公爵令嬢は結婚したくない!
思いのかたち(5)
シェリーさんと別れてエルマーさんと共に町の中心部――、代官が執政を行っていた建物に到着したのは、お昼が過ぎて人通りが減った時刻であった。
建物の1階は、現在は倉庫となっている。
総督府スメラギから派遣させていた代官が居た時代は、1階が受付だったけれど大抵の雑務はレイルさんが行っている事もあり2階が執務室兼受付を兼ねている。
それが出来るのも商工会議があるからで、予算が大きい案件でない限り各ギルドの長が、それぞれの裁量で方針を決定しているからだ。
決定した方針で報告しなければならないものだけレイルさんに送られてくるから、1階に受付をおくよりも馬車を置いた方がいいというレイルさんの意見で、それが通って1階は倉庫兼馬車の置き場となっている。
ちなみに馬は建物の裏にある馬小屋にいるらしい。
建物の中に入るとレイルさんが兵士さん達と話をしていた。
「ユウティーシアか」
「ただいま戻りました。そういえばお手紙の件はどうなりましたか?」
さっそくカベル海将についての話を切り出すことにする。
「これから持って行かせるところだったが……、その表情から察するにシュトロハイム公爵との話合いは上手くいったようだな」
彼の言葉に私は頷きながら「はい」と答える。
「それは何よりだが……、何か聞きたい表情に見えるが……」
「実は、カベル海将へのお手紙の件ですが私が持っていこうと思っています」
「君が?」
レイルさんが意外と言った表情で私を見てくる。
「そうですが……、何か問題でも?」
「いや。ユウティーシアがエルノの町から戻ってきた様子から察するにカベル海将と何かあったのでは無いのかと思っていたのだが……」
彼の言葉に私は内心驚きながらも頭を振る。
「いえ。そういう事ではないのですが……。きっと旅の疲れが顔に出ていたと思います。それよりも私の両親と話がついたので、私の予測ですが王位簒奪レースの開催まで猶予はそんなに無いと思うのです。おそらく手紙のやり取りだけでは、レースが始まるまでに体制が整えられないと思うのです。そこで、私が衛星都市エルノに出向いてカベル海将に話をした方がいいかと考えているのです」
「なるほど……、たしかに君が行けば話は進みやすいと思うが、往復で2週間の距離だが体調は大丈夫なのか? 顔色が悪いように見えるぞ?」
「大丈夫です。これからは時間との闘いになるので、なるべく早くエルノに迎えるように馬車の手配をお願いできますか?」
「分かった。同行は冒険者ギルドの彼女らでいいか」
「彼女ら?」
「メリッサとアクアリードだ。彼女らは、エルノに向かうようだから丁度いいだろう。話は通しておくから、エルノに向かうための用意をしておいてくれ」
「なるほど……、わかりました」
片道一週間程度の旅になるのだ。
何もなければ同じ女同士の旅の方がずっと楽で、彼女らは私が傍にいても病気にかからない人だから、2重の意味で安心できる人達。
これが何の力も持たない女性なら殿方が居た方が安心できるのだろうけど、私の場合は、そういうのは当てはまらない。
「それでは、用意をしてきますね」
レイルさんの返事を待たずに私は階段を上がる。
私の部屋は4階。
階段を上がって突き当りに部屋がある。
「ご主人たま!」
ベッドの上で転がっていた妖精ブラウニーが、空中を飛んできたあと私の頭の上に降りてきた。
「何も問題は起きなかった?」
「アルドーラ公国からの物流は順調でち!」
「そう。そしたら、アルドーラ公国の大公様に伝えてもらえる?」
「何をでちか?」
「2週間ほど、ミトンの町を留守にすること。それと穀物の輸出については転移系の魔法でお願いする旨を伝えて」
「分かったでち! でも、白色魔宝石が何個かあるなら、それを使って妖精をこの世界に繋ぎとめておく事が出来るでち!」
「――え? そうなの?」
「そうでち! 一日1個くらいあれば出来るでち!」
「へー」
妖精ブラウニーとは、リースノット王国で学生をしていた頃からの付き合いだけど、まだまだ知らない事があるのねと心の中で突っ込みを入れつつ、化粧台の引き出しを開ける。中には白色魔宝石が30個ほど入っていた。
そのうちから15個を取り出す。
「それじゃ、私が戻ってくるまでの2週間は、これでお願いできる?」
「分かったでち! 仲間にも言っておくでち!」
ブラウニーは小さめの麻袋の中に魔宝石を入れていくと空中に放りなげた。
するとフッと袋が突然消えてしまう。
おそらく転送系の魔法だと思うけど、妖精ブラウニーは謎が多いなと思ってしまった。
衛星都市エルノに向かうための用意をした後、トランクを持って階下に降りると馬車に馬が2頭繋がれていた。
「レイルさん!」
「用意は出来たようだな。メリッサとアクアリードについては、冒険者ギルド経由で話が行ったと思うが、もうしばらく用意に時間がかかるはずだ」
「わかりました」
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