公爵令嬢は結婚したくない!
記憶と思いと(18)
「ユウティーシア様、抑えて抑えて」
「私は十分に抑えています」
彼から視線を逸らして私は建物の方へ向かう。
そのあとをレオナさんが溜息をついた後に着いてくる。
「どこにも入り口が見当たりませ――、壁が――!?」
レオナさんの言う通り壁が中央部分から分かれて開く。
実際は、レオナさんが壁と言っているだけで色付きガラスの両側に自動的にスライドするだけの扉なのだけど。
とにかくエルノの町を襲っている機械を何とかしないといけない。
時間が無い事もあり、二人の視線は感じていたけど無駄に時間を浪費することは避けたい。
自動的に両端にスライドする扉を抜けて建物内に入ると、そこはビルのフロントのような作りをしている。
入り口から見て正面には、人は居ないけれど受付があり右手には建物の概略図が書かれていた。
「ここは一体、何なのですか? 私達が知る建築様式とはまったく異なるようですが……」
「……俺が女性の扱いを分かっていない……。分かっていない……。分かっていない……」
レオナさんは、建築様式について感想を言っているようだけど、コルクさんに至っては私から言われたことがショックだったのかブツブツと何か言っていて怖い。
そんな二人を横目で見ながら私は右手の壁に掲げられているレリーフに近づく。
レリーフには、建物の全貌が書かれている。
「なるほど……」
どうやら環境開発実験センターと言う場所は2層構造になっているよう。
上層部分が顧客や賓客などの応接室が置かれている。
さらに図書館も完備されていて食堂も存在しているのが、図面から伺いしれた。
そして下層部分が研究施設と書かれていて、大きく分けて3つの区画に分けられているようで――。
「――さて……」
どうしたものか……。
正直、こんな最新鋭の設備を見せられては中世よりも遥かに劣る文明しか存在していないと思っていたアガルタの世界の見識を検める必要がある。
そして、そのためにはたくさんの情報が必要で――。
「環境に配慮するだけの知識や技術があるのなら……」
少なくとも、この世界の在り方や理の研究も進んでいるはずで――。
もしかしたら地球と同程度、もしかしたら現代地球よりも進んだ技術形態すら保持していた可能性すらある。
そうなると……。
――多少、遠回りになったとしても図書館に行って書物を見て回るのも……。
「ううん、いまはそんな事をしている時間は……」
私から見ても、あの機械の化け物の力は圧倒的。
本来の私の力を持ってすれば何とかなると思うけど……、少なくとも普通の人には対処することは絶対に出来ない。
「レオナさん」
「はい。何でしょうか?」
レオナさんが、フロントに置いてあったテーブルを触りながら私の問いかけに答えてくる。
彼女に下層へ行く提案をしようとしたところでフロントの左手――、奥へと通じる通路から人が歩いてくる音が聞こえてくる。
「コルク! 呆けている場合ではありません!」
「――ッ」
レオナさんの叱咤に、コルクさんは表情を変える。
二人とも一斉に私の立っている場所――、右手通路が伸びる方へと移動すると左手の通路へと視線を向けた。
少しずつ音が大きくなってくる。
どうやら、誰かが歩いてきているみたいだけど……。
こんな場所に、人が居るとは……。
でも、こういう場所だから管理者がいたりするのかも……。
2人の手が腰に差してある剣の柄へと伸びると同時に、足音は止み一人の人間が姿を現した。
「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム様、お待ちしておりました」
白衣を着たエルフは、私の名前を呼びながら頭を下げてくる。
「それよりも、メディデータを連れているという情報はありませんでした。そのため、極力情報を漏らさないためにも貴女様を迎えに行くことが出来なかったことをご容赦くださいませ」
「いえ、それよりも――。貴女は?」
彼女と私は接点を持ったことはない。
たしかに私の記憶は曖昧だけど、耳の長い人種を見たことがあるなら記憶の片隅にでも残っているはずなのに……。
「私は、elfと言います」
「エルフ?」
「はい。私の製造名はelectronics load  find。頭文字を取ってelfと言われていました」
「製造名? ――え? そ、それって……」
途中まで言いかけたところで、彼女は「肯定です」と、答えてきた。
その言葉に私は驚いてしまう
「……う、うそ……」
つまり目の前に立っているエルフは、人工的に作られた物だということになるから。
それってつまり……。
「何を言っているのですか? ユウティーシア様、彼女は何語で話をしているのですか?」
「――え? 二人とも彼女の言葉が分からないのですか?」
私にとっては、普通に話しているつもりだったのに……、二人にはそうではなかったの?
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