公爵令嬢は結婚したくない!
作られた溝
「貝になりたい……」
私は、暗い部屋の中でベッドの上で体育座りしながら一人つぶやく。
意識を取り戻したのは3日前。
どうやら私は精神系の攻撃魔法を受けていてそれで記憶と意識を操作されていたらしい。
でも……普通、洗脳されていた時の記憶って自我を取り戻したら消えるのが御約束なはずなのに、私の場合は――。
「どうして……鮮明に記憶に残っているの……」
本当、さいあくを通りこして最悪だった。
何が愛しの主様、愛しているあの方なのか……。
とてもじゃないけど、普通の考えの時にそんな事なんて普通は思わないし、考えもつかない。
しかもご褒美を強請る仕草まで鮮明に覚えている事もあり私の羞恥心はマッハだった。
もう、エイルぶっころすぞもらあああああってくらいだった。
それに――。
私は部屋の隅に立てかけられている黒いドレスを見る。
もう、それはドレスなんかじゃなくてスケスケの布地で作られていて、着たら肌が透けるような薄い布地の、どこの痴女が着るの? って! いうくらい娼婦が着て男性に媚びをうるようなドレスだった。
「私は貝になりたい……」
私は枕を抱きしめたままベッドの上で横になる。
それに妹の話だと、私はクラウス殿下からエイル王太子に乗り変えた挙句、媚びを売っているようにしか貴族学院では見られていなかったらしく、私の事を貴族学院に通っている師弟達は、チョロインとか言っているらしい。
ほんと……誰なんですかね? 私の事をチョロインとか言ってるおバカさんは……。
ここまでコケにされたのは初めてです。
ただで済むとは思わないでほしいですね。
いつか見つけて報復してやる。
「はあ……それにしても、ルアちゃんが殺されたのもアンネロ―ゼの父親が私に襲撃してきたのも、アンネローゼがクラウス殿下に近づいたのも全てスピカという女性が裏で糸を引いていたんですよね」
私は一人呟きながらも考える。
一体、スピカのという女性は何を考えていたのか想像に難くない。
でも一つだけ分かるとしたら、それはエイル元王太子が言っていた――私を殺す事こそがスピカの狙いだったと言う事。
つまり私がいると誰かに迷惑が掛ってしまう。
でも、どうしたらいいのか見当もつかない。
妹の話だと、私は通常の攻撃魔法には無類の強さを誇るらしいけど、精神系魔法にはまったく耐久がないから簡単に操られてしまうらしい。
どうすれば耐久がつくか聞いたら、「お姉ちゃんの性格だと難しいかな?」とだけ言っていた。
意味がわかんない。
「はぁ……憂鬱です」
私は布団を被ってもう寝ようと思った所で、部屋の扉が数度叩かれた。
「はい、どなたでしょうか?」
私の部屋の扉の外側には5人の王宮魔法師と5人の近衛兵が守備についている。
それに、私の食事や着替えのサポートをするメイドさん達も8人もいて全員が武芸を嗜んでいるらしく王家が私の護衛をどれだけ優先しているのか、その本気具合が分かってしまう。
「……ユウティーシア、少しいいか?」
聞こえてきた声はクラウス殿下のものだった。
私は王家の方には恐怖しか無かった。
一瞬、体を強張らせてしまう。
「良くないです。早く帰ってください! 衛兵の方は何をしているんですか?」
私は震える声で扉の外にいるクラウス殿下から少しでも扉から離れようとベッドの上を移動する。
「すまない……ユウティーシアに迷惑をかけていた事は重々承知している。本当にすまなかったと思う」
クラウス殿下は私に謝罪の意を示してくれるけど、私にはそんな事はどうでもよかった。
もう貴族も王族も私には恐怖の対象でしかない。
私の力を利用しようとしてくる人間ばかりで、一生懸命頑張ってきたのに……それでも私を利用しようとしてくる人ばかりに私はもう――。
「すまなかったと思うなら、もう放っておいてください! 私は、もう貴方にも王族の方にも貴族の方も怖いんです! ですから! もう関わらないで! 近寄らないで! 話しかけないでください!」
「――そうか、すまなかった」
しばらくすると、一人分の足音が遠ざかる音が聞こえてきた。
私は、ホッと胸を撫で下ろすと体が震えている事に気がつく。
「これではまるで……本当に普通の女の子みたいですね」
私は自嘲気味に笑ってしまう。
もう心が折れてしまった。
立ち上がる力が気力が沸き上がってこない。
「お姉ちゃん?」
そんな時、部屋の扉を開けて妹がベッドに近寄ってきた。
でも、私には妹をまっすぐ見る勇気が無かった。
散々、妹に八つ当たりして今更姉の威厳もなにも在ったものじゃない。
「アリシア、ごめんなさいね」
私は妹に謝罪する。
3週間、私はずっとエイルに見せられていた悪夢に引き摺られて妹を嫌って罵倒していた。
妹が傷ついてもその事に優越感すら抱いていた。
私は、お姉ちゃん失格。
「もう! お姉ちゃんはずっと私に謝り続けるつもりなの? もうその事はいいって言ったじゃない?」
10歳とは思えないほどアリシアが私の事を気遣ってくれる。
これではどちらが姉か分からないくらい。
だからこそ、余計に惨めに感じてしまう。
本当に私は姉としては駄目だ。
「お姉ちゃん、この子」
妹が差し出してきた生き物を見て私は息をのむ、
その子は――。
「ルアちゃん?」
私が名前を呼ぶと「ワン!」といつものように吠えて妹の手から離れるとベッドの上に乗って私に近づいてきた。
毛並みを触るとルアちゃん特有のふわふわな毛並みを感じる。
そこでようやく私は、アリシアの妹の顔を見る。
表情からは何を考えているか良く分からない。
「その子はね、クラウスさんがね――落ち込んでいるお姉ちゃんの為にね必死に消滅した際の使い魔の残存魔力をかき集めて自分の命を代償にして作り上げたんだよ? 本当に羨ましい……どうしてお姉ちゃんばかり皆にチヤホヤされるのか見ていてモヤモヤする! お父さんもお母さんもクラウスさんも王様も貴族学院の庶民の人達もみんなお姉ちゃんばかり心配しているもの。どうして、お姉ちゃんは――そんなに自分を大事にしないの? 私には分からないよ!」
私が自分を大事にしない?
そんな事はないのに……。
アリシアが何を言っているのか分からない。
でも、誤解は解かないといけない。
「アリシア、そんな事ないわ。私はいつも自分第一よ?」
「本当に? ならどうしてあんな言葉が出てくるの?」
「あんな言葉?」
私の言葉にアリシアは頷いてくる。
「だってお姉ちゃん、自分を理解しているのは、って言っていたよね? 洗脳されているときに――」
「それは――洗脳されていたから……」
「ううん、洗脳されている人はそんな事言わないから! お姉ちゃんは何を隠しているの?」
私は、ルアちゃんを強く抱きしめる。
体の震えが止まらない。
アリシアと家族には私が元日本人で男性だったという事実は気付かれたらいけない。
だって知られたら嫌われてしまうから。
だから、この秘密だけは絶対に言ったらダメ。
「気のせいよ。私は自分の事を大事にしているし、よく在る事じゃないの。それとね、今日はもう疲れたから私は寝るから――」
「…………分かった」
妹はそれだけ言うと部屋から出て行った。
まるで、いつもの妹じゃないみたい。
私は溜息をつきながらルアちゃんの頭を撫でた。
そして妹が言っていた言葉を思い出す。
ルアちゃんは私を元気付けようとしたクラウス様が、自分の命を代償にしてまで作り上げてくれた存在。
クラウス様は、一度は私が助けようとしたルアちゃんを見捨てたのに……どうして今更……。
訳が分からない。
ベッドの中でうつ伏せになった私の顔をルアちゃんが舐めてくる。
反応が消える前にルアちゃんにそっくり。
「私はどうしたらいいんでしょうか……。やっぱり私が日本人だとバレる前に国から出た方がいいべきなんでしょうか? 私の命を狙ってきている方もいるようですし、それがベストかもしれません……」
私はルアちゃんを撫でながら一人、考え込んだ。
私は、暗い部屋の中でベッドの上で体育座りしながら一人つぶやく。
意識を取り戻したのは3日前。
どうやら私は精神系の攻撃魔法を受けていてそれで記憶と意識を操作されていたらしい。
でも……普通、洗脳されていた時の記憶って自我を取り戻したら消えるのが御約束なはずなのに、私の場合は――。
「どうして……鮮明に記憶に残っているの……」
本当、さいあくを通りこして最悪だった。
何が愛しの主様、愛しているあの方なのか……。
とてもじゃないけど、普通の考えの時にそんな事なんて普通は思わないし、考えもつかない。
しかもご褒美を強請る仕草まで鮮明に覚えている事もあり私の羞恥心はマッハだった。
もう、エイルぶっころすぞもらあああああってくらいだった。
それに――。
私は部屋の隅に立てかけられている黒いドレスを見る。
もう、それはドレスなんかじゃなくてスケスケの布地で作られていて、着たら肌が透けるような薄い布地の、どこの痴女が着るの? って! いうくらい娼婦が着て男性に媚びをうるようなドレスだった。
「私は貝になりたい……」
私は枕を抱きしめたままベッドの上で横になる。
それに妹の話だと、私はクラウス殿下からエイル王太子に乗り変えた挙句、媚びを売っているようにしか貴族学院では見られていなかったらしく、私の事を貴族学院に通っている師弟達は、チョロインとか言っているらしい。
ほんと……誰なんですかね? 私の事をチョロインとか言ってるおバカさんは……。
ここまでコケにされたのは初めてです。
ただで済むとは思わないでほしいですね。
いつか見つけて報復してやる。
「はあ……それにしても、ルアちゃんが殺されたのもアンネロ―ゼの父親が私に襲撃してきたのも、アンネローゼがクラウス殿下に近づいたのも全てスピカという女性が裏で糸を引いていたんですよね」
私は一人呟きながらも考える。
一体、スピカのという女性は何を考えていたのか想像に難くない。
でも一つだけ分かるとしたら、それはエイル元王太子が言っていた――私を殺す事こそがスピカの狙いだったと言う事。
つまり私がいると誰かに迷惑が掛ってしまう。
でも、どうしたらいいのか見当もつかない。
妹の話だと、私は通常の攻撃魔法には無類の強さを誇るらしいけど、精神系魔法にはまったく耐久がないから簡単に操られてしまうらしい。
どうすれば耐久がつくか聞いたら、「お姉ちゃんの性格だと難しいかな?」とだけ言っていた。
意味がわかんない。
「はぁ……憂鬱です」
私は布団を被ってもう寝ようと思った所で、部屋の扉が数度叩かれた。
「はい、どなたでしょうか?」
私の部屋の扉の外側には5人の王宮魔法師と5人の近衛兵が守備についている。
それに、私の食事や着替えのサポートをするメイドさん達も8人もいて全員が武芸を嗜んでいるらしく王家が私の護衛をどれだけ優先しているのか、その本気具合が分かってしまう。
「……ユウティーシア、少しいいか?」
聞こえてきた声はクラウス殿下のものだった。
私は王家の方には恐怖しか無かった。
一瞬、体を強張らせてしまう。
「良くないです。早く帰ってください! 衛兵の方は何をしているんですか?」
私は震える声で扉の外にいるクラウス殿下から少しでも扉から離れようとベッドの上を移動する。
「すまない……ユウティーシアに迷惑をかけていた事は重々承知している。本当にすまなかったと思う」
クラウス殿下は私に謝罪の意を示してくれるけど、私にはそんな事はどうでもよかった。
もう貴族も王族も私には恐怖の対象でしかない。
私の力を利用しようとしてくる人間ばかりで、一生懸命頑張ってきたのに……それでも私を利用しようとしてくる人ばかりに私はもう――。
「すまなかったと思うなら、もう放っておいてください! 私は、もう貴方にも王族の方にも貴族の方も怖いんです! ですから! もう関わらないで! 近寄らないで! 話しかけないでください!」
「――そうか、すまなかった」
しばらくすると、一人分の足音が遠ざかる音が聞こえてきた。
私は、ホッと胸を撫で下ろすと体が震えている事に気がつく。
「これではまるで……本当に普通の女の子みたいですね」
私は自嘲気味に笑ってしまう。
もう心が折れてしまった。
立ち上がる力が気力が沸き上がってこない。
「お姉ちゃん?」
そんな時、部屋の扉を開けて妹がベッドに近寄ってきた。
でも、私には妹をまっすぐ見る勇気が無かった。
散々、妹に八つ当たりして今更姉の威厳もなにも在ったものじゃない。
「アリシア、ごめんなさいね」
私は妹に謝罪する。
3週間、私はずっとエイルに見せられていた悪夢に引き摺られて妹を嫌って罵倒していた。
妹が傷ついてもその事に優越感すら抱いていた。
私は、お姉ちゃん失格。
「もう! お姉ちゃんはずっと私に謝り続けるつもりなの? もうその事はいいって言ったじゃない?」
10歳とは思えないほどアリシアが私の事を気遣ってくれる。
これではどちらが姉か分からないくらい。
だからこそ、余計に惨めに感じてしまう。
本当に私は姉としては駄目だ。
「お姉ちゃん、この子」
妹が差し出してきた生き物を見て私は息をのむ、
その子は――。
「ルアちゃん?」
私が名前を呼ぶと「ワン!」といつものように吠えて妹の手から離れるとベッドの上に乗って私に近づいてきた。
毛並みを触るとルアちゃん特有のふわふわな毛並みを感じる。
そこでようやく私は、アリシアの妹の顔を見る。
表情からは何を考えているか良く分からない。
「その子はね、クラウスさんがね――落ち込んでいるお姉ちゃんの為にね必死に消滅した際の使い魔の残存魔力をかき集めて自分の命を代償にして作り上げたんだよ? 本当に羨ましい……どうしてお姉ちゃんばかり皆にチヤホヤされるのか見ていてモヤモヤする! お父さんもお母さんもクラウスさんも王様も貴族学院の庶民の人達もみんなお姉ちゃんばかり心配しているもの。どうして、お姉ちゃんは――そんなに自分を大事にしないの? 私には分からないよ!」
私が自分を大事にしない?
そんな事はないのに……。
アリシアが何を言っているのか分からない。
でも、誤解は解かないといけない。
「アリシア、そんな事ないわ。私はいつも自分第一よ?」
「本当に? ならどうしてあんな言葉が出てくるの?」
「あんな言葉?」
私の言葉にアリシアは頷いてくる。
「だってお姉ちゃん、自分を理解しているのは、って言っていたよね? 洗脳されているときに――」
「それは――洗脳されていたから……」
「ううん、洗脳されている人はそんな事言わないから! お姉ちゃんは何を隠しているの?」
私は、ルアちゃんを強く抱きしめる。
体の震えが止まらない。
アリシアと家族には私が元日本人で男性だったという事実は気付かれたらいけない。
だって知られたら嫌われてしまうから。
だから、この秘密だけは絶対に言ったらダメ。
「気のせいよ。私は自分の事を大事にしているし、よく在る事じゃないの。それとね、今日はもう疲れたから私は寝るから――」
「…………分かった」
妹はそれだけ言うと部屋から出て行った。
まるで、いつもの妹じゃないみたい。
私は溜息をつきながらルアちゃんの頭を撫でた。
そして妹が言っていた言葉を思い出す。
ルアちゃんは私を元気付けようとしたクラウス様が、自分の命を代償にしてまで作り上げてくれた存在。
クラウス様は、一度は私が助けようとしたルアちゃんを見捨てたのに……どうして今更……。
訳が分からない。
ベッドの中でうつ伏せになった私の顔をルアちゃんが舐めてくる。
反応が消える前にルアちゃんにそっくり。
「私はどうしたらいいんでしょうか……。やっぱり私が日本人だとバレる前に国から出た方がいいべきなんでしょうか? 私の命を狙ってきている方もいるようですし、それがベストかもしれません……」
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