公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(22)




 屋敷の前には馬車が停まっていた。
 スペンサーにエスコートされながら乗り込んだあと、彼も馬車に乗ってきたあとドアが閉まる。

 すぐに馬車は走り出すと、軽快な音が聞こえてきた。

 貴族街は、路面が整備されていて赤レンガが敷かれている。
 ――とは言っても馬車の車輪は木製なので、車のゴム製のタイヤと違い接地面である赤レンガと当たれば音が鳴るので音がなってしまう。

それが馬車の風情と言えば、それまでなのだけれど……。

「いまは、どこに向かっているの?」
「どこだと思う?」
「どこと言われても……、市場とか?」
「いや、じつは王城になる」
「王城って……、フィンデル大公様が居られる場所ですか? 街を案内と先ほどは……」
「すまない。先に所用を済ませてからになる。今後のことを考えると、いくら王位継承権を剥奪されたとは言え、父上に話を通しておかないのはまずいからな。隣国のリースノット王国との件もあるだろうから」
「そうですね」

 リースノット王国の事を持ち出されると私も強くは言えない。
 国土としては、アルドーラ公国よりもずっと小さく人口もアルドーラ公国の1割に満たないけど、魔道具開発と白色魔宝石により軍事力・経済力共に大国と肩を並べるまでに成長した故国。
 アルドーラ公国としては、自国と同等以上の国力を持つリースノット王国とは厄介事を起こしたくないというのは分かることで……。

 今までは、海洋国家ルグニカに居て権力中枢からは離れていたから、私とアルドーラ公国は契約を交わしても間には商工会議が存在していたから問題なかった。
 
 ――でも、婚姻となると話は違ってしまう。

 王位継承権を剥奪されたと言っても彼は王族な訳で、そこに隣国の有力貴族の娘が嫁ぐことになれば外交的に問題になるのは分かること。

「大丈夫だ。そんなに心配そうな表情をしなくても……」

 彼の手が伸びてきて私の頬に添えられる。
 
「そんな表情をしていましたか?」
「ああ。ティアは分かりやすいからな。すぐに顔に出る」
「そんなこと……、――ん……っ」

 口づけを交わしたところで、私は彼に体を預ける。

「本当にティアはかわいいな」
「褒めても何も出ないから」
「率直な意見だ。それよりも、どうやら王城に到着したようだな」

 馬車は、跳ね橋の上を走り抜けていく。
 すると馬車の窓からは、リースノット王国の王城よりも遥かに大きな城が見えてくる。

「ずいぶんと大きいのね」
「増築を繰り返しているからな。それに一応、元は大国だったからな」

 王城の全容が見えてから、5分ほど走ったとこで馬車が停まるとドアが開く。
 彼にエスコートされて馬車から降りたところで、金髪碧眼の10歳くらいの少女が駆け寄ってくると、スペンサーに抱き着いたかと思うと「お兄様! おかえりなさい!」と、少女は花のような笑顔を彼に向けて話しかけていた。




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