公爵令嬢は結婚したくない!
雨音の日に(17)
「ユウティーシア様、お疲れ様です」
エリンさんが引いてくれた椅子に座る。
「いえ、殆どはスペンサー王子が行ってくれましたから……」
「そうなのですか? そのわりには、会談室から出てきた貴族の方々は、ユウティーシア様に頭を下げていましたが?」
「気のせいです」
私は、化粧台の前に座ったまま、彼女に言葉を返す。
エリンさんは慣れた手つきでアップしていた私の黒髪を解いた後、ブラシで軽く梳いている。
「それにしてもユウティーシア様は、どのような物で髪を洗っているのですか?」
「――え?」
「毛先まで、とても整っていらっしゃるので何か特殊な香油などを使っていらっしゃるのかと思ったのですけど……」
「とくに何も使っていないです」
石鹸くらいしか使っていない。
だって、この世界ではシャンプーやリンスというものは存在していないし。
――そういえば……。
私以外の女性は、どこか髪が傷んでいる方が多いような……。
エリンさんが、私の黒髪を指先で持ったままジッと見つめている。
そういえば、髪は女の命という言葉を前世に聞いたことが……、やっぱり異世界になってもそこは変わらないのかもしれない。
「ユウティーシア様。湯浴みの準備は出来ておりますので」
「ええ、ありがとう」
ドレスを脱いだあと、隣の部屋――、浴場に踏み入る。
室内に入ると、壁は白い大理石で作られていて中央には浴槽が用意されており、湯が用意されていた。
「エリンさん、湯浴みは一人で出来ますので外で待っていてもらえますか?」
「――え? で、ですが……、スペンサー様からユウティーシア様の――」
「大丈夫ですので――」
「…………かしこまりました」
彼女は、恭しく頭を下げると部屋から出ていく。
エリンさんには悪いけれど、人に体を洗ってもらうというのがどうしても私は苦手で――、貴族なら普通の事なのだけれど、どうしても私は慣れない。
「――さて……」
一応、上級魔法師クラスの魔力はある。
だけど、魔力が回復しているような感じはしない。
むしろスペンサー王子を殴ったときに魔力を込めてしまったからなのか魔力がかなり減っているようにすら感じる。
「……仕方無いよね……」
私は、草薙さんから貰った白い杖を手に持つと自分の体についた埃を除去するように、頭の中で想像しながら魔法を発動させて体を洗浄したあと、お風呂に浸かった。
「ふう……、今日は疲れたー」
浴槽の縁に頭を乗せたまま、ボーッと天井を見つめながら今日の会談を思い出す。
会談は、主に反乱を起こしたアルドーラ公国の貴族達の今後の話であった。
セイレーン連邦に属しているネイルド王国に身を寄せているラドルフ侯爵を筆頭に集まっている貴族達との今後の交渉。
それらをメインに話しは進み、ようやく一段落ついたのが先ほど。
「そういえば、会食をするって……スペンサー王子は言っていたわよね」
私も参加しないといけないのよね……。
もっと気楽に生活をしたいのに……、侭ならないものなのよね。
「それでも、私の魔力で誰かが病気になるよりもずっとマシだよね……」
「――でも、私がアルドーラ公国に居ることをお父様やお母様が知ったら怒るのかな……」
少なくても良い顔はしないと思う。
アルドーラ公国の方の話を聞く限り、商業に関してだけでなく塩の流通に関してもリースノット王国の良い話しは聞かないから。
でも、それは仕方無いと思う。
少なくとも隣国同士というのは何かしらの問題点を双方に抱えているものだから。
前世でもそうだったし。
「ユウティーシア様、そろそろ――」
外からエリンさんの声が聞こえてくる。
思ったよりも長くお風呂に入っていたみたい。
私は浴室から出るとタオルで体を拭いたあと、バスローブを着て浴室から出た。
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