公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

雨音の日に(1)




 普通ならコルクさんが言っていたことは、正論だと思う。
 だけど、今回の問題は違う。
 機械の魔物がエルノのダンジョンから出てきたことは、全て私が悪い。
 全て私が安易にエルノのダンジョンを攻略したから……。
 草薙雄哉と言う人も気にするなと言っていたけど、そんな訳にはいかない。

「そんなの無理に決まっています……」
「それは、自分が全ての原因だからって考えているのか? 自分の名前がダンジョン内の石碑に書かれていたからか? それとも、お前が普段のどおりの魔法を使う事が出来て一人で全部解決出来れば良かったってことか?」
「はい……」

 私一人でエルノのダンジョンに来ていた方が怪我人も死人も出なかったと思う。
 癒しの杖は怪我人や病人を治療することは出来るけど死者を生き返らせる力はないから。
 答えた言葉にコルクさんは肩を竦めた。

「付き合いきれないな」
「――え?」
「付き合い切れないって言ったんだ。助けてもらった事を――、アイツらに感謝の気持ちでも伝えたのか? 起きてしまった事実は変えられない。どんな事情があってもな。それをなんだ! いつまでも自分は可哀そうって悲劇のヒロインのふりか? 楽だな!  
貴族様ってのは――」
「私は、そんなつもりで言ったわけでは……」
「同じことなんだよ。自分一人で何でもできる! 自分一人で責任を負う! 何でも自分自分って、どこまで周りが見えていないんだ? やってられないな」

 彼は私から離れると市場の方角へと向かっていってしまう。
 すぐに姿が雑踏の中へと消えていく。

 何なのよ!
 何も知らない癖に!
 私が何も言えないことを知らないくせに!

 

「おう、戻って来たか!」
「グランカスさん……」
「――ん? どうかしたのか? 何かあったのか?」
 
 私は首を左右に振る。
 思わず弱弱しい声が出てしまっていた。
 私はミトンの代表であり、立場のある人間で弱みを見せるわけにはいかない。
 
「……いえ、何でもありません。それより何か用事があるのではないですか?」
「高位の治癒魔法が使えると聞いたが?」
「はい。それが何か?」
「どうやら、強力な治癒魔法を使う魔法師が冒険者ギルドで滞在していることが町中に広まってしまって住民から怪我や病を見てほしいという要望が殺到しているんだが」
「それは……、私ではないと難しいと言う事ですか?」
「そうなる」

 グランカスさんには色々とお世話になっていて、出来れば力になってあげたい。
 だけど……。

 自分の両手を見ながら私は思ってしまう。
 安易な魔法行使は、また問題を引き起こして誰かを傷つけてしまうのではないのかと。
 そう考えてしまうと、私は――。

「お、おい!」

 居ても立っても居られなくなって、グランカスさんの制止も無視して冒険者ギルドの建物から私は飛び出していた。
 どれだけ走ったのか分からない。
 気が付けば私は町の片隅で膝を抱えて座っていた。
 周辺は据えた匂いが漂っていて決していい環境とは思えない。

「ここは、どこなのかな……。雰囲気的にスラムって感じに見えるけど……」

 少しだけ気持ちが落ち着いた私はようやく周りを見渡せる余裕が生まれてきたことで周辺を見るけど人が住んでいないような半壊した店や家々ばかりで、本当にエルノの町の中なのか不安になってしまう。

「とりあえず移動しないと……」

 自分がどこに居るか分からない。
 まずは通りに出てから、今後のことを考えた方がいいかも知れないと、スラムエリアの建物と建物の間にある細い道を歩いていくと、目の前に3人の男性が道を塞いできた。

「あの、通りたいのですけど……」
「通りたい? なら! 通行料を払ってもらわないとな!」
「ならいいです」

 私は、道を引き返そうと踵を返したところで、仲間が待機していたのか通ってきた道も塞がれてしまう。

「出すものを出してもらわないとな! それとも、体で払うか?」

 無造作に私に近寄ってきた男性が、私の腕を掴んでくると強い力で引っ張られてしま身長が2メートル近い男性に後ろから羽交い絞めにされた。

「こいつは、すげー上玉だぞ! 帝政国の貴族に高く売れそうだ」

 いつの間に日が沈んだか分からない。
 だけど、近寄られたことで男たちは色めきたっていた。

「離してください!」
「離してくださいだってよ! まるで貴族様のようだな!」
「貴族? カベルには娘はいないだろ」
「そうだよな」

 何が楽しいのか男たちは私を見て下種な笑みを浮かべていて――。
 それを見た瞬間、体が凍るほどの恐怖が脳裏を占めた。
 身を守るために咄嗟に空中に魔法陣を描こうとしたけど指が動ない。
 魔法を使うことで、また誰かが傷ついたらと思ってしまうと、魔法陣を描くことができない。
 
「こいつ!?」

 地面の上に押し倒された。

「こいつ、魔法を今使おうとしましたぜ!」
「魔法を? こいつ魔法師か? 服装から見て冒険者には見えないが……、どこかの商人の令嬢か何かか?」
 
 男性は片手で私の両手を抑えつけながら、主犯格の男と話をしている。

「どうしますか?」

 部下であろう取り巻きの一人が優男の指示を待っていると私を冷酷な眼差しで見下ろしながら「仕方ないな。一度、やれば抵抗しなくなるだろ」と、感情の抑揚を見せない声色で男たちに指示を出す。




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