運命の人に出会えば
昼下がりのお茶会
この一週間で、ミリィの生活は変わった。昼はソフィーの家で礼儀作法を学び、夜はミニッツ家の護衛をする。疲労は溜まるが、嫌なことばかりではなかった。
まず、ミリィとソフィーはとても仲良くなった。礼儀作法の教師と生徒だが、親友と言っても過言ではない。授業中でさえ、笑い声は途切れないのだ。
次に、優秀な生徒であるミリィへのご褒美に、二日に一回は休憩と称したお茶会をソフィーが催してくれるのだ。出される紅茶とケーキはとても美味しくて、ミリィは幸せな気分に浸れた。
今日もお茶会しているが、二人だけのパーティーに、特別な参加者が一人増えていた。
ラルフが有名なフランス人のパティシエールが作ったケーキを持参して来たことから、熱心に歓迎されている。
「このケーキ、本当に美味しいですね。スポンジはふわふわで、クリームは濃厚。うちの料理人に振る舞って、作ってもらえるかしら」
ソフィーはその味がとても気に入ったようで、ずっと笑っている。
ミリィはといえば、ラルフに見られながらのお茶会に緊張して、フォークが震えている。まず彼に礼儀作法を認められなければ、コンフィダントには入れない、それがミリィの緊張の元だった。
「どうしたんだい、ミリィ? 怖がらなくても、ショートケーキは君を襲ったりしないさ」
ラルフはカップを揺らしながら言った。ラルフが三日前に出かけた夜会で、ソフィーからミリィは甘いものが好きだと聞いた。
だから手土産としてケーキを持ってきたのだが、ミリィはまだ一口も手をつけていない。
話を振られたミリィは、ケーキから話そらすために、別の話をした。
「あの、お世話になっているお家の方が、一週間前から病気で寝込まれていらっしゃるのが気になっていて……」
ソフィーは自分の身内が病気であるかのように心配する。最近のロンドンで風邪が流行っているとは、噂で聞いたことがない、早く治るといい、ソフィーは思いつく限りの慰めをかける。
しかしラルフは、ミリィの事情を知る良い機会だと閃く。このまま、大事な事情を知ることができれば、彼女の力になれる、とラルフは確信する。
「それは大変だ。お世話になっている家とは? 私の知っている方かもしれない」
眉を下げたラルフに思わずときめいたミリィの口は、勝手に動く。
「ミニッツ家です。サフィア様にお仕えしています」
「寝込んでいるのは、彼女かい?」
「いいえ、お兄様のブライアン様です」
ラルフは片眉を吊り上げる。ブライアン・ミニッツはラルフの学友だ。キース・ライト、ブライアン・ミニッツ、ラルフ・ブラッドレイの三人は、首席を争いながらも固い友情で結ばれた親友なのだ。
「それは、大変だ。彼は私の親友なんだ。お見舞いに行っても?」
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