公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

否定されし存在(15)







「では、私はどうすれば……」

 私の言葉にカベル海将は、苦々しい表情を見せると「どうにもならない」と呟いてくる。
 何の飾りもない言葉。
 だからこそ理解してしまう。
 気がつけば私は椅子に体をもたれ掛けていた。

「とにかくだ。ミトンの町からの情報を君が得た内容から察するに数日は猶予期間があるが、出来るだけ早めに町から出て行ってもらいたい。君の膨大な魔力が罪も無い人に悪影響を意識――無意識に関わらず害を及ぼしているのだからな」
「……はい……」

 彼の言葉に頷くと、私はカベル海将の邸宅を出る。
 すると門前には、馬車が用意されていてマルスさんが待っていた。
 マルスさんは、一礼すると「市場までお送り致します」と語りかけてくる。
 私は、彼の言葉に頷くことしかできなかった。

 静かな高級住宅街を抜ける。
 すると賑やかな市場の様相が目に飛び込んできた。
 エルノの町はカベル海将がいるから、たぶんもう大丈夫だと思う。
 だけど、反旗を翻したミトンの町はどうなるのか?

「あの!」
「何でしょうか?」

 馬車の中――対面座席に座っているマルスさんは真っ直ぐに私を見てくる。
 彼に……権限があるとは思えない。
 でも、それでも――。
 
「私、ミトンの町に向かいたいのですが……」
「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム様。カベル海将から話は伺っていると思いますが、貴女は存在するだけで害を及ぼすほどの魔力を持っているのですよ? そんな、貴女がミトンの町へ向かえばどうなるか分かっているかと思いますが?」
「……分かっています」

 本当は、心の気持ちがまったくついていない。
 突然、病の原因が自分の――私の魔力が原因だと言われて「はい、そうですか」と、素直に納得できるわけがない。
 それに、ミトンの町は大きな問題も抱えている。
 それは総督府スメラギとの確執であり、それを何とかしない限りミトンの町の住民は安心して暮らせないはず……。

「――で、でも! 私にも責任があるのです!」
「責任?」
「はい! ミトンの町は総督府スメラギと交戦状態なのです。ですから……」

 時間稼ぎだというのは分かっている。
 それでも、町を一緒に作って守ってきたという思いはある。
 だから、最後くらいは……。
 最後くらいは?
 私は頭を振るう。
 最悪の方に物事を考えすぎている。
 魔力というのは制御すれば、指向性を与えていれば余計な魔力を周囲に拡散することはないはず。
 それは、ウラヌス公爵との実験で調べていた。
 だから、それを煮詰めていけば……。

「2週間後、王位簒奪レースを始めるそうです」
「王位簒奪レース? それって海洋国家ルグニカの王を決めるモノでしたっけ?」
「そうです。参加条件に必要なのは帆船を用意できることと、参加費用の金貨を用意するだけです」
「……もしかして国王になれば、海洋国家ルグニカの体制を変えることは……」
「無理でしょう。一国の后となるべく貴女も勉学を学んできたのでしょう? 海洋国家ルグニカは、持ち回りで王をしているだけで王は地方自治には口を出すことは出来ません」
「そうですか……」
「まぁ、貴女がこの国の王になれば違うかも知れませんが……」
「それは一体どういう……」 
「到着したようですね」

 彼は私の言葉には答えず停車した馬車から先に降りると再度、馬車の中へ入ってくる。

「お手を――」
「はい……」

 馬車から出るのに男性のエスコートをしてもらうのは、もう慣れたものだったけど……、今は何とも言えない気持ちで……。
 市場前で降りるとマルスさんが麻袋を私に差し出してきた。

「これは、カベル様よりの謝礼になります。旅の資金にしてほしいとの事です」
「ありがとうございます」

 よく考えれば、今の私はメリッサさんにお金を預けていたから無一文も同じだ。
 まぁ預けていると言っても大した額ではないけど……。

「いえ、それでは――」

 マルスさんは頭を下げると、馬車に乗り込んでしまう。
 海洋国家ルグニカ王家のついた馬車は、北へと戻っていく。
 おそらく、カベル海将の邸宅へと帰ったのだろう。
 みんなには帰る場所がある。

 ――でも、私には?

 カベル海将が言っていたことが本当なら……。
 私は、生きているだけで誰かの害になる。
 そんな私が帰るところなんて、どこにもない……。 
 そう考えると、周囲に見える光景が私にとって無意味なモノに見えてきてしまって……。

「いけない。まだ……そうと決まった訳じゃないんだから……」





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