公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

出張手当はつきますか?(13)

「ど、どうしますか? ユウティーシア様!」
「私に聞かれても……」

 アクアリードさんの言葉に、私もどうしようか迷う。
 町の状態が分からない状態で、下手に騒ぎを起こしても不味い気がする。

「待ってください! 私達は、エルノの冒険者ギルドの者です! 彼女を護衛している冒険者なのです。決して怪しい者ではありません!」

 メリッサさんが、腰に下げている皮袋からカードを取り出して兵士達に近づくと見せ始めた。

「なるほど……嘘は言っていないようだな……おい、お前達も身分証を出せ」

 私達を取り囲んでいる兵士達を統率してると思われる40歳前後の年配の男性が、私とアクアリードさんに向けて語りかけてきた。

「――は、はい!」

 アクアリードさんは、怯えた様子で年配の髭を生やした男性に冒険者カードを思われる物を渡した。

「ふむ――。次はお前だな」
「…………」

 冒険者カードを、アクアリードさんに返した年配の兵士は私に手を差し出してきた。
 私は彼の要請に無言で答える。

「どうした? 身分証がないのか?」
「……忘れました……」
「――何?」

 ――そう、急いでミトンの町を出てきたこともあり身分証を机の中に入れたまま、私は忘れてきてしまった。
 そこで、私は閃く!
 エルノの冒険者ギルドから依頼のあった手紙を渡せば身分証明になるのではないのかと言うことを!

「少しまっていてください」
「逃げたら、どうなるか分かっているだろうな? まぁ、そんなドレスを着ていて手足もそんなに細い女が逃げられるわけがないだろうがな!」

 兵士の言葉を背中越しに聞きながら、私は旅行バックを開けると中から手紙を取り出す。
 帆馬車から降りると、年配の兵士に手紙を渡す。
 彼は手紙を見ていくにつれ表情が険しくなっていく。

「間違いない、こいつらがカーネル様の言っていた冒険者ギルドの手の者だ。捕まえろ!」
「なん……だ……と……?」

 私は手紙を見せただけで、メリッサさんとアクアリードさんが拘束されたのを見て驚く。
 つまり、冒険者ギルドは、総督府から睨まれている状況にある? 
 ほんと、そういうのはキチンと書いておいてほしい。

「ようがあるのはコイツだけだ、他の女は好きにしていいぞ」

 先ほどまでの真面目そうな表情が一遍した年配の兵士は、私の体を嫌らしい粘りつくような眼差しで見てきた。
 特に胸とか胸とか胸とか――。

「いやああああああー」

 声がした方工を振り向くと押し倒されているアクアリードさんの声が――。
 さらには、口を塞がれて服というかビキニアーマーを剥ぎ取られた全裸のメリッサさんの姿も――。

「まさか……、女だけとは思わなかったから油断したが、なるほど……。こいつは上玉だな――」

 髭を生やした兵士は私の顎に手を当てると自身の唇を舐める。

「本当は3人とも、この場でやりたいんだが、まぁお前だけは冒険者ギルドの関係者らしいからな。この場では犯さないから感謝するんだな」
「――ふう……」

 私は、小さく溜息をつく。
 まったく、私は冒険者ギルドとは一切関係がないというのに……。
 要請も受けてないというのに……。
 何だか言いように動かされているようで気にいらないです。
 それに……。

「おい! 小僧ども!」

 俺は、前世と異世界で暮らした年齢を足すと60歳近い。
 この場では、一番の年長者だ。
 そして――。
 短い旅とは言え、俺の仲間に手を出すのは――。

「お前ら、この俺様の仲間に手を出して只で済むと思っているのか?」

 俺は顎に手を当てていた年配の兵士の指を掴むと捻る。
 それだけで年配の兵士が空中で一回転どころか3回転ほどした。

「――な、なんだ!? 何が……起きたんだ?」
「イルルク隊長!」
「くうう、笛を……。笛を鳴らせ!」

 どうやら年配の兵士はイルルクと言うらしいな。
 しかも隊長か……。
 ふむ……。

「アクアボール!」

 俺の言葉と同時に、空中に二つの魔法陣が平行展開される。
 そして詠唱も関係なく、1メートルほどの巨大な水球が凄まじい速さでメリッサとアクアリードを襲っていた男を吹き飛ばす。

「ユウティーシア様?」

 アクアリードとメリッサは、両腕で自身の体を隠している。
 俺は、帆馬車をウィンドカッターの魔法を真っ二つに破壊すると、旅行バックを開け彼女らに服を渡した。
 そして、その間にも次々と兵士は集まってきていて――。

「き、貴様! 魔法師だったのか! どうりで――。女だけの旅が……」

 イルルクは、俺が指を折ったからなのか怒りを滲ませた声で叫んできた。
 まぁ、戦闘状態に思考を切り替えた俺には、ゴミの話など、どうでもいいんだがな。

「メリッサ、アクア。お前らは、そこで見ていてくれ。下手に動かれると逆に戦いに巻き込む恐れがあるからな」
「ですが!?」

 俺は、メリッサの頭に手を乗せ「強がりはいいから、俺に任せておけ」と伝える。
 正直、彼女らに戦闘に入られると困る。

「わ、わかりました……」

 メリッサとアクアは、どうやら納得してくれたようだ。
 何故か知らないがメリッサだけは、頬を赤くして「すてき―ー」とか言っているが、お前は、そんなキャラではないだろう? と突っ込みを入れておきたい。

「――さて、待たせたな。ゴミ共」

 俺の言葉に、イルルクが額に青筋を立てた。
 ずいぶんと怒っているようで何よりだ。

「波状攻撃をしろ! もう捕らえなくてもよい! 奴を殺せ!」
「ふむ。この俺を殺せか……」

 身体強化魔法を発動。
 莫大ば魔力に物を言わせた肉体強化。
 それが刹那の時間で完成する。

 空気を切り裂いて突かれてくる槍。
 10本近い槍が四方八方から突き出されてきて俺の着ているドレスの布地を貫通し――。

「ば、ばかな……ど、どうしてだ……」

 一人の兵士が、驚愕な眼差しで恐怖を滲ませた声で言葉を紡ぐ。

「なんだ? ドレスの下に鎧などを着込んでいるのか?」

 俺を取り囲んでいた兵士達は、俺から一旦距離を取ると、何が起きたのか分からないといった表情でイルルクの方を見て指示を待つが――。

「ええい! 奴は魔法師だぞ! 物理防御結界か何かで防いでいるに違いない! 奴が反撃してこないのが、そのいい証拠だ! そんな結界など何時までも持つわけがない! 攻撃の手を緩めるな!」

 イルルクの言葉に兵士達は頷くと槍で俺を突いてくるが、今度は俺はその全てを素手で穂先の鉄ごと破壊した。
 俺の周囲に舞い散る鉄の破片。
 それらが、太陽の光を反射し光輝く。

「なん……だと……」

 イルルクが驚嘆な声色で、喉奥から言葉を搾り出している。




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