公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(22)





 この人は何を言っているの?
 私には、彼が矢継ぎ早に話してくる言葉が理解できない。
 そもそも、どうして私と目の前の男――、草薙雄哉が一緒に人を作り出したのか……。
 
「私には、人を作り出した記憶なんてありません」
「まぁ、君が作りだしたと言うよりも君から提供された情報を元に作ったというのが正確なところだからな」
「だから! 私は、貴方に出会ったことが無いと言っているのです!」

 テーブルに両手を叩きつけながら叫ぶ。
 声はドームの中に響きわたり、それと同時に木々の枝に掴まっていた多種多様な色合いを持つ鳥が空に向かって飛び立っていく。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム」

 静かに彼が私の名前を呼んでくる。
 先ほどとはまったく違って事務的に――。

「……」
「人から得た情報を精査もせずに理論的に考えもせず一方的に否定するのは、あまり好ましいとは言えない」

 私は苛立ちを抑えながら用意された椅子に腰を下ろす。
 そして目の前で両手を組んで私をまっすぐに見てきている男へと視線を向ける。
 男の言う通り、最近の私は感情的になりすぎている帰来があるのは事実で――、でも、それを止めることが出来なかった。
 
「まぁ、話を聞いて――、それで理解出来て納得できるかは別問題だから仕方ないな」
「どういうことですか?」

 彼に視線を向けながら私は言葉を紡ぐ。
 すると、彼は肩を竦めると紅茶を差し出してきた。
 
「まずは、少しリラックスしたらどうか?」
「頂きます……」


 私は深呼吸しながら差し出されたお茶に口をつける。
 渋みがあり日本を彷彿とさせる緑茶。
 この世界に転生してきてからというもの久しぶりに故郷を感じさせる口当たりに肩から力が抜けるのを感じる。

 それと同時に、目の前の男――、草薙雄哉という人物が話していた事を思い出しながら今後の事を考えていく。

 まず必要なのは、修復用のデバイス。
 彼は、この世界に住む人のことをメディデータと呼んでいたけれど、言い方はどうでもいい。
 問題の本質は、人の怪我を直すアイテムをくれると言う事。
 ぜひ手に入れて帰りたい。

 ――なら!

「まずは話をお伺いする前にお願いがあります」
 
 お茶が入っている器をテーブルの上に置きながら私は一度、瞼を閉じる。
 まずは自分が、どうするのか? どうしたいのか? を、目の前の男に言われて癪だけど精査し、どんな答えを望んでいるのかを整理していく。

「人を――、メディデータを修復するデバイスというのを頂けますか?」
「それは、すぐにではなくてもいいのではないのか?」
「――いいえ」

 私は頭を左右に振りながら男の言葉を否定する。
 彼と私が知り合いの仲であるのなら、面識があるのなら……、彼の言葉には信憑性もあるし信じるという選択肢も取れるだろう。
 だけど……、それは出来ない。
 何故なら、彼のことを私は知らないから。

「ふむ……」

 彼の言葉に私はニコリと微笑みを返す。

「仕方ないな」

 溜息交じりに呟くと、テーブルの上に一本の白い杖が出現した。
 今までは、テーブルの上に何も無かったというのに、突然2メートルを超える杖が現れたことに驚きを禁じ得ない。

「それを手に取るといい。君なら、それを扱うことが出来るはずだ」
「私なら?」

 意味深な言葉に戸惑いながらもテーブルの上に置かれている杖に手を伸ばす。
 
「まるで重さをまったく感じないみたい」

 右手で掴んで持ち上げては見た物の重さが無い。
 きっとスプーンよりも軽いと思う。
 それなのに、強く握りしめると確かな手ごたえを返してくる。
  
「軽いだろう?」
「え、ええ……」

 戸惑いながらも私は言葉を返す。
 触感としては木材に近い。
 それに杖には無数の文字が彫られていて、私が手に持つと同時に薄青白く光り輝いている。
 まるで杖自体が生きているかのように思えてしまう。

「その杖は、精神感応金属(オレイカルコス)をベースとして、反物質をコーティングして作ったものだ。柄の部分にはナノニュートリノマシンに命令を下すための原子結合素材アルテミスとアラミド繊維を使っている。神代文明時代の最先端工業技術の集大成の杖で、君の為に作ったものだ」
「私のために……」

 つまり、最初から私に渡す予定だったということ?
 でも、どうしてそのことを最初から言わなかったのか……。

「使い方は分かるな?」
「いいえ、全然――」

 彼は溜息混じりにタウンページほどの厚さがある本をテーブルの上に置いてくる。

「これが仕様書になる。きちんと目を通しておいてくれ」

 でも、これでたくさんの人が救える。
 私のせいで怪我をした大勢の人が――。

「これで大勢の人を助けることが出来るのですね」
「何と言うかあれだな」
「――え?」

 男は言いづらそうな表情を浮かべると「まるでマッチポンプだと思ってな」と、苦笑いしながら私に語り掛けてきた。

 
 
 

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