公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

襲撃日の翌朝

「こんな夜に、どちらへ行くんだ?」
 私の言葉に、彼らは脚を止めた。

「お前は誰だ?」
 男達の中から進みでてきた一人が私に話しかけきた。
 質問に質問で返すとは……。

「まずは貴殿らの目的を教えてもらいたいものだ。ここから、後ろには女子寮しかないがそれを知らぬ訳ではあるまいな?」
 彼らは私の言葉を聞いて互いに目配せあっている。

「ふ。まあいい。我が名はマクスウェル。全ての妖精を司りし万物なる祖にして妖精王。盟約により、この館を守護する者。小さき存在よ、貴殿らは何の目的で来たかは知らぬが、正当な理由も無く――」
 話しながら、私は肉体強化の魔法を使ったまま、手を振るう。
 それにより真空の刃が放たれた。
 その瞬間、爆風が吹き荒れる。
 地面に激突した真空の刃が地面を抉り小石を砕き、それらが男達に降り注ぐ。
 そして溝の幅は10センチ、深さ3センチ、横一直線につけられた線の長さは30メートルの跡が地面につけられた。

「――その線からは脚を踏み入れるようなら容赦はせぬぞ?」
 私の言葉と、今し方発生した魔法の威力により彼らは、動くことが出来ずにいた。

「もう一度聞こう。貴殿らは何の目的で夜分に、我が守護するこの館に近づいた?」
 私の言葉に彼らの雰囲気が変わる。

「ユウティーシアを殺せと言われたが、こいつを手に入れた方が金になるな。てめーら! 対魔法戦闘の準備だ!」
 私は彼らが何かを飲んでいたのを見て頭を傾げた。

「くくく、これで俺達には中級魔法以上ではないと魔法は効かないぜ? 知っているんだぜ。この国では魔法力が強い奴がほとんどいないんだろ? なら自然と妖精の力も弱まるよな!」
 男達は、腰からダガーやショートソードを抜くと私に向けてきた。

「それにいくらお前が魔法で強くても……「飲み水生成」……え? がぼぼぼぼぼぼ」
 男達が話している間に発動させた生活魔法の一つ、飲み水作成。
 この魔法は魔法陣、詠唱が必要ない代わりに魔法力を消費してコップ一杯分の水を作り出す魔法。
 ただ、私の場合は少し特殊で、コップ一杯分の水を作る場合に、空中に魔法陣を描いた後、対象を指定し詠唱を紡ぎ、言葉を発しなければいけない。
 そうしないと……。
 男達みたいに突然発生した大津波に近い生水をその身で受けることになる。

「ぎゃああああああああ」
「お、おれ……およげ……ぶくぶく」
「死ぬ! しぬうう」

エトセトラエトセトラ。

 気がつけば男達は、私の作り出した本気の飲み水魔法。別名ダイダルウェーブによりはるか数百メートル先まで流されていった。

 以前、戦った事があるユニコーンのエンブレムをつけていた人間は一人だけでもかなりの手練だった。
 それに比べれば今回の、20人の男達は弱すぎる。
 背後関係をきちんと調べる必要があるかもしれない。
 私は縄で彼らを縛った後に貴族学院の王都警備隊へ連絡に向かう。
 連絡と言っても貴族学院の出入り口に派出所があるから、そこまで報告にいくだけで。

「すいません」
 私はフードを外したまま、王都警備隊の男に話しかける。
 男は髭を生やした体格のいい男だった。

「不審人物がおりましたで報告にまいりました。お願いできませんか?」
 私は頭を傾げながら男の反応を待つ。
 20人もの不審な男が、ここを通ったのならこの男もグルという事になる、

「不審人物ですと? 案内してもらえますかな?」
 男は傍らに置いていた刃引きしてあるブロードソードを持つと私の後についてきた。
 そして……。 

「これは……この者たちは、半年後に開かれる貴族学院の魔演武の会場建設に来ていた人達ですな」
 なるほど……。
 つまり、彼らは貴族学院から仕事を受けていた人たちと言う事ですか。

「すぐにこちらで対応をします。シュトロハイム家の御令嬢ユウティーシア様でよろしかったですかな?」
 私は目を大きく見開いた。
 フードを外していたとは言え、私の事を知っている一回の王都警備隊の人がいる事に驚きを隠せなかった。

「自分の名前は、ラスクと言うんですが覚えてはいらっしゃらないですな。以前は、王城で国王陛下様の部屋に通じる通路の警備をしていたんですが……」
 そういえば、一度だけ王城に行った記憶が……。
 あまり気にしていなかった事もあり殆ど覚えていませんね。

「申し訳ありません。ですが今回はきちんと覚えましたわ。ラスク様ですね?」
 彼は頭を掻きながら。

「では、あとはこちらで調べておきます。何かあれば後でご報告に窺いますので」
 それだけラスクは言うと笛を鳴らす。

 しばらくすると大勢の警備隊の人たちが集まってくる。
 私はそれを見ながら、思ったよりもアッサリと終わったことに安堵のため息をついた。

 女子寮に戻り、女子寮の両扉開いて中に入ると、そこにはスプリガンさん達が居た。

「終わりましたか?」
 眼鏡をかけた生徒会長風のスプリガンさんが私に話しかけてくる。
 スプリガンさんと視線を絡ませながら。

「はい、終わりました」
 とだけ告げると私は自分の部屋に戻る。
 まだブラウニーさんは来てないみたい。
 ほっと一息つくと私はその場に座り込んでしまった。
 どうやらかなり気をはっていたみたい。
 そんな私の顔に、ケットシーがぶつかってきた。

「そんな青白い顔していて何しとんねん」
 私の顔に体当たりしてきたのはケットシ―。
 ケットシ―は私の膝の上に座ると丸くなって寝てしまった。

「青白い顔ですか……」
 私は一人呟きながらも立てない自分に苦笑いしかでなかった。
 もっと一人でも生きていけるくらい強くならないとダメですね。
 私はしばらく座って、ケットシ―の白い毛並みを弄っているとケットシ―が私を見上げた後、立ち上がってそのまま部屋から出ていった。

 私は、モフモフな毛並みを惜しみながらも立ちあがり部屋着に着替えるとベッドに横になった。

 ――そして翌日。

 いつもと違って、20人以上の朝食を作る。
 そして皆と食堂で朝食を食べたあと、女子寮を出る。
 するとそこには……。

「貴様ら! 何をしている!? いつ敵が攻めてくるか分からないんだぞ!」
 ガタイの良い2メートルはあるハデス公爵様が、そこには居た。
 ハデス公爵様は、100人以上の騎士達に次々を指示して陣地を作り上げていっている。
 その様子は、要人を守る一つの軍隊のようで……
 一体どうなっているか想像がつかない。

 あれ? あそこにはグルガード国王陛下もいるような?
 目をゴシゴシして見るとやっぱり国王陛下がいる。
 30人もの近衛兵を連れている。
 一体、何が起きたのか……。
 朝なのにあまり頭が働いていないのに。
 超展開すぎて私は茫然と佇んでいると――。

「ティア!」
 ――自分の名前を呼ばれた、
 後ろを振り返ると、そこには眉根を顰めているお父様と、お母様にウラヌス卿が立っていた。


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