あいしたい

「ランス悪いな泊めてもらって」

「大丈夫だよ〜。この家やたら広いくせに僕と父さん母さんに使用人5人しか住んでないからね。空き部屋ならエギル君たちが泊まれるくらいはあるしね…それに元はと言えばアドラちゃんに何しても構わないって言っちゃった僕のせいでもあるしね」

「そのアドラはどこにいるんだ？」

「今日は他の子と一緒にもとに戻ってるよ。僕が呼べばいつでも来るけど呼ぶ？」

「いや大丈夫だ」

「ブレイさん、泊めていただきありがとうございます」

親父はランスの父親と握手を交わす。

「いえ、構いませんよルーカス侯爵。賑やかになっていいですしね。それにルーカス侯爵は何かと敵が多いこのような状況なってしまったのならできるだけ知り合いのところで泊まるべきですしね」

「そうですね。その配慮にも感謝します」

おお、あのダメ父な2人が貴族っぽい会話してる。
俺はそんな2人に感心しつつ横目で目の前の女性を見る。

「シエル様、久しぶりです〜」

女性はその可愛らしい顔に太陽のような満開の笑みを浮かべ母さんに抱きつく。
その女性は成人にしては少し背が小さく童顔をし、オレンジがかった肩まで伸ばしたウェーブのかかる髪をしている。
母さんはその女性に抱きつき返し挨拶の抱擁を終える。

「ええ、お久しぶりですねオリビア様。相変わらず同い年とは思えませんね」

「む〜！それは私を馬鹿にしてるのですか〜？シエル様」

オリビアと呼ばれた女性は子供っぽく頰を膨らませる。だいたい察しはつくだろうがこの女性はオリビア・アダドーロ、ランスの母親だ。
ランスの子どもっぽい顔つきはきっとこの母親の童顔に似たのだろうな。

さてそろそろなんで俺たちがこの家にいるのかが知りたくなってるはずだ…まあわかるよな。
そうです家がぶち壊れ修理の間行く宛のない俺たちルーカス家が宿に泊まろうとした時ランスが自分の家に泊めてあげると言ってきたのだ。
ランスはごくたまに…いや時々…いやいやほぼ毎日何かとうざいと思うがまあこういう何気ない優しさがあるから俺もこいつを友人として見れるのだと思う。

「うわわ！エギル兄ちゃん！あれすごい！鎧の置物だあー！」

「ミャー」

「…こ…子猫…さん…か、かわ…いい」

ジュンスとレイナも見慣れない家でテンションがアゲアゲなようだ。それはそれでいいのだがジュンス興奮して鎧の膝の関節部位を執拗に殴るな。ひしゃげてきてるぞ。
レイナもランスの家で飼ってる子猫を見て喜ぶのはいいがあまり興奮しないほうがいい。子猫がレイナの眼力で怯えてるぞ。

「ジュンス、はしゃぐのはいいが程々にしろよ。レイナ、子猫さんは怖がってるぞ。もうちょっと落ち着いて撫でてあげてくれ」

「はーい」

「あ…子猫さん…ごめんなさい」

「ミャー」

レイナに撫でられている子猫は怯えた表情が一変し気持ちよさそうに喉を鳴らす。

「ジュンス君、レイナちゃん。ちょっと今いいかな？」

ランスの声に反応しジュンスとレイナはそれぞれ遊びや子猫との戯れを終わらしすぐにランスのもとに駆け寄る。

「なんだ？ランス兄姉ちゃん」

「…なんですか？…ランスお兄姉様」

「んー兄だけでいいんだけどな〜まあいいか。はいこれ、君たちの部屋の鍵だよ。無くさないようにね」

「わかった！」

「…はい」

「部屋の位置は二階の一番奥だから外がよく見えるよ」

「ほんと！？レナ！行こう！」

「うん」

2人はトコトコと走って階段を上がり部屋へと向かって行った。

「エギル君、君の部屋は二階の奥からニ番目の部屋でいいかな？」

「ああ、そこで頼む」

「オッケ〜。じゃあ鍵ミアちゃんに渡しとくね〜」

「まて何故俺の部屋なのにミアに鍵を渡すんだ？」

俺はランスの肩を掴む。ランスはキョトンとした顔をして振り向く。

「え？だってさっきシエルさんに部屋割りどうすればいいかって聞いたらいつもギルとミアちゃんはいつも同じ部屋で寝てるから同じ部屋にしてあげてって」

「母さん！どういうことですか！」

俺はオリビアさんに抱きつかれている母さんに叫ぶと母さんはなんて事もない顔で

「あら？一緒に寝てなかったかしら？」

「寝てないよ！…いや寝たけどさあ！寝てないよ！」

「なんだ寝てるんじゃん。じゃあいいよね。はいミアちゃん鍵だよ〜」

ランスは鍵をミアにポンっと放り投げる。ミアは取り損ないそうになりながらもしっかりと握る。

「え？わたた！あ、うん…へ！？え、エギルと同じ部屋！…そ、そんな…初夜にしては…は、早くないかな？」

「いや違えよ！」

「えー！…いっしょの部屋じゃダメなの？」

ミアは涙目で上目遣いをする。

「う…いや、ミアがいいならそれでいいけど…」

「じゃ同じ部屋で！」

俺がああとぶっきらぼうに返事をするとミアは飛び上がりそうな勢いで部屋目指し走り去っていった。

「いや〜愛し合う2人っていいね〜…愛し合う僕も死体を愛死体…キリッ！」

「いや何上手いこと言いましたよみたいな雰囲気出してんだよ」

「蹴鞠負け下から読んでも蹴鞠負け…キリッ！」

「いや確かにそうだがだからなんなんだ？」

「明日から学園なんだ嫌だなぁ〜…キリッ！」

「さっきからなんだよ！あとそのキリッ！ってやめろ！キリッ！って！ムカつくんだよ！…ん？まてなんだ？学園って？」

「え？あーそういえばエギル君って最近帰ってきたばっかりだもんね。僕というかこの国の転生者は学園に通ってるんだよ貴族じゃない人たちも含めてね」

「ほー…それって俺も行ってもいいのか？」

ランスは驚いた表情で俺を見る。

「な、なんだよ」

「いや…あのぶっきらぼうでいつもやること全部だるそうな君がそんなこと言い出すからびっくりしたんだよ」

「普通に面白そうだろ。学園…なんか楽しそうだ」

「へー君でも楽しいとか思うんだね」

「ああ、この世界の歴史も今の状況もそれに魔法だってランス達に比べたら全然理解してないからな。それを学べる場があるなら是非通いたい」

「はー…そういえば君って転生前ガリ勉だったよね」

「よし、そうと決まれば事は早いに越したことはないな。親父に頼んでみる」

「そ〜、僕は眠いからもう寝るよ。君も早く寝なよ。おやすみ〜」

ランスは欠伸をしながら階段を上って行く。俺はランスを見もせず軽く後ろに手を振り親父に向かって行く。親父はまだ話している最中のようだが構いなしに話に割り込む。

「父さん」

「…そうですね。ん？どうしたギル」

「父さん俺ランスの通っている学園に通いたいんですけど」

「学園？…ああ、そのことなら安心しろ。ギルに言われる前にすでに転入用紙をギルとミアちゃんの分書いて学園に出したから」

「え？」

…あれ？うちの父親はこんな優秀だったか？そんないう前にすでにやっておきました！みたいな芸当が出来るような頭をしているとは思っていなかった。

「…あ、そうですか…本当に？」

「ああ」

「…本当の本当に？」

「本当の本当だ。三日後転入試験があるから準備しとけよ」

「わかりました…三日後ですか？」

「言い忘れてたんだ。許せ」

ああ…やっぱり親父は親父だな。なんかどこか抜けてる方がホッとするこの謎。俺は一生解けない気がする。

「じゃあ俺はもう部屋に戻ります。アダドーロ男爵様部屋を貸していただき本当にありがとうございました」

「構わん。私はただ友に手を貸しただけだ」

俺は一礼すると部屋へ向かった。部屋に入るとミアが抱き枕を抱きしめてベッドに転がっている。

「あ、やっと来た。エギル何してたの？」

「ちょっとな。ミア、三日後に俺たち学園に転入するって話に聞いてたか？」

「え、私たち学校行くの？」

「ああ」

ミアは立ち上がるとベットの上で嬉しそうにジャンプする。

「やったー！この世界きてから学校なんて行く機会なかったから嬉しい！そうと決まればさっさと寝ようよ！三日後に備えてさ！」

「三日後に備えてってどういうことだよ…まあそうだな。寝るか」

俺はミアの寝ているベットの隣のベッドに腰をかける。

「今日はいろいろあったな…ミア？」

「…くぅ〜…くぅ〜」

隣を見るとミアは横になり抱き枕を抱えすでに寝に入っている。

「相変わらず寝るのだけは早いな…おやすみ」

俺は軽く微笑むとベットに潜り込んだ。