運命の人に出会えば

太もやし

彼女の過去


 メアリーはライト卿と結婚するのは、自分だと思っていた。
 彼と結婚すれば伯爵夫人になることができ、メアリーの強い権力欲も満たされる。ライト卿は身分の釣り合う娘と結婚することができる。両方が得する関係になることから、周囲からも結婚することは確実だと思われていた。
 しかしそうはいかなかった。

 ライト卿はメアリーではなく、メアリーの妹マリアを選んだ。その時から、姉妹の良好だった仲に深い溝が生まれた。
 昔、夜会ではよくメアリーとマリアは一緒にいた。ライト卿はメアリーではなく、マリアに話しかけていたのだ。
 自分の自信過剰にメアリーは失望した。そして失意の底にいた時、慰めてくれた男性と結婚した。その男性こそ、ミニッツ卿だ。

 結婚して何年か経った頃、メアリーとマリアは同時期に息子を、次に娘を産んだ。
 メアリーから連絡を絶っていた。しかし二人の息子が幼年学校の入学式で出会い、メアリーはその時に同じ年の娘もいることを知った。

 マリアの娘は、幼い頃のマリアにそっくりな笑顔を浮かべ挨拶する。
 憎しみがメアリーの心に燃え上がった。

 幼い頃はなんでも分かち合った姉妹はもういない。
 メアリーは子爵夫人で、マリアは伯爵夫人。メアリーは時間をかけて子供二人を授かったが、マリアは結婚してすぐ三人の子供を授かった。
 違いが憎かった。自分がマリアの立場にいるはずだった。

 だからメアリーは、幸せな家族を壊すことにした。

 ミニッツ家の召し使いをライト家に入れ、娘を誘拐させる。
 次に孤児院と銘打ち、子供を酷使する悪どい豪商の家に、娘を連れていかせ使い潰すよう命じた。
 夫の一族はライト家を領地に入れないことを知っていたメアリーは、安心した。
 家族の知らない所で、娘は家族を思いながら死ぬ。家族は娘を思いながら、思い出に浸るしかできない。
 メアリーは気分が落ち込んだ時、その結末を想像し、何度も気を紛らわせた。ほの暗い幸せに浸ることで、過去に勝った気分だった。

 しかし妹の娘を誘拐させた六年後、夫はその娘を、メアリーの大事な家に連れてきた。妹の娘は、とてもしぶとかったのだ。
 夫はメアリーの過去に起こした悪事に少し苦言を呈したが、すぐに彼女を許した。
 紋章憑きは嫌いだが、契約獣の有用性を知っているミニッツ卿は、娘を手元に置いて働かせることにした。


 ミニッツ子爵夫人メアリー・ミニッツは過去のことに思いを馳せながら、子供たちに遅れながらも、ロンドンの邸宅に入った。

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