公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(25)




「リーズロッテ様、どうして――、このような場に……」
「貴方が、婚約者を連れてくると聞いたからよ」
「誰にですか……」

 私が見ている前で話始めた二人。
 そして、リーズロッテという名前には依然にアプリコット先生から教えられて心辺りがあった。
 たしか、フィンデル大公の年の離れた妹で、他家に嫁ぐことはせず離宮で悠々自適な生活をしていると。

「決まっているでしょう?」
「父上にですか」

 スペンサーが溜息交じりに、フィンデル大公の方へと視線を向ける。

「オホン! 二人とも、そんな所に立って居らず座ってみたらどうか?」

 立っていても話が進まなくもないけれど、相手からの誘いを無碍に断るにもどうかと思いソファーに座る。
 ――さて、どう話を切り出すべきか。

「貴女が、スペンサーの婚約者のユウティーシアさんで宜しかったかしら?」
「お初に目にかかります。ユウティーシア・フォン・シュトロハイムと申します」
「そう……、あの――、シュトロハイム公爵家のね」

 意味深のある言葉。
 
「それよりもずいぶんと雰囲気が変わったようだの」
「そうですか?」
「うむ。以前にミトンの町で何度か出会った時は、凛として張り詰めた空気を纏っていたが――」
「兄上、恋をすると女性は変わるモノなのですよ」
「そうであるな。二人が婚約をしていると聞いた時は半信半疑であったが、その様子から察するに虚実の類では無さそうだ」
「それでは――」
「うむ。アルドーラ公国としては、隣国との強固な繋がりが欲しい。ユウティーシア殿からすれば、面白くない話かもしれぬが……」
「いいえ。とんでもありません」

 思わず、彼の――、スペンサーの方を見る。

「父上の許可が下りた。これで、アルドーラ公国は正式に俺とティアとの婚約を許可したことになる」
「スペンサー」

 思わず感極まってしまう。
 そんな私の頬に彼の手が添えられると――、そこでようやく自分が涙を零している事に気が付いてしまう。

「ティア」
「スペンサー」

 自然と彼と近づいたところで――。

「オホン! そういう事は二人だけの時にするようにな。わかったな?」
「す、すいません」

 私は反射的に頭を下げる。
  
「よいよい。それよりスペンサー、そんなに不機嫌な顔を見せる前にいくつか報告があるのではないか?」
「わかりました」
「あの、政策の話でしたら私は席を外した方が――」
「気にすることはない。元々、スペンサーとユウティーシア譲との婚約が切っ掛けで纏まった話なのだ」
「そうなのですか?」

 私の疑問にフィンデル大公は頷くとスペンサーへ報告をするように促す。

「アルドーラ公国内で反乱を起こしていた貴族に関してですが、公国の戦力との差が明確になったこと――、そしてリースノット王国から嫁いでくるユウティーシアとの関係から、隣国との関係が改善される見通しが出来たことで和解しました。彼らも元々、自国の民の為に動いていましたからお咎めは無しという王家の判断が功を制したと考えられます」
「ふむ」

 二人の会話から、私がスペンサーと婚約したことは思ったよりも大きな影響を持っていたことに驚く。

「つまりだな。二人の婚約が嘘であるのなら、色々と面倒な事になるところだったのが……、そうではなく安心した。アルドーラ公国としては、全面的に大々的にスペンサーとユウティーシア譲との婚約と発表したいと思うがどうであろうか?」
「はい。良いと思います」

 政治的事情が絡んでいても、それが私に良ければ歓迎できる内容なので断る必要性はまったく感じられない。

「分かった。それでは――、あとはリースノット王国の方にも使者を送る必要があるな」
「――え?」




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