公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(20)
「はい。スペンサー様からは、黙っているようにと言われたのですが……」
エリンさんは申し訳なさそうな表情で「昨日、ユウティーシア様は落ち込んでいるようでしたので……」と、言葉を続けてきた。
自分では気が付いていなかったけれど……。
「そんなに、落ち込んでいるように見えたの?」
「はい。一目で分かるほど――」
「そ、そう……」
極力、感情を表に出さないようにと公爵家令嬢として生まれてからは教育されてきたけど、そんなに分かりやすいなんて思っても見なかった。
「それと話しは変わりますが、こちらをユウティーシア様にお渡しするようにと――」
「スペンサーから?」
「はい」
彼女が、室内のテーブルの上に置いたのは白い杖とタウンページと言われると納得してしまうほど分厚い本。
それは衛星都市エルノのダンジョン最奥の――、神代文明時代の遺跡で草薙さんに貰った物。
「ありがとう」
「お礼は、スペンサー様にお伝えください」
彼女の言葉に私は頷きテーブルの上に置かれている杖を手に持つ。
杖は確かな存在感と手ごたえを指先から伝えてきてくれる。
「私の為の――、私が使う事を前提に作られた私だけの杖……」
一人呟きながらも、草薙さんが言った「君の為に作ったものだ」と、言う言葉の意味を思いだしながら持ち上げる。
確かな質感はあるのに――、まるで羽のようで重さはまったく感じない。
「それでは、ユウティーシア様。スペンサー様がお戻りになる前に服装と髪を整えましょう」
「そうね」
杖をテーブルの上に置いたあと、町で歩いていても目立たないよう服装を町の人に合わせる為に何着も着替えて確認する。
町娘に合わせると言っても、やっぱり可愛らしく自分を見せたい。
彼の隣で歩いていても変に思われないように服装や髪形をしっかりとしておきたい。
何十着もある服の中から選んだのは、最初に着た服装。
「ユウティーシア様。髪型はどうしますか?」
「最近の流行りはどんな髪型なの?」
「そうですね……、こんな感じでしょうか?」
化粧台前には、少し大人に見える女性が座っていた。
髪型は、両端をそれぞれ三つ編みにして後ろで結えてあり後ろ髪は背中に流している。
「ねえ? エリン。おかしくないかしら?」
「似合っています」
「そう?」
半信半疑で言葉を返しながらも椅子の上に座ると、思わずお腹がクーッと鳴る。
「すぐに朝食の準備をさせますのでお待ちください」
エリンさんは一礼すると部屋から出ていく。
止める間も無かった。
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