公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

商工会議を設立しましょう!(20)

 「はあー……」と、レイルさんは、大きくため息をつくと私の頭を軽く叩きながら「男女で遊ぶってことは、男女の仲の事を言うんだぞ?」と、呆れた顔をして私に語ってくる。

「だ、男女の仲って……」
「肉体関係の事だな」

 私の言葉に被せるように、レイルさんは呟いてくる。
 え? つまり……私は、さっき肉体関係を結びましょう! と大声で――この世界の基準だと大声で話したってこと……?

「えっと……わ、私――」

 つ、つまり……私は道の真ん中で真昼間から宿屋前で、そういう話をしたと……。

「そ、それは本当の意味で?」
「ああ、そうだ」

 一瞬で、私自身の顔が熱くなる。
 まさか、男女で遊ぶという言葉の意味がそんな理由とはまったく想像もしていなかった。

 ――で、そのことに。
 その意味に気が付いていない私を見てレイルさんはため息をついて、すぐにミューラさんを遠ざけたと。

 ……って! 知ってるならミューラさんも忠告してくれればよかったに!
 デート作戦会議をしているときに、何度も話していたのに……ひどい!

「あ、あの――わ、私……そんな意味なんて知らなくて……」
「分かっている。シュトロハイム公爵家令嬢だからな――お前みたいな頭でっかちの世間知らずは、貴族向けの恋愛本に影響を受けているんだろうからな」
「うっ!?」

 おかしい、どうして恋愛本に影響を受けているとレイルさんは思うんだろう。
 レイルさんの様子を伺っていると。

「だって、お前――男の気持ちがまったく分かってないだろ?」

 え? 私が……男の人の気持ちが分かってない?
 いやいや、何を言っているんですか?
 私は、元・男だよ?
 それなのに男の人の気持ちが分かってないとか。

「――そ、そうですか……」

 でも、私が転生している事は誰にも言えないから、曖昧に答える事しかできない。
 だけど、私は気が付かなかった。
 レイルさんが私を見ながら「それにしても――」と、眉元を潜めながら一人呟いていたことに。



 ――翌日。

 子供達と一緒に朝食を食べ終わり、外のお庭でお布団を干しているとトーマスさんとミューラさんが姿を現した。
 二人とも、より添っていて。

「ユウティーシアさん!」

 ミューラさんの言葉に、私は「はい?」と言いながら首を傾げる。

「じつは……私とトーマスさんは付き合うことになって……」
「え? ど……そうなんですか。おめでとうございます」

 私は、どうして? と言う言葉を途中で呑み込んで祝福の言葉を紡ぐ。すると「ありがとうございます!」と、ミューラさんが近づいてくると、耳元で「さすがユウティーシアさんです! 男女で遊んだらトーマスさんを振り向かせる事ができました!」と、呟いてきた……けど、素直に「あ、はい」とは素直には頷けなかった。
 ただ――。

「ユウティーシアさん、約束通り後日――契約書を持参いたしますので、契約更新をお願いしますね」
「はい……」

 とりあえず借家の契約更新――私の名義で借りる事はできるようになったけど……なんだかもやもやする。
 そんな思いのまま、去っていく昨日と同じ服装のままのミューラさんを見て私はため息をついた。
 やっぱり、いろいろと元の世界である日本の常識と、この世界の常識は剥離がある。

「いろいろと難しいですね」
「え……っと!? 何が難しいんですか?」

 二人を見送って、頭を垂れながら呟いたところで誰かが私に話しかけてきた。
 頭を上げると。

「スペンサーさんですか? ずいぶんと早いんですね……まだ到着までに数日はかかると思っていましたが……」

 目の前には、赤いラインが入った王子様風の服を着た少し成長したスペンサーが立っている。
 そして、その横には4人の騎士とローブを着た魔法師らしき者が一人に、初老の男性がおり私を見てきている。
 そして――。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。アルドーラ公国フィンデル・ド・アルドーラ大公が君に会いにきたようだ。ここまで案内してきたが――」

 私はレイルさんの言葉を聞きながら、頷き返し。

「初めまして」

 私はスカートの裾を摘まみながら。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイムと申します。フィンデル大公様にお会いできまして光栄の至りです」




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