公爵令嬢は結婚したくない!
波乱万丈の王位簒奪レース(4)
私の問いかけに、ベッドの上で転がっている妖精が動きを止める。
「ご主人たまの所に来た理由でち?」
妖精――ブラウニーが首を傾げながら、答えてくる。
「うん。どうしてなの?」
「うーん。契約に従っているだけでち?」
「契約?」
私は、始めて出てきた契約と言う言葉に、引っかかりを覚えた。
この世界に転生してからというもの、妖精たちと私は契約を交わした覚えがないから――。
「そうでち! ずっと! ずっと! すごーい昔に、ご主人たまは契約をしたでち」
私は、ベッドの上に座る。
そして、ベッドの上で転がっていた妖精を両手で掬い上げるように持ち上げると、膝の上に乗せながら「すごい昔って何年前なの?」と、急かす気持ちを押さえつけながら、妖精に語りかけた。
「――よく覚えてないでち! 僕達、妖精が作られたのはご主人たまを守るためだったでち!」
「私を守るため?」
ウラヌス卿が、ケット・シーの妖精を使っていたのは知っている。
ただ、彼が妖精を直接行使していたかと言うと疑問の予知は浮かぶ。
「ねえ? ケット・シーも、貴女達と同じ妖精なのよね?」
「厳密に言うと違うでち。ケット・シーは、魔法で編まれた生物でち」
「魔法で編まれた?」
「でち!」
ブラウニーの話が、断片的すぎて話が纏まらない。
「ねえ? あなたたちは、魔法で編まれた訳じゃないの?」
「違うでち!」
ブラウニーは、ケット・シーとは一緒にしないで! と言った様子で元気よく首を振ってくる。
「それじゃ、ブラウニーは一体何なの?」
「僕達だけでは無いでち。 僕たち妖精は、ご主人たまの魔力の抑制をするため、そしてサポートをするために作られたでち。ある一定――、空間内での魔力濃度が規定値を超えた時に、顕現するように作られたでち」
「魔力濃度――?」
「でち! でも僕達でも、もう抑え切れないくらいの魔力をご主人たまは周囲に漏らしているでち」
「……ねえ? 貴方たちを作ったのは誰なの?」
「僕達を作ったのは、ご主人たまと草薙友哉でち」
「草薙友哉? まるで……、日本人みたいな名前ね……」
自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎながら私は、転生してきてからの記憶を遡っていく。
「やっぱり、記憶に無いわね……」
シュトロハイム公爵家令嬢として転生してきてから、草薙友哉と言う男に会ったことがない。
少なくとも私の交友関係に、妖精を作れるような知識を持つ人間は――。
「ウラヌス卿ではないのよね?」
「違うでち」
「そう……。15年間、この世界で暮らしてきたけど……、ウラヌス卿以外に妖精を使役している人間を見たことが無いわね」
「ご主人たま。僕達が作られた時期は、今から1万年前でちよ?」
「――え!?」
ブラウニーの言葉に私は驚く。
一万年前に私は居ないはずというか生まれてすらいない。
驚きのあまり「どういうことなの?」と、素で問いかけてしまう。
「僕達も、無数の同体から派生する固有体で作られているから、たくさんの情報を持っていても、すぐには答えられないでち。でも、僕達が作られたときに、ご主人たまはいくつかの話を聞かせてくれたでち」
「いくつかの話?」
妖精ブラウニーは、何度か頷くと私の肩の上に乗る。
「ご主人たまの体の中には、膨大な魔力が存在していること。そして、それは成人と共に開放されること。それにより他次元から、その力を手に入れようと侵略者が現れることでち」
「――え!? ちょっと……、まって!?」
私は、ブラウニーの言葉に頭を押さえる。
幾らなんでも話が突拍子すぎて――、ついていけない。
「それって、どういうこと? どうして――。ううん、まって……。人よりも遥かに強い魔力を有しているのは分かっているけど……」
「ご主人たま?」
「それが、他次元からの侵略者とどう関係があるの?」
「そこまでは僕も分からないでち」
「――そう」
妖精の言葉に私は小さく溜息をつく。
軽い気持ちで、私の元にどうして来たのか聞いたけど……。
返ってきた答えが、想像を超えていて眩暈がするくらいで――。
「……でも、一つだけ分かったことがある」
私の魔力が妖精に干渉していたことは、ブラウニーの言葉から分かってしまった。
それは――、私の魔力が周囲に影響を与えているというカベル海将の推論を裏付けるには十分で――。
「ねえ? 私の魔力が解放された場合の周囲に与える影響は、どのくらいなの?」
「僕たちを作ったご主人たまは、一週間も居られないと言っていたでち。それ以上、留まると死人が出るとも言ってたでち」
「……そう……なのね――」
たしかに言われて見れば、その通りだと思う。
数日しか居なかった、エルノの町ですら影響が出ていたから。
一週間ですら、私が留まるには危険な領域に達してしまうと思う。
「ねえ? あなた達を作った私は、他に何か言っていた?」
「地球を目指すって言っていたでち」
「地球? 地球って――」
この世界は、異世界のはずだけど……。
魔法なんて不思議な現象を起こす存在があるのに、同じ宇宙に存在しているなんて想像もつかな……い?
――待って。
たしか以前に聞いたことがある。
私が戦ったアウラストウルスは語っていた。
地球まで来いと。
そして、私は運び屋だと。
「つまり、この世界は地球と繋がっている?」
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