れいぶる~自宅警備隊~
自宅警備員規約書
この腐った世の中を生き抜くためには奪われないように戦うしかない。
社会ゾンビと呼ばれる人種が存在する。
奴等はどこで生まれ、どこから来たのかさえ不明であり、いつどこで遭遇するか分からないのである。
出会ってしまったら最後、全てを奪われる。
全てとは、持ち物だけでなく身体の全て。
臓器から歯の一本、髪の毛の一本まで全てを奪われて影も形も残らない。
社会ゾンビの排除が自宅警備員の主な仕事である。
学生や買い物で外を出歩くのは危険じゃないかって?
その通りである。
自宅警備隊セントラルセンターと呼ばれる監視システムで全ての街や道などを24時間365日観視している。
社会ゾンビを発見次第一番近くの自宅警備員に連絡が入り直ちに排除に向かうのである。
また、魔導障壁を貼られているセーフティーポイントがあちらこちらにあり基本的には安全である。
社会ゾンビ撲滅が自宅警備員の目標である。
★ ★ ★
能力判定A判定。
街中の無職者の人間たちが一同に街の体育館に集められ順番にヘッドギアの様な装置を付けられて椅子に座らせられる。
時間にしたら三分程で終わる。
白衣を着た科学者のような医者のような人間たちが忙しなく動きまわっている。
どれくらい並んだだろうか・・・
大体の人達は能力判定C、稀にBといった感じだ。
ーー僕の番の時に事件は起こった。
能力判定A。
騒つく体育館。
驚きを隠しきれない科学者たち。
僕はそんなこと御構い無しに付けられていた装置を外し、平然と席を立ち上がりその場を立ち去ろうした。
科学者が数人追いかけて来て制止しようとしたが僕は、「測定は終わったんだから帰る」と言わんばりの態度でそれを振り切りその場を後にした。
能力判定A。
それが後になって僕の運命を変えることになるなんて想像もしなかったーー
ただよく分からない検査を受けて自宅警備員とか言う無理矢理強制労働をさせられることになることが判明しただけだと思った。
訳の分からない制度を作って引きこもってる僕らに無理矢理働かせる糞みたいな奴等。
税金を無駄に使ってるんだからお前らが社会ゾンビから僕らを守れよ!
そんなことを思いながら僕は家に向かって帰ったのだった。
ーーーー
翌日、家に自宅警備隊中央本部の関係者がやって来た。
両親と何やら喋っているのが聞こえてきたが内容は分からない。
しばらく経つと母親に一階に降りて来るように言われた。
しょうがなく降りていくと両親は満遍の笑みを浮かべていた。
自宅警備隊中央本部の関係者から規約が書かれた書類に目を通して契約書に名前を書くように言われた。
手渡され読みながら横目で両親を見ると涙を浮かべて喜んでるいる。
* * * * * * * * * * * * *
ーー 自宅警備隊規約事項 ーー
自宅警備の目的は、直接及び間接の侵略を未然に防止し、万一侵略が行われるときはこれを排除し、もって民主主義を基調とする我が国の独立と平和を守ることにある。この目的を達成するための基本方針を次のとおり定める。
(1) 国の活動を支持し、国際間の協調をはかり、日本国の実現を期する。
(2) 民生を安定し、国家の安全を保障するに必要な基盤を確立する。
(3) 国力国情に応じ自警備のため必要な限度において 効率的な防衛力を漸進的に整備する。
(4) 侵略に対しては、有効にこれを阻止する機能を果たし国の安全保障体制を基調とし対処する。
― 自宅警備の基本方針 - 2116年4月1日閣議決定
自宅警備隊 隊員(甲)として神崎 カケル(乙)は次の通り労働規約を締結する。
第一条
甲は乙を以下の記載の労働条件で雇用する。
乙は甲の指揮に従い切実に勤務する。
契約期間 2117年4月1日より乙満34歳まで
勤務場所: 新トーキョー第十二支部エリア
義務内容: 自宅警備及び管轄エリア警備
第ニ条
乙の勤務時間及び休日は次の通りである。
365日24時間自宅警備及び待機。
緊急の場合のみ自宅警備隊セントラルコントロールの指示に迅速に対応し指揮に従うこと。
第三条
甲より乙に支払う賃金は次の通りである。
本給: ○○,○○○円
超過勤務手当: 討伐数スコアにより手当を支給する。
第四条
本契約に定めてない事項については自宅警備隊中央本部就業規則に従うこと。
本契約を成立するものとし乙署名印と甲署名印のうえ、各一枚保持すること。
2117年4月1日 自宅警備隊中央本部
自宅警備隊中央本部局長 京極 政宗
* * * * * * * * * * * * *
僕は、ひと通り手渡された内容を確認した。
ああ、なるほどと両親の思いを理解した。
両親は、僕が家から出て行ってくれることに喜んでいるんだなと思った。
確かに、毎日家で引きこもっている息子が出て行き、更に職について自立してくれるなんて嬉しいかぎりである。
更に国が定めた制度でほぼ強制的に職務につかなければならない。
「ーーこれは強制的ですか? 拒否権は? 」
( 無理だろうが聞いてみる )
「ーーカケル何を言ってるの? せっかく社会復帰させてくれようとして下さってるのに」
母親が凄い勢いで口を挟んできた。
余程、家から出て行ってほしいのか?
「適性ランクAの神崎カケルさんには拒否権はありません。 これは国の定めた制度ですのでこの国に在籍する限り従って頂きます」
「ーー国外に移住しよっかな」
「こら、カケルふざけないの」
( いちいち五月蝿い母親だな。冗談も通じないのか)
「強制的なんだからいちいち署名とかいらなくね? 適当に拉致して連れて行けばいいじゃん」
「内容を確認、理解していただき、説明不足のないようにするのが私どもの義務なのです」
僕は、適当に規約に同意して署名印を押したーー
両親は、何度も何度も自宅警備隊中央本部の職員の方に頭を下げていた。
僕は、署名印を押しそのまま二階の自分の城へと帰った。
僕は部屋に入るなりベットに倒れこんだーー
ああ、 このカビ臭い薄暗い部屋とも後数日でお別れか・・・
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