけど、私は何も言葉を返すことが出来ない。
――だって……、まるで妹の存在が消えてしまったような態度に私はどうしても納得が出来なかったから。
「…………スペンサー」
「――ん?」
「私に妹は居なかったのですか?」
「ああ、もちろんだ。俺はお前と最初に出会う前に家族構成から全てを確認したからな。シュトロハイム公爵家に生まれた子供はユウティーシアだけだ」
もう何が……、嘘か本当なのか分からない。
「それは……、絶対ですか?」
「ああ、絶対だ」
「本当に、アリシアという名前に心あたりは……」
「ない」
断言してくるスペンサーに私は悩み続け――、そして……。
「一度、国元に帰らないと……」
「それは快諾できない」
「どうしてですか!」
「以前のユウティーシアなら帰していたが、今の君では自分の身を守ることも出来ないだろう?」
「それは……」
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