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れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

Settlement


刃物と刃物がぶつかり合う衝撃音が響くーー

黒崎はナイフで首を狙ってくるがそれを払い退ける。

黒崎はプロレスラーのようなガタイとは思えない素早い身のこなしで次々に攻撃を繰り出す。

刃と刃が交差し火花が飛ぶーー黒崎の間髪入れない連続攻撃に防戦一方になりつつある。

「どおしたカンザキィ、手が止まってるぞ。それでもランクAなのか」
余裕の表情を浮かべ挑発してくる黒崎が憎たらしい。

「魔弾のカンザキだったかな?銃を使えなければ本気は出せないのか、それとも接近戦は苦手か?」
「ーー黒崎、喋り過ぎだ!少し黙らせてやるよ」

ナイフを受け流し黒崎の肩口に一撃を入れた。
赤い火花を散らし左肩は出血し自慢の黒い革のジャケットはドス黒く変色した。

「ーーぐっ」
苦痛に顔を歪める黒崎に更に一撃
ーー打突を腹部に入れ吹き飛ばす。

巨体が地面を転がるが黒崎はすぐに起き上がると鋭い眼光で睨みを利かす。
握られていたナイフがカタチを変える
ーー両手持ちの大剣へと変化を遂げる。

「俺の能力は武器変化だ。自分がダメージを負った分、武器はより強力に変化する」

「ーー武器が強力でもその性能を発揮するかしないかは使う人間の問題だぜ」

「カンザキィ、舐めんなよ!!」

黒崎は一直線に向かってくるや否や大剣を振るーー

岩石のように重い一撃を受け止めた衝撃で全身に電撃が走ったように痺れる。

「ーーーー!!」

更に黒崎はそのまま回転し真横に遠心力を使いながら大剣を振る。
間一髪ーー後方に飛び跳ね回避する。  

黒崎の攻撃は続く。ーー縦、横、縦、横と
連続攻撃、全て回避するが一撃一撃が重い。受け止めてしまうと腕、全身に痺れがきて体力を消耗する。

「カンザキィ逃げ脚だけは速いようだな」

「ーー俺の商売道具なんでね」
互いに間合いを取りながら剣を構える二人。
重なる視線ーー張り詰めた空気が止まる。


どちらが一瞬でも隙を見せたら殺られる。

そんな空気が流れたーー


剣術は得意ではない?
当たり前だ。剣道なんてやった事すらない。
じゃあ、銃は得意?
自宅警備員にならなければ銃を握ることすら一生無かった筈だ。

得意不得意なんて初めからないんだ。
僕は、元々が引きこもりのニートだ。

初めから自分の意思で自宅警備員になった訳でもない。
それでも市民を守るためと思い戦ったーー

しかし、今はどうだろう。

市民から忘れられた存在になっている。
僕は何のために戦っているだ。


何のため?
誰のため?


僕が今、黒崎と戦う意味はただーー

「ーー仲間を守りたいだけだ!!」

同時だった。

斬撃と斬撃が交差し交わると鉄の火花が飛び散るーー

魔導量が膨れ上がり一撃一撃に重みを感じはじめ黒崎は徐々に後退りしていく。
顔からは余裕が消え、明らさまに歪んできている。

ーーその隙を見逃さない。

一気に押し込む。斬撃の嵐ーー

斬り込み・流し切り・斬り上げ・斬り込み・流し切り・斬り上げ・斬り込み・流し切り・斬り上げ黒崎の予想範囲を上回る速度と攻撃連載に回避すら出来なくなっていた。

容赦ない攻撃は波状と化すーー

斬り込み・流し切り・斬り上げ・斬り込み・流し切り・斬り上げ・斬り込み・流し切り・
切り上げーーーーっ、一呼吸溜めて魔導を練り上げる。

「ーー終いだ! ラグナスラッシュ」

閃光一閃ーー黒崎を吹き飛ばす。

吹き飛んだ黒崎は壁にめり込み動かなくなった。

「このソードは特殊でね、魔導力をチカラに変えてくれる魔剣だ。魔力量が多い俺にとっては最適な相棒だ」

「ーーーー」
口から血を流し聞いているのか、生きているのか分からない黒崎に続ける。

「支部同士、同じ自宅警備員で争う理由はなんだ?僕たちの敵はゾンビやクリーチャーじゃないのか?俺はこの鏡面世界での争いは間違ってると思う」

それを黒崎に告げると第十二支部のメンバーが去って行った方向に歩みだした。

「ーーーー」
黒崎は虚ろな意識のまま、動かすのがやっとの体で煙草を取り出し火を付けたーー

「ーーあめぇんだよ、カンザキ。俺らはすでにもう抜け出せなくなっちまってんだよ。
この世界からも運命からもよ」
黒崎は大きく白い煙を吐き出したーー

壁にもたれたま真っ白な世界の天井を見上げていた。


★  ★  ★


「ーー追いつけない。A班追跡してますが相手の観測者が優秀過ぎてすぐに撒かれます」
「あのビッチ女ハンパない空間把握能力ロケーションだ。ここまで優秀な観測者は見た事ない」
「逃がしでもしたら黒崎さんにぶっ殺されるぞ」

・・・第四支部のメンバーに重い空気が流れた。

「お嬢の空間把握能力ロケーションのおかげでなんとか逃げきれそうッスね」
「エリカちゃん凄いの」
「ーーこの人も助けられる」

カイトに肩を持たれながら意気消沈している一般人らしき人物。
この人物は一体何を知っているのか・・・
救い出して何か得ることはあるのか。
微妙な思いが交錯するーー

「カケちゃん大丈夫かな・・・」
急に不安がこみ上げてきていても立ってもいられなくなるエリカに、
「大丈夫なの。カケルくんは強いもの」
「ーーーー千夏」

「神崎さんは最強っスよ!何たってランクAなんすから」

逃げて来た方向を振り返りながらーー

「・・・けど、カケちゃん【レイブル】使わないって」

「ーーーー」

「ーーそれでも神崎さんの強さは変わらないっスよ。あの魔剣もありますしね」

「エリカさんが信じてあげなくてどうするんですか。何なら空間把握能力ロケーションで確認してみたらどうですか?」

カイトは全くと言う感じに両肩を上げて見せた。
「うん・・・カケちゃんのこと探ってみる。それと追っ手の確認もーー」

エリカは目を閉じ集中するーー

しばらくの沈黙の後、ゆっくり目を開け困惑な表情を浮かべた。
いち早くその違和感を感じとった柊がエリカに歩み寄る。

「お嬢?どうかしたっスか?ーーまさか神崎さんが」

エリカは無言のまま首を横に振る。

「ーーじゃあ、もうすぐそこまで追っ手が」

同じく無言のまま首を横に振る。

「お嬢、じゃあ何が見えたっスか」
柊が急かすように問いかける。

エリカは、表情を曇らせながらゆっくりと呟いたーー

「新種のクリーチャーが一体、第四支部の連中を襲ってるーー」

無言の空気が第三支部郊外に流れたーー


★  ★  ★

ーー敵を目の前にして逃げ出す事はあってはならない。

彼等は心にその言葉を刻まれてきた。
この身が滅びようとも最後まで戦えと。
仲間の為、自分のプライドの為、そしてーー主として尽くすと決めたリーダーの為に。

今彼等の目の前に立ちはだかり次々と第四支部のメンバーを戦闘不能に変えていく人物はまさに、

「ーー悪魔だ」
第四支部のメンバーは既に戦意を失っていた。

しかしーー逃げ出す訳にはいかない。
それだけは第四支部のプライドだ。
倒されたメンバーに申し訳ない。
義理人情に熱いだけではどうにもならない事は分かっている。

「ーークソ!!わぁああああああ」
痺れを切らしまた一人ハンドガンを連射しながらローブを身に纏った新種のクリーチャーに向かって突進して行く。ーーが、

「馬鹿ヤメろ!無闇に突っ込むなあああ」
黒崎の側近の一人シンジが叫ぶがその声は届かず、突進して行ったメンバーは簡単に魔導弾を数発受けて倒れた。

「くっ、クソ、クソ、クソーーーー」
シンジは通信デバイスを取り出しどこかに連絡を取っている。

「何でだよ、何で繋がらないんだよーー」
通信デバイスにすがるように見つめているシンジ。

しかしーー繋がらないのか「クソ!」と通信デバイスを地面に投げつけた。

第十二支部を追っていたB班は既に全滅していて残るはA班の五人のみ。

「このままだと全滅するーー。おい!お前らここから離脱しろ!!そして、黒崎さんの元に何としても辿り着け」

「ーーシンジさんは?」

「俺が何とかコイツを惹きつけて少しでも時間を稼ぐ。黒崎さんはまだカンザキとタイマンしてる可能性が高い。戦い止めてでもこの状況を説明するんだ。いいな?」

「・・・シンジさん」

「わかったらササっと行け!!」

「ハイ!」

シンジを残し四人は離脱して黒崎の元へと飛び出して行った。しかし、それを見た新種のクリーチャーは追いかけようと動き出すが、 

「ーーーー!!」

「ーー行かせねえよ!第四支部舐めんなよ!!」
シンジが静止し行く手を阻む。

ローブを身に纏った新種のクリーチャーの表情は伺えないが明らかにシンジに敵意を向けている。

「第四支部副長の名に懸けてこの先には行かせる訳にはいかねえんだよ!!」
シンジは二本の銃を取り出し構えるーー

新種のクリーチャーはノーモーションからの無演唱の魔導弾を放って来たーー
シンジは間一髪、防御術式で回避する。

「ーーあぶね。早すぎだろ」
シンジがほっと息をつく暇さえ与えず新種のクリーチャーは次々と魔導弾を放つ。

「クソ!そっちが数ならこっちも負けねえよ」
シンジが二本の銃から無数のレーザービームを放つ。

「二本拳銃、ワーニングショット」
これがシンジの得意能力で最高の武器だ。

魔導弾を消滅させ新種のクリーチャーに命中させるがーー

「・・・マジか。チクショー」

新種のクリーチャーは立ち込める砂煙の中ほぼ無傷でその場に立っていた。
シンジは、悟った。

俺、死ぬんだーーって。

シンジは震える足を押さえながら、

ああ、死ぬ前に彼女欲しかったなあ。
枕の下のエロ本棄てておきたかったな。
母ちゃんに親孝行一つ位しておきたかったな。

シンジがハッと我に返った時には目の前に新種のクリーチャーの姿があった。

「みんなすまねえ・・・黒崎さんあとは宜しくお願いします。ああああ死にたくねえよ。わああああああああああ」


★  ★  ★

第四支部のメンバーは必死でビルからビルへ飛び跳ね駆け抜けるーー

殺られて行った仲間の思いを背負い。
そして、捨て身の覚悟で自分達を助けてくれたシンジの思いを受け。

「ハア、ハア、もう走れねえーー」
「馬鹿野朗!立て、立てよ!黒崎さんの元に何としてもこの状況を伝えんだよ」
「ハアハア、オレも・・・もう無理だ」
「何言ってんだよ、早く急ぐぞ!シンジさんがせっかく時間を稼いでくれたんだぞ」

「ハア、ハアもう無理だよ。オカシイだろ?シンジさんが通信デバイスで連絡とろうとしてたの黒崎さんのとこだぞ。ハアハア、それが繋がらないって事は殺られてんのにきまってんだろ」

「お前本気でそれ言ってんのか?」
「シンジさんだって馬鹿だよ。逃げてれば今頃ーー」

第四支部の一人が殴りつける。
「ふざけるなよ!!どれだけの思いでシンジさんが俺たちの為に、みんなが俺らに気持ちを託したと思ってんだよ」

「知るかよ!行きたきゃお前一人でーー」
殴られたメンバーの表情が一気に真っ青に染まり凍り付く。

その余りの豹変ぶりに殴りつけたメンバーが振り返るーーそこに居たのは、

「・・・しんじさん」

新種のクリーチャーがそこにはいてその右腕にはボロ雑巾のような変わり果てたシンジの姿があった。


第四支部のメンバーに絶望が心締めつけた。

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