運命の人に出会えば

太もやし

ミリィの過去


「あなた、とっても素敵だわ!」

 ミリィはアリスに抱き締められた。
 黙っていることができなくて言ってしまったが、周囲の思わぬ反応にミリィはよかったと笑った。


 グレイ家からぜひまた来てほしいと送り出された三人は、翌日もマール家の応接室にいた。
 ソフィーはミリィにもう教えることはないといい、彼女をサロンに連れていくようラルフに頼んだ。
 ラルフもその提案に頷き、ずっと前から気になっているミリィの大事な事情を尋ねた。

「皆の前で驚いてもいいが、できれば人が少ない時に驚かせてくれ。私はコンフィダントの常連から見たら、ひよこなんだ。私の鳴き声は、周りにいる雄鶏の鳴き声にすぐ消されてしまう」

 ミリィはラルフのどんなにつまらない冗談でも、いつも笑ってしまう。
 ラルフは信頼できる紳士だ。だから絶対に、困っている私を救ってくれると確信したミリィは、話すことを決めた。

「私は六歳の時、両親に捨てられたんです。ミニッツ家の領地にある孤児院での暮らしは最低でした。いつもクリュスと共に朝早くから夜遅くまで働かされる。そんな生活が十四歳の誕生日まで続きました」

 涙ぐんだソフィーはミリィの震える手を握る。
 子供にはあまりにも辛い生活だったろう。ラルフは幼いミリィを救いたいと思った。そして六歳という単語に覚えを感じ、もはやと推測した。
 真剣に聞くラルフの優しい瞳に、ミリィは続きを話す。

「ミニッツ家の旦那様が、契約獣を使う私の噂を聞いて、ミニッツ家で働くよう言いました。ブライアン様以外のミニッツ家の方々は紋章貴族が嫌いなようで、理不尽なことをよく言われました。でも二年間、ミニッツ家で働きロンドンにこうやってくることができました」

 ラルフは辛い生活を味わいながらも、こうやってミリィに出会えた幸運に感謝する。一目で恋に落ちたのは、ラルフにとって初めての経験だった。
 ラルフが頷くと、ミリィは話を続ける。

「サロンに行って紋章を見せれば、私の家族が見つかると思ったのです。この紋章だけが、クリュスだけが家族との繋がり。私はなんで家族に私を捨てたか聞きたい。六歳までの日々は、確かに愛に満ちた日々だったのです」

 クリュス、六歳。その単語だけでラルフは、ミリィの家族が誰だかわかった。

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