運命の人に出会えば

太もやし

一年後


 家族の再会の一年後、ラルフはミリィと舞踏場の真ん中で踊っていた。

「私、自分がレディとして夜会で踊るなんて考えたこともなかったわ」

 一年前より砕けた声音は、ラルフの耳をくすぐる。

「残念ながら、俺には分かっていたよ。君はどこにどんな姿でいても最高のレディだということはね」

 ラルフがウインクすると、ミリィの胸は高鳴った。ミリィは焦っているとステップを間違えてしまい、ラルフの足を踏み、慌てて謝る。

「俺があんまりに優雅に踊るから、鳥がとまってしまったのさ。謝ることなんて、何もないよ」

「あなたったら、本当に口が上手いんだから。私はいつもときめいてるわ」

「それは、紳士として最上級の誉め言葉だ」

 ラルフはミリィの言葉に、もうすぐ婚約を申し込もうと考えた。彼女の口ぶりから、振られることはないと思ったのだ。
 ミリィがライト家に帰ってから、何度も婚約を申し込もうと思った。しかしミリィに振られる可能性を考えると、言い出すことができずに、次のシーズンを迎えてしまった。
 ブライアンとキースは、ラルフがいつ婚約を申し込むか賭けていた。その賭けは、ラルフのいつもの行動力を見込んで行われたが、あまりの思案の深さにお流れとなった。

 踊る二人を、ラルフの親友たちは眺めている。
 ブライアンはミニッツ子爵代理になっている。それはミニッツ子爵夫妻が、娘であるサフィアの結婚を見届けると、即座に植民地に移り住んだからだ。それがライト家から訴訟されない代わりに、言い出された条件だった。
 二つの家の溝は、代替わりによって埋まることとなるだろう。

「俺たちもそろそろ結婚しないとなぁ」

 キースがぼやく。

「僕はもう結婚の申し込みをしてるよ」

 ブライアンは伝えていなかったか、尋ねる。

「えっ、聞いてないぞ! 相手は誰だ?」

 驚きで飛び上がったキースは、ブライアンの整った夜会服の肩を掴む。
 ブライアンはシワになるから離せと言うと、それはすまない、と謝る。

「アリス・グレイ嬢だよ。あちらからのアプローチは凄かった。遂には身の危険すら感じたよ」

「あら、それでも私のことが好きなんでしょう?」

 アリスは音もなく二人の背後に忍び寄っていた。ブライアンにエスコートを頼むと、キースを残して二人は舞踏場に消えていった。

「俺も恋を始めるとするか」

 妹を探し、イギリス中を飛び回っていたキースは、一つ所に留まることを決める。
 それは運命の人に出会い、人生を変えた妹の姿に、誇らしさと羨ましさを感じたからだった。

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