れいぶる~自宅警備隊~
優梨奈誘拐事件②
ーー鏡面世界第九支部某公園。
「神崎 カケルは現れるかしら?」
「現れるんじゃない。妹のためなら」
「ーー果たして本当に一人でくるかしら」
公園には第九支部のメンバーが総揃いで待ち構えている。
女子ばかりのみの異様な雰囲気が漂っている。まるでアイドルのコンサートが始まるのかと思うような気さえする。
「ーー姫ちゃんそろそろ時間よ」
静まり返る公園内。
その無音を掻き消すようにゆっくりと近づく足跡ーー
「ーー来たわね・・・神崎カケル」
乙姫は不敵な笑みを浮かべた。
怒りにも似た圧倒的な魔導量ーー魔導感知できない自宅警備員にも分かるほどの悍ましい魔導力、第九支部のメンバーは後退りする。
「ーー優梨奈はどこだ?」
「さあ、どこかしら」
「自分で捜したらどうかしら」
早坂姉妹は挑発するようにお惚けてみせる。
「どこだって聞いてんだよ!!!」
魔導量を全開放する。
鏡面世界が歪む程の魔導力に目を丸くして驚く早坂姉妹。
「怖あ、めっちゃ怒ってんの」
「それは怒るわよ。姫ちゃん出番ですよ」
早坂姉妹は公園のベンチからふわふわと空へ浮かんだ。
公園の隅のジャングルジムの天辺に二つのシルエット見えた。
「・・・優梨奈」
カケルの視界に映ったのは縛られて目隠しをされた優梨奈とそれを掴んでいる乙姫可憐だった。
「神崎カケル、妹を返して欲しければこちらの要求を呑むことね」
「ーーーー」
「ーー断れば妹の命の保証はないわよ」
乙姫は高笑いを決めている。
「・・・要求はなんだ?」
「ふふふ、簡単よ。ウチの支部の支配下になれば良いだけ、そしてあなたは私の下僕として今後働いてもらうわ」
「姫ちゃん怖いぃぃぃ」
「姫ちゃん流石ですわ」
早坂姉妹は乙姫のまわりをふわふわと飛びまわっている。
「ーー神崎カケル第十二支部は支配下に入るの? 入らないの?」
「くっーー」
険しい顔で悩むカケル。
「ん、んんんーーーーん」
暴れて何かを訴えようとする優梨奈。
「何?急に。五月蝿いわね!ゆず、おと」
「「はい!」」
乙姫は物でも投げ捨てるように早坂姉妹に優梨奈を投げ渡す。
「全く手間かけさせないでくれる!!」
乙葉が受け取ると柚葉が優梨奈の腹にパンチを入れた。
「ーーーー!!」
優梨奈は気絶した。
「優梨奈あああ!!」
「おっと、動かないでね!答えが先よ」
乙姫がカケルの前に立ちはだかる。
「ーーっ、乙姫!!」
カケルは乙姫を睨みつける。
「そんな顔しても妹さんは渡さないわよ。決断を伸ばせば伸ばすだけ妹さんは助からないわよ」
乙姫は指をパチンと鳴らすと、
「はーい、姫ちゃん」
気絶している優梨奈を無理矢理起こし、柚葉は右手に持っている銀色の杖を振り下ろした。
「んんーーっ!!」
優梨奈は声にならない呻き声を上げた。
「あなたが決断を迷えば迷うほど妹さんは傷つくのよ」
「分かったよ・・・」
カケルは下を向いて唇を噛んでいる。
「さあ、膝間づけ下僕ーー」
乙姫は高笑いしカケルを見下した。
これで本当に良いのか?
妹を救うためだろ。
他に選択肢はあったんじゃないのか?
仲間に相談すれば良かったんじゃないのか?
いろんな思いと迷いがカケルの中を交差する。
カケルは歯を食いしばり悔しさを馴染ませながら片膝をついた瞬間、
「ーーそう簡単に諦めてしまうのか君は」
カケルの背後から声が聞こえた。
「お前はあの時のーー!! ゆず、おと!!」
乙姫は慌てて振り返るがーー、
「遅い! 爆発」
空中にいる早坂姉妹の周辺がパチパチと火花が散ったと思うと爆発が起こる。その衝撃で掴んでいた優梨奈を離してしまった。
「ーーしまった!!」
乙姫が反応し落ちてくる優梨奈をキャッチしようと素早く移動する。
「お先にいただき!」
乙姫より先に優梨奈をキャッチする金髪の男性。
「柊なんでここに・・・」
ボー然と立ち尽くすカケル。
「俺だけじゃないっスよ。 なっ?みんな」
その声と共に第十二支部のメンバーが現れ優梨奈の縄や目隠しを解いてあげた。
「ーーカケちゃんゴメンね。やっぱ来ちゃったよ」
エリカは申し訳なさそうに明後日を向いた。
「・・・いや、謝るのは僕だよ」
カケルは俯いたまま肩を落とした。
「仲間に感謝だな、神崎カケル」
カケルの肩にポンと手を置く、カケルはその手の人物の方に目を向けと、短髪で前髪をメッシュで染めている人物がいた。
「君は・・・第七支部のーー」
「空条紀伊だ、宜しく!」
「神崎カケルです、宜しく!」
二人は握手を交わした。
数時間振りに目を開いた優梨奈の目に映ったのは憧れていた兄と信頼している友達が手をとる瞬間だったーー
* * * * * * * * * * * * *
乙姫はガチガチと歯ぎしりをする。
練っていた作戦がたった今崩れ落ちたのだ。
ここまでコケにされたのは自宅警備員になって初めて? いや、人生の中でも有るか無いかに等しい。
宮坂 可憐、彼女は海外に拠点を置く某日本IT企業の社長の一人娘である。 それ故に学校はおろか家から出ることさえ父親に許されなかった。仕事以外はほぼ父親のそばに居た。
しかしーー母親とひさびさの外出を父親に許された際に誘拐された。
高額な身の代金を要求された父親は支払いに応じなかったーー
娘の命より会社と金を選んだ。
彼女は絶望した。自分は捨てられた、いらない子なんだと・・・。
誘拐犯もまさかの事態に困惑し彼女をどうして良いのか分からなくなった。
彼女からまさかの言葉をかけられる。
「殺してよ、私なんていらない子なの。殺してよおお!!」
暴れまくる彼女を逆に哀れに思う誘拐は結局彼女を自宅に連れ帰ることになる。
彼女と誘拐犯の奇妙な生活が始まるのだった。
☆
誘拐犯は、IT企業関連の仕事をしていて祝賀パーティーなどの際に可憐の顔を知っていたのだ。
今回の誘拐は計画してやった犯行ではなかった。目の前に社長の娘が一人でいる、親の目もボディガードも注意がそれているチャンスだ。ーーと思わず誘拐してしまったのだ。
それが、誘拐したが身の代金は貰えず、人質は暴れて殺せ、殺せと迫ってくる。
数週間が過ぎたーー頭を抱える誘拐犯。
「おい! お前名前なんて言うの?」
可憐は上から目線で質問する。
「お前立場分かってんのか?人質だぞ、もう少し言い方をーーイテテ」
可憐は誘拐犯に蹴りを入れる。
「ーー私に価値が無いことなんて分かってる癖に」
「価値とか、そんなんの関係ないよ・・・」
可憐は顔を近づけ、ジッと見つめるーー
「何で? 私みたいな価値のない餓鬼と一緒にいるの?利用価値もない、ただの邪魔者よ」
誘拐犯は視線を逸らし、
「・・・邪魔なんて思ったことないよ。それに君も逃げ出そうと思えばいつだって逃げ出せるのになんで逃げないんだ?」
可憐は立ち上がり床を見つめるーー
「・・・私は他に行く宛がないから」
「俺も同じさ、親に捨てられ孤児院で育てられたんだ。親の顔なんて見たことないよ」
誘拐犯も立ち上がり可憐の頭にポンと手を置いた。
「ーー俺たちは似た者同士だな。俺なんかと一緒でいいなら気が済むまでここに居るといいよ」
可憐は初めて誘拐犯に笑顔を見せてた。
そして、ふくらはぎに一撃蹴りを入れる。
「ーーロリコン!」
「痛え! 蹴るのは止めろよな。それにロリコンじゃねーし」
初めて見れた可憐の笑顔が凄く嬉しいと思った。
「ーーーー! どおした可憐?」
可憐は知らず知らずに涙を流していた。それはずっと心に溜め込んでいた思いが込み上げてきたからだった。誘拐犯の優しさが可憐の心を溶かした瞬間だった。
「あれ?何でだろ・・・おかしいな、私、わたし・・・」
誘拐犯は優しく可憐を抱き締めたーー
可憐は泣いた。
我慢していた分ずっと泣いた。
涙が枯れるまで泣いた。
誘拐犯はずっと抱き締めたーー
「・・・名前教えてよ」
「乙姫 翔太」
「じゃあ今日から乙姫 可憐だね。しょうちゃん宜しくね」
「うん。 可憐宜しく!」
笑顔で見つめ合う二人はまるで兄妹、少し年の離れた恋人のようにも映った。
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