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れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

Desperate situation


ーー絶望を目の前に晒されて植え付けられた。

新種のクリーチャーはシンジの首元を右手で掴んでいたが第四支部のメンバーの前にまるで人形でも投げ捨てるように無造作に放り投げた。

恐怖で固まる四人。先程までの無駄な言い争いを今は悔むーーなんでもっと逃げなかったのだろうか。もう走れないなんて言わず倒れる限界まで逃げれば良かったと今、後悔しても遅いのだ。

第四支部のメンバーは誰一人として動こうとしなかった。

いや実際は動けなかったと言った方が正しいだろう。死を目の前にして恐怖に襲われたのだ。本能では悲鳴をあげて逃げ出したいと思っていても喉が縮こまり口が開かない。
まるで金縛りにでもあったかのようにーー

蝋人形のように固まって動けないでいる四人の前にゆっくりと歩み寄る新種のクリーチャー。

四人は目を閉じ死を覚悟した。

「何で戦わないっスか?諦めるっスか」
妙に軽い口調が背後から聞こえて来たと思うと疾風の如く新種のクリーチャーに斬りかかるーー

クリーチャーはこの一撃を察知していたのかゆるりとかわす。
「ーーこれで終わってたら神崎さんに詰めが甘いって言われるっス」
ーー更に踏み込み切り上げる。
この一撃も寸ででかわしローブの先を掠っただけだった。
「マヂかあああ」
苦笑いを浮かべるーー

「高魔導反応あり、千夏ノーモーションの無演唱魔導弾来るわよ」
「任せて、柊くんすぐ下がる」
「ほーい」

新種のクリーチャーはノーモーションからの魔導弾を放つが防御障壁により回避された。

「お前達、何で?」

「殺られてるヤツ見殺しに出来ねえっスよ。たとえ敵でもそれをやったら人間お終いだと思うっスよね」

「ーーーー」

「何つーか、ウチのリーダーもそんな感じの人だからっスかね。ウチら全員お人好しなんスわ」
柊は、顎を人差し指で掻きながら愛想笑いを浮かべていた。

「柊、カケちゃんが全力でやっても倒しきれなかった相手よ。十分注意してね」

「うぃーッス!お嬢今日は優しいッスね」
「調子に乗ってると本当に殺られるわよ」

柊は軽く屈伸をしながらバキバキと指を鳴らし、
「魔導力全開放しますよ!ガス欠で倒れたら運んで下さいね」
「もちろんそのまま置き去りよ」
「ひぇ、厳しいっスね」

低い姿勢で相手との距離を測りながらじりじりと距離を詰めて行く柊。

「ーー伊達にランクAと毎日組み手したりしてないっつーの!!」

地面を強く蹴り、速度を上げて新種のクリーチャーの目の前に飛び込みそのまま縦に剣を振りかざす。が、新種のクリーチャーは身体を逸らし回避。
先程ならそのまま踏み込み切り上げるまでの攻撃だったが魔導力全開放の本気モードに柊はここからが違う。

「剣技、輪舞曲ロンド
予測不能な動きでまるで踊るように縦横無尽に切り刻む。
まさに、蝶のように舞い蜂のよう刺す動きだ。
新種のクリーチャーの動きのお株を奪うまさに風に乗った連続攻撃を浴びせた。

「こ、これがランクC+?嘘だろ」
第四支部のメンバーは目の前に起きた状況が信じられないと目を丸くしている。

新種のクリーチャーはローブをズタボロにされ無数の切り傷を負い血を流しているが平然と立っている。
「ーー俺の剣だと軽いのか、それとも奴は痛覚がないのか」
柊は、一旦後方へ退避する。

「一筋縄ではいかないと思っていたけどやっぱり化け物ね。カイトと保護した人を置いてきて正解だったわね」
「お嬢とちなっちゃんは第四支部のメンバーと離脱してーー俺が時間を稼ぐ」
「ーーっな、何言ってんのよ!一人でカッコつけないでくれる?」
「このままだと全滅っス」

「全滅っ、ーー高魔導反応あり、千夏!」
「うん。エリアウォール」

千夏が広範囲防御障壁を展開させた。
新種のクリーチャーの魔導弾を回避するが地響きがするような衝撃が走るーー

新種のクリーチャーの攻撃は終わらない。
魔導弾が通じないとなると直ぐさま近距離攻撃にシフトチェンジし柊に襲い掛かる。
「くっーーお嬢とちなっちゃんは下がって、第四支部のメンバーは離脱しろ!!」
新種のクリーチャーの反応速度、攻撃速度は柊が魔導力全開放のそれよりも速い。 

「クソ!神崎さん・・・嫌、それ以上速いかも」
攻撃を回避するだけの防戦一方な展開。
柊はある程度こうなる事は覚悟していた部分は少なからずあった。
しかし、自分もかなり成長した強くなったと思っていた。現実は甘くなかったーー

「早く離脱しろ!!そんなに長く耐えられねえぞ」
柊の必死の叫びに反応し第四支部のメンバーは全員一斉にその場を離れ飛び出して行った
。ーーが、

「高魔導反応ーー避けて!!」
エリカが第四支部のメンバーに叫ぶ。

「ーー逸れろ!」
柊が新種のクリーチャーに体当たりをする。

「防御障壁展開ーーダメ離れ過ぎて」
千夏の必死のサポートも離脱して離れている第四支部のメンバーには届かない。

「ーーーー!!」
第四支部のメンバー全員に直撃する強力な魔導弾が撃ち込まれた。
直撃を受けた第四支部のメンバー全員煙を上げながら倒れて動かなくなった。

ーー時間が止まるような沈黙。

その光景を横目で見ながら、
「この野郎!!魔導力空っぽになっても構わねえっス」
柊の魔導力が膨れ上がる。

「柊、これ以上魔導力使い過ぎると本当にヤバイよ」
「ーーお嬢とちなっちゃんも早く離脱しろって俺の魔導力空っぽになる前に」

★  ★  ★

ーー新種のクリーチャーの高魔導弾の直撃を受けたが幸い致命傷は避けられた人物が一名いた。それは、柊の体当たりが功を奏していた。

「ハア、ハア・・・誰かに、知らせないと」
通信デバイスは吹き飛んだ衝撃で粉々になっていた。

ボロボロの身体を引きずりながら彼は歩く。
今、敵対していた自分達の為に必死に戦ってくれている人を助けたいが為に。

「誰か・・・誰かお願いします」
視界もボヤけていて自分がどの方向に歩いているのかも分からない。

ただ、歩く。

思いを届けるため。

体が熱い。
側から見れば重症に違いない。

重い体を必死に動かす、一歩、また一歩と誰もいないかもしれない。それでも彼は体を必死に動かす。

「神様・・・お願いします・・・」



彼は倒れた。




「ーーおっと、大丈夫か?どうした?」

誰かに支えられた?

「・・・くりー・・・ちゃー」

もう声が出ない。

「誰か戦っているのか?第四支部の仲間か?」


「・・・た、たしゅ、けて・・・くだ、ちゃい」

消える微かな記憶に映し出されたその自分は。

「あなたは・・・」


これで助かるーー

彼は最期穏やかに目を閉じた。
それは助かると安心したのだろうか?


★  ★  ★

「も、もう辞めて・・・」
涙を流し座り込んでいるエリカ。

「もう十分なの」
両手で顔を覆い見てられないと鬱ぎ込む千夏。

新種のクリーチャーは人形のような者を弄んでいた。ーー金髪で耳にはピアスを開けている。

ここは第三支部の郊外の住宅地の外れ。

「もう十分だから立たないでよ。ひいらぎぃ」

彼は両膝に手をつきながらも必死に立ち上がろうとする。
口からは血を流し、顔は腫れ上がり左目は塞がり視界すら確保出来ない状態である。
完全にボロ雑巾ーーそれでも立ち上がる。

「お、俺は立ち上がるっスよ。神崎さんが来てくれるまで・・・女を守るのが男っスから」

柊がやっと立ち上がった瞬間に新種のクリーチャーは腹部にパンチを入れ更に顔面にも一発パンチを入れて柊を吹き飛ばした。

血を飛ばしながら柊は地面へ叩き付けられた。もはや、受け身すらとれる状況ではない。

エリカと千夏もどうする事も出来ない。
自分達が出ていってもただ足手まといになるだけでとても敵う相手ではない事は十分、
分かっているのだ。

だからこそ何も出来ない自分達が悔しい。
ボロ雑巾のように痛みつけられている仲間をただ見つめて泣いている自分達が惨めで情けない。

ーー尚も立ち上がろうとする柊に新種のクリーチャーはナイフを突きたてようとしていた。

「もう辞めてええええええええ」

エリカの声が第三支部の郊外に響き渡ったーー


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