公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

波乱万丈の王位簒奪レース(18)




「ふう」

 レイルさんが部屋から出て行ったあと、私は小さくため息をつきながら執務室のテーブルの上に倒れこんだ。
 彼には、リースノット王国に戻るかも知れないと言う話をしたけれども正直なところどうしたらいいのか自分では分からない。
 それに、アウラストウルスの件もあるし元の地球との関連性を考えると憂鬱になってしまうことは多い。

「次から次へと……、どうしたらいいものか。とりあえず、両親に会ってリースノット王国から王位簒奪レースの開催を早めてもらえるかどうか聞いてみないと……でも――」

 私が母国に戻っていいのか考えてしまう。
 だって私の特異性から多くの人が病に掛かっているのだから。
 
「ダメよ。私がすることを見失っては」

 自分自身に突っ込みを入れながら、まずはミトンの町に暮らす人たちの生活を守ることを優先にしないといけないことを自分に言い聞かせる。
 それに、海洋国家ルグニカの王位簒奪レースの対応もどうすればいいのかも考えないといけないし。

 私は椅子から立ち上がり壁にかけていたストールを羽織ると執務室から出て階段を下りていく。
 すると一人の兵士とすれ違った。

「ユウティーシア様、どちらへ行かれるのですか?」
「少し町を見て回ろうと思いまして」
「そうですか。何人か護衛につけますのでお待ち頂けますか?」
「よろしくお願いします」

 彼の言葉に私は頷き階段の傍で一人壁に寄っかかって待つことにする。
 一人でも特に町を歩くだけなら問題ないけれど、彼ら兵士には兵士としての役割があるから下手に断るとレイルさんに何か言われるかもしれないから。

「お待たせ致しました」
 
 兵士の方が二人の男性を連れて戻ってきた。
 二人とも金髪碧眼の偉丈夫な男性であったけれど、二人とも同じような鎧をつけて帯剣をしているから髭の在る無しでしか判断がつかない。
 せめて兜を外しておいてくれれば分かりやすいのに。

「自分はアヒルと言います」と、髭を生やした兵士さん。
「私はディルクです。女神様の護衛を任されるなど感涙に堪えません!」と髭を生やしていない兵士さん。

「ユウティーシアです。護衛をよろしくお願い致しますね」
「「畏まりました!」」

 私の言葉に彼らは少し顔を赤らめて答えてきたけど、どうかしたのかな?
 
「それでは、レイルさんには両親に会いに行くとだけ伝えておいてください」
「わかりました。このエルマー、命に代えましても!」
「えーと、そこまで肩肘を張らなくていいですからね?」

 どうも、ここの兵士さん達は私を神聖視しているような気がする。
 
「――あ!?」
「どうかしましたか?」
「エルマーさん、シュトロハイム公爵家夫妻が滞在している宿はご存知では無いですよね?」
「レイル隊長に聞いて参ります」

 そう言うと彼は走って階段を上がっていき数分して戻ってきた。
 その後ろにはレイルさんも付き添っていて。

「お前は、こんな時間に町に出かけるのか?」
「これからは、そんなに時間が取れないと思いますので――、それになるべく早めに対策は取った方がいいかと思いますので」
「ふむ……、分かった。アヒルとディルク、それとエルマー」
「「「はい」」」
「お前たち3人でユウティーシア令嬢を、宿屋【賛美歌の歌】まで案内するように」

 レイルさんの言葉に3人が頷く。
 それにしても【賛美歌の歌】と言う宿屋は聞いたことがない。

「不思議そうな顔をしているな?」
「はい。レイルさんは両親が泊まっている宿屋を把握していることに少し驚きました」
「先ほど、商館を扱っている商工会議のメンバーから報告があったんだ。公爵家は宿を取っているとな」
「そうだったのですか」
「ああ、一応は商工会議の一翼を担っているからな。町の中の重大情報は、共有しておかないとな」
「そうですね。それでは、行ってきます」

 代官が利用していた建物から出ると日はすっかりと沈んでいた。
 思ったよりも商工会議で時間が経過していたみたい。
 3人に護衛されて町の中を歩く。

「こちらが、宿になります」

 エルマーさん達が案内してくれた建物は煉瓦作りの立派な建物で。

「……娼館の近くにあるのですね」
「はい。その方が色々と便利ですから」

 私の質問にアヒルさんが答えてくるけど、【賛美歌の歌】に入っていく人の服装を見るに娼館で女性を購入した後の連れ込み宿を兼ねているのかも知れない。
 お金持ちが利用するための宿という側面もあるから、貴族も利用しているのかも知れないけど……。
 女に転生してきた私から見たら女性をお金で購入する殿方と言うのは複雑に思えてしまう。
 
 


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