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れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

戦闘:住宅地


「こちらコード12008。自宅警備中、黒一名確認」

鈍い不協和音と雑音が入る

「ーー了解! 確認し通達する」

(クリーチャーか・・・相手にすれば厄介だぞ)

既に、ある地域はクリーチャーにより数名の自宅警備員が捕まってしまったらしい。

黒に捕まると魔導力奪われる。魔導力を奪われた者はチェンジ出来なくなるので当然自宅警備員として働くことは出来なくなる。

黒に余り抵抗してたりすれば勿論命を奪われる。
自宅警備員として殉職した者も最近は後を絶たない。

ガーッガーッと通信デバイスが騒ぎたてる。

「こちらコード14231。 目標黒と確定。繰り返す目標黒と確定。現在座標を通信する」


「ーーセントラルコントロールより。目標、黒と確定。この地域一帯に緊急警報を発令する。繰り返す目標、黒と確定。緊急警報を発令する」

(やはり、遂にウチの地域にも黒が来たか)

スマホが激しくフラッシュするーー

( こんな緊急事態に嫌な予感しかしない )

スマホを手に取り通話ボタンを押した。

「ーーコード1001、カケルくん? セントラルコントロールのイズミだ。 今の現状を分かっているわよね?」

「っと、言いますと僕に黒を殺れと?」

「【 レイブル 】を使えば黒なんて大したことはない筈よ。現在一番現場に近いコード零はあなたよ。これは命令よ」

( こちらに拒否権はないのか・・・ブラック企業じゃね? )

「了解。 やれるだけやってみますよ」


★  ★  ★

新トーキョー第12支部が僕の管轄エリアだ。

初戦闘以来、クリーチャー通称黒との戦闘はなく社会ゾンビを数体倒しただけだった。
このエリアは比較的平和なのかな?と思っていたところだった。

「仕方ない・・・イズミさんの命令だ。行くとするかーー」

通信デバイスから応答が入る。

「セントラルコントロールへ。コード19211と9052現場に到着。目標黒確認。指示を待つ」

( 僕より先に誰か行ってくれたのか。行かなくて大丈夫かな?)

「コード19211、9052殺れそうか?」
「やってみます!」
「ご武運を祈る」

僕は、一応全員に通達されるデータで今、応戦してくれている彼らのデータを確認した。

( ヤバイな・・・急ごう! )


二人とも適正ランクC。
トータル討伐数、社会ゾンビ2体。


★  ★  ★


「くそっ、当たらね」
「何で? ちくしょう」

コード19211は連続で何発もハンドガンを撃ち続ける。
黒はコード19211の攻撃を平然と回避し反撃しては回避を繰り返し、スキを伺っているようだ。

僕が、現場に駆け付けた時に既に彼らは黒に向かってこのように遠方から無駄に撃ち続けていた。
僕ら自宅警備員は、自分の魔導力を消費して拳銃の玉を創り出して打ち込んでいる。
社会ゾンビやクリーチャーは普通の拳銃の弾丸では倒すことは出来ないのだ。


「無駄撃ちはよせ! 相手の思う壺だ」

僕は、数撃てば当たるような相手でないと悟ったーー

黒スーツの武器は術式を帯びたライフル銃。
長い銃身を備えた銃で、威力・精度ともに自宅警備員のランクCのハンドガンをはるかに凌駕する。一発でも命中してしまえば致命傷は間逃れない。

黒スーツは、その一発のカウンターを狙って撃ってきている。 僕らのようなつい最近まで引きこもっていた素人とは違い奴等はこれを本職としていた訳なのだからその辺の違いが出て当たり前だ。

( Cランクのハンドガンの威力と性能の低さにはある意味驚かされる。ここまで違うかと・・・)

「僕が黒を片付ける。 コード19211と9052は援護射撃と防衛をお願いする」

その言葉に耳を疑ったのか、二人とも鳩が豆鉄砲を食ったような顔している。

「一人で黒を? 無理だろ」
「今までさんざんやって一発も当たらないんだぜ。お前がやっても無理、無理」

二人とも首を横に振りながらため息を吐いている。

( それはお前らCランクの低い次元なら無理だろ。 ランクの違いを良く見ておけ)

「ーーしっかり援護しろよな!」

そう二人に言い放すと直ぐさま黒を牽制しながら距離を詰める。
黒も一定の距離を保ちながら威嚇射撃を放す。

後ろを振り返るとボーッとCランクの二人が物陰からこちらを覗いていた。
まるで、早く黒を倒して見せろよと言わんばかりの様子だ。

ならーー

「よく見ておけよ。 チルドレンコード零 【レイブル】発動」

魔導量が一気に膨れ上がる。
空間に衝撃波が振動する。

その魔導量に驚いたのか黒は、直ぐさま身を隠しながら後退する。

「どこに隠れようが逃げようがもう遅いんだよ」

レイブルは一定時間全ての五感、運動能力、魔導量を何十倍にも増大させる。
レイブル最大の能力は、魔道武器の具現化能力である。

僕の場合は、魔導を練り上げた弾丸を創り出しそれを術式銃に練り込み発動させることが出来る。

僕にしか出来ない、僕にしか扱えない銃である。
それが僕の最大の能力で最高の武器、魔弾である。

「コード1001、標的黒発見。これより排除する」
「セントラルセンター了解。ご武運を祈る」

通常の人間の十倍以上の速度。
黒が僕から逃げ切れる訳がない。
まさにチート能力。

あっと言う間に黒を射程圏内に捉えるーー

黒は、ライフルを連射して応戦してくるが僕に当たる訳がない。
反応速度も通常の人間の十倍以上だ。
黒の弾丸のスピードがスローに見える程だ。

「永久に彷徨う此の世ならざる者よ 浄化の力により消え去りたまえ 《魔弾ラグナ・リボルバー》」

右手の引き金を引いた瞬間ーー心臓に響くような銃声とともに光の閃光が黒目がけて放たれた。

黒は必死に魔導障壁を貼り回避しようとするがそんな物で回避できる訳がなく障壁ごと貫き吹き飛ばした。

結果、圧勝の一撃勝利。

当然の結果だ。


「ーーこちらコード1001。目標黒排除完了。これより帰還する」

「セントラルセンター了解。ご苦労であった」

大きくため息を吐いて、【レイブル】を解除した。

( 【レイブル】は身体への負担が大きいのが弱点だな。解除した後のこの疲労感がハンパない )

ボソボソ一言を言っていると物陰に隠れて一切援護射撃もしてくれなかったCランクのヘタレ二人組が歩み寄って来た。

僕は二人組が歩み寄って来たのに気付かない振りをして無視していた。

「ーーあ、あの・・・もしかしてあなたがあの適正ランクAの魔弾の神崎 カケルさんですか?」

「初めに言ってくれれば僕ら邪魔しなかったのに。 なあ?」

「そう、そう」

愛想笑いを浮かべ、しどろもどろに喋っている。

何が邪魔しなかったのにだ。
人を見た目で判断して自分と同格だと思い込んでいた癖に。 自分より格上だと分かった途端に手のひらを返したようにこの態度だ。

僕は二人組と顔も合わせず帰ろうとするとーー

「ーーあの出来ればこれかも一緒に・・・」
「そう、そう。 お願いしますよ」

( ふざけるな!! )

「ーーお疲れ様 」

それだけ言い残し僕は夜の街に溶け込むように消えて行った。

僕らは結局のところ、どこまで行っても引きこもりのヘタレなんだとあの二人組を見ているとそう思った。

自分より格下とみれば徹底的に叩き、格上だとわかれば手のひらを返したように人任せにする。

僕も同じなのか?

この能力が無ければ僕も同じようにしていたのか?

僕は違うと思いたい。



「ーーチクショぉぉぉ!!!」


結局、僕も同じ引きこもりなのかな。

都会の冷たい夜空に僕の叫びが響いた。



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