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れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

Kidnapping case


「本当にこの辺りに住んでるの?」
「あの子達に調べさせたんだから間違いないわよ。ね?」
「はい」
早坂姉妹の後ろには十数人の若い女性が様々な装いで待機している。
これも自宅警備員とバレない為街中に溶け込むようにという工夫だ。
ここは第七支部の某公園のベンチーー
早坂姉妹が日影のベンチに腰掛けている。

「支部中に隊員を配置して調べさせたんだから」
「ーーっで、神崎の妹らしき人物の行動は?」
「はい。毎日必ず夕方から鏡面世界へ入り見まわりをする様です」
「へえ、意外にしっかりそういった事してるのね」
「ええ。午前はもう一人の男性が見まわりをしてます。ーーですのでチャンスはその鏡面世界へ入る前に確保するのが良いかと・・・」
「なるほど、なるほどならここに連れて来てよ」
柚葉は真顔で隊員に命令する。
その言葉に童謡する隊員達。
「わ、私たちだけで・・・ですか?」
「捕まえて来るくらい出来るでしょ。まさか、そんなことも私たちにやらせるわけ?」
柚葉は不敵な笑みを浮かべ隊員達を睨む。
「い、いいえ。まさか・・・」
騒つく隊員達ーー早坂姉妹はベンチから立ち上がると、
「捕まえたら連絡頂戴ね」
柚葉は隊員に背を向け手を挙げた。
「そう、そう。失敗したら分かってるわよね?姫ちゃんが許してくれないわよ」
乙葉は隊員に笑顔を見せて手を振った。
残された隊員達はただ呆然と立ち尽くしていたーー

★  ★  ★

ーーこの日も昼過ぎに起きて朝食と昼食を一緒に食べる。面白くもない昼のワイドショーを観ながらスマホをチェックするのが日課になっている。

第七支部は自宅警備員は多いが活動している者は優梨奈と本名不明のキーと名乗る男性だけだ。
ポイントを稼げず日々隊員は権利を剥奪されて消えていっている。
この現状に不満をもち支部でミーティングなどを呼びかけたが集まったのは誰もいなかった。それ以降はキーと二人誰にも頼らず他支部の侵略を阻止してきた。
本音を言えば直ぐに兄、神崎カケルに頼ることも頭にはあった。この知名度とランクAというズバ抜けた才能は正に幼い頃に憧れた兄その者だったからだ。
しかしーー引きこもってからの変わり果てた兄の姿も知っている。
もし、そのままの兄なら・・・
それに今の私を見たら兄は何と言うだろうか。
挫折した自分ーー兄とは違い簡単に夢を諦めてしまった。兄は止む終えず夢を諦めたのに自分は・・・

日も傾いて涼しくなってきた夕方ーー

「そろそろ行きますかね」
アパートの部屋から出て鍵をかけいつも通り鏡面世界の見まわりに出かける優梨奈。

「こちらアパート前、目標出てきました」
物陰から第九支部の隊員が通信デバイスで連絡をとる。
「了解!捕獲作戦開始よ」
「「了解!!」」
第九支部の隊員達は打ち合わせ通り配置についた。失敗は絶対許されない。
第九支部のメンバーは全員緊張の面持ちで待機している。

優梨奈はそんな事とは知らずいつも通りアパートから出て鏡面世界のゲートに向けて歩いて行く。
隊員の一人が通行人を装い後ろから尾行する。道中の大学にも現役の大学生を装い目標を確認し随時連絡をする。

緊張と不安が入り混じる中、目標ポイントへと近づいて行く。隊員たちは息を飲んで見守るーー

その時ーー通信デバイスの着信音が緊張した空気を斬り裂いた。
隊員達はその音に反応し全員が心臓が止まりそうになった。

誰の通信デバイスだ??一斉に見回すと、
「誰?・・・えっ、嘘?何でお兄ちゃんが・・・」
優梨奈の通信デバイスでホッと胸を撫で下ろす隊員達。
「今から鏡面世界の見まわりなの。うん、キーくんにも伝えておくね。ーーありがとう、じゃあまた連絡するねバイバイ」
通信デバイスを切ると優梨奈は嬉しそうに目標ポイントへと足早に移動するーー

再び隊員達に緊張が走るーー膝は震え体はすくみ上がるような堅苦しい気詰まりがする。

「今よ!!」


優梨奈の前に大学生風の若い女の子が四人おしゃべりをしながら通り過ぎた瞬間ーー

強い電撃が身体を走った。

目の前がボヤける。

瞼が重くなり閉じかけの視界に若い女性に取り囲まれている事が分かった。

停止しかけている思考を働かせる。
ハメられた。
まさか現実世界で殺られるとは思っていなかった。ーー考えが甘かった。

キーくんごめん。





















お兄ちゃん助けてーー

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