公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

波乱万丈の王位簒奪レース(17)




 レイルさんの言葉に答えながらも、その可能性もありそうと心の中で私は呟く。
 何故なら衛星都市エルノで、カベル海将の息子が干渉はしてきたけど、それ以外にはスメラギの総督府からは接触はないから。
 
「どうかしたのか?」

 無言になった私にレイルさんが話しかけてくる。

「いえ。私が居ない時期にスメラギの総督府が何もしてこないのはおかしいと思いまして……。それに普通なら、自領内の町が他者に奪われたとしたら何かしらの絡め手を使ってくる可能性もありました。ですが、それをしてこないのは、やはり何かしらの事情があるとしか思えないので」
「なるほど」

 彼にも心当たりがあるのだろう。
 頷いている。

「ただ、それでも他国に影響を及ぼすほどの力を持つなんて……」

 私は口を閉じる。
 よく考えれば、他国に影響力を及ぼす事が出来る国家がある。
 それは、私の母国であるリースノット王国で。

「レイルさん」
「どうかしたのか?」
「スメラギの総督府が攻めてこない理由は、リースノット王国から何かしらの要請があったと私は考えているのですが――」
「ど、どうして……、そう思うんだ?」
「お父様とお母さまが、ミトンの町に来られたからです」

 私の言葉にレイルさんは顎に手を当てながら「なるほど」と浮かない表情で頷いて見せる。

「どうかしたのですか? やはり私の考察は間違っていますか?」
「そ、そんなことないぞ? それよりも、どうして君の両親が来ただけでリースノット王国がスメラギに干渉していると思ったんだ?」
「そもそも、ローレンス大陸は広い大陸です。多くの国が存在していて、多くの町や村や都市が存在しています。それなのに、ミトンの町に私が居ると知っていたのはおかしくないですか? 最初は、疑問には思っていなかったのですが良く考えてみるとお父様やお母さまが会いに来るのは何かしらの伝手があったとしか私には思えないのです」
「そ、そうか……」
「もしかしたら商工会議の中に私の情報をリースノット王国に流している人がいるかもしれないと思ったのですが……、恐らくその可能性は低いと思われます」
「そうなのか?」
「はい。お母さまが商工会議の場に現れた時の反応から見るに商工会議の人たちがリースノット王国に私の事を報告した可能性は……」
「そうだな」

 同意してきたレイルさんを見ながら私は、人差し指で伸ばしている艶のある黒髪を人差し指で弄りながら考え込む。
 でも、リースノット王国に商工会議の人間が情報を流していないとしたら、どうして私がミトンの町に居ることがお父様やお母さまにバレたのか? 中世に劣る文明の世界でGPSなどが存在しているとは思えない。
 やはり、どこからか情報が洩れているとしか思えない。

「やはりアルドーラ公国から情報が――。と、しか思えないですね」

 大規模取引をしているのだ。
 間違いなく情報がリースノット王国に流れていると思うのが普通だと思う。
 
「だが、やることは変わらないのだろう?」
 
 彼の言葉に私は頷く。
 そう、やることは変わらない。
 私の情報がどこから漏れていてもそうでなくとも王位簒奪レースに出ることは決まっていることだ。

「リースノット王国が絡んでいるのなら、王位簒奪レースの開催について逆に利用させてもらいましょう。私はミトンの町に長くは居られませんので、リースノット王国側から海洋国家ルグニカへ王位簒奪レースの開催を早めてもらうように依頼してみましょう」
「そんなことが可能なのか?」
「わかりませんが、私の婚姻に関してシュトロハイム公爵家やリースノット王国は強い関心をもっています。婚姻をチラつかせて帰ることを伝えれば……」

 ――そう。
 私にも私の立場がある。
 ミトンの町や、私の分身たる女性を守る使命だって。
 自分が関わったことに責任を持つのは社会人として当たり前のこと。

「本当に良いのか?」
「はい。どちらにせよ、一度は妹に会わないといけないと思っていますので……」

 レイルさんが私の言葉に「そうか」とため息交じりに答えてきた。




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