公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

出張手当はつきますか?(4)

 いつも通りの朝、そしていつも通りの髪の手入れをしてから、ワンピースに手を通す。
 本当は、レイルさんから、もっとおしゃれをするようにと言われているんだけど、私としては、あまり女性らしい格好は好まないし、ワンピースは頭から被るだけで済むから楽だったりするから、愛用していたりする。

 そんな私は、部屋から出ると階段を下りていく。

「よう、今日もいつも通り早いな?」
「レイルさんには負けます。少しは、ゆっくり出社してきてもいいんですよ?」
「時々、お前の言葉で分からない部分があるのは置いておくとして……今日も、届いているぞ?」
「またですか……」

 執務をしている部屋に入ると、机の上には二枚の手紙が置かれていた。
 一枚は、見覚えのある衛星都市エルノの冒険者ギルドから届く依頼書であり、もう一枚は無字の封筒というか……折りたたまれただけの紙。

「これは……」

 私は、初めてみた手紙を手に取る。
 触ってみても分かってしまう。

「どうしたんだ?」

 レイルさんが、私が困惑しているのに気がついたのか近づいてくると、私が手に持っていた手紙を見て意味深な表情を見せてくる。

「これは、封筒に入れてない手紙というか……」
「はい、たぶんですけど……。書くだけ書いて折りたたんで投函したものだと思います」
「なるほど、なるほど……。――で、どうするんだ?」
「手紙ですから見るしかないです」

 私は、丁寧に時間をかけて質の悪い紙を広げていく。
 力を入れすぎると破けてしまう。
 それほど、この世界の紙の質は悪い。
 大抵は、相手に手紙を出す時には、気を使って封筒に入れるのは主流なのだけど――。
 まったく、誰でしょうか?
 こういう常識を無視したような手紙を出す人は……。

「――えっ!?」

 私は、ようやく開くことが出来た手紙を見て声を上げてしまった。

「どうかしたのか?」

 私の様子に、椅子に座って書類整理をしていたレイルさんが気がつき話しかけてくる。

「これを――」

 私は、レイルさんに手紙を渡すとすぐに身支度を始める。
 もっていくのは、主夫業を20年近くしてきて会得した裁縫で作ったリュックサック。

 そして、そのリュックサックを背負う。

「お、おい! 落ち着け!」
「落ち着いていられません!」

 手紙の差出人は、リサちゃん。
 内容は、孤児院で暮らしている子ども達が、伝染病のようなモノに掛かり、熱が下がらないと書いてあった。 
 最初の感染時期は、私がエメラス・ド・ルグニカと決闘をした翌日からだと書かれている事から最低でも一週間以上は伝染病という病魔に蝕まれて……。

 レイルさんが私の腕を強めに握り締めて、部屋から出ようとした私の動きを邪魔してくる。
 心流行る私としては、少しでも早く子ども達を助けに行きたいのに!
 どうして邪魔を……。

「だから! 落ち着け! お前が、回復魔法の使い手だってことは知っているが、どんな伝染病か分からないんだろう? 手紙にも、伝染病ということは書かれているが、それ以上の事は書かれていない。そもそもミトン商工会議が威信を背負って運営している孤児院で伝染病が起きて、正規のルートを通らずに手紙で報告が上がってきている異常さに気がつくべきだろう?」
「――で、でも!」
「ああ、もう! どうして、普段は論理的に動いている癖に、子供たちの事になると、そう感情的になるんだ! お前は、ミトンの町を守る要なんだぞ? そんな、お前が原因不明の伝染病にかかったら、それこそルグニカ王家の思う壷だろうに……」

 レイルさんは、私の腕を強く握り締めながら語りかけてくる。

「……すいません。少し、頭に血が上っていました……」

 子供たちの安全のために、距離を置いたというのに……。
 その子供たちが危険に晒されていると知った途端、心が掻き乱されてしまい冷静さを失って、すぐに向かわないといけない気持ちになってしまった。
 まるで、私らしくない。
 前世の地球に居た頃の私なら、もっと冷静に物事を考えられたのに……。
 転生してからというもの、どうしても大事な人が危険な目に合ったり、合いそうになると衝動的に行動してしまう。

 これでは、まるで本当に普通の女のようで……。

「とりあえずは、商工会議を通して孤児院エリアを管理しているミューラさんに確認を取るのが最善だな」
「……そうですね……」

 レイルさんは、私の腕を引っ張り私を椅子に座らせながら、これからのことを言ってきたけど……。
 私には相槌を打つことしかできなかった。




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