運命の人に出会えば

太もやし

ソフィーの友情


 ソフィーは、ドラゴンの圧倒的な力に驚いていた。カーバンクルとドラゴンの力は、一見釣り合っているように見えるが、ラルフの言葉からドラゴンは本気を出していないことがわかった。
 私はこんな凄い戦いをする相手を、巨大化することもできないクリュスに襲わせるつもりだった。ミリィの背中を冷や汗が伝う。


 サムは必死にソフィーを揺すった。上空での戦いは、いつ決着が着くかわからない。堕ちてきた契約獣に潰されるかも知れないのだ。
 ソフィーは激しい揺れに、嫌でも目が覚めた。背中には、彼女の契約獣であるリトスのちょっと硬い毛皮がある。

「どうしたの、サム? 一体、何があったの……?」

 ようやく起きた主人に、サムは思わず涙がこぼれた。

「よかった、お嬢様が起きてくれて本当によかった! お嬢様、早くリトス様を制御してください。今はブラッドレイ卿が押さえてくれていますが、いつどうなるか……」

 ソフィーはリトスが何をしたか思い出した。いつも優しく可愛いリトスが、目の前で男たちを燃やした。その光景を思い出すと、思わず吐き気が込み上げる。
 しかし、それ以上にリトスが他の契約獣に襲われている現在の方が怖い。

「リトス、もうやめて! 元の姿に戻って!」

 ソフィーが固く目をつむり、両手を合わせて願う。このままではリトスがドラゴンに殺されてしまう。
 しかし、リトスは戦いをやめない。
 なぜなら、リトスはソフィーの恐怖を感じとり、未だ脅威は去っていないと判断しているのだ。
 声を聞いて動いたミリィはソフィーの両手を握り、共に願う。ミリィにはこの状況を打破する方法がわからない。契約獣の暴走など、初めて見たからだ。


 ラルフはソフィーが未だに恐怖に包まれていることに気付いた。彼女が落ち着かなければ、状況は変わらない。
 戦時中、仲間の暴走した契約獣を無理矢理、現実世界から神話世界に返したことはあった。そのためには、一度現実世界に現れた契約獣を殺さなければならない。
 その際に訪れる対価は左手の感覚を一ヶ月は失うこと、一族全員が契約獣の体の再生が終わるまで召喚もできなくなることだ。
 できれば、そんなことをしたくない。マール家といえば、カーバンクルを使い王宮など主要な場所を守っている一族だ。カーバンクルが召喚できなくなるとなれば、損害が大きすぎる。なにより、主人を守ろうとしているだけの契約獣を攻撃するなど、紋章貴族としてあってはならないのだ。

「ソフィー、君の契約獣は全くもって怖くない。私のリアマだって、彼を傷つけない。それをわかってくれ!」

 ラルフの言葉に、ソフィーは目を見開いた。
 リトスは契約者を守るために戦っている。物盗りを燃やしたのも、巨大化したのも、全てソフィーのためだ。
 リアマもただ警戒しているリトスを抑えるために攻撃している。しかし、致命的な怪我は与えていない。
 ソフィーは恐れていた自分が恥ずかしくなる。紋章貴族の一員だが、契約獣を信頼していない。彼女自身の手で今までのリトスとの友情すら怖そうとしているのだ。

「リトス、ごめんなさい! 私、どうかしてた! でも、教えてもらった! あなたたちなんて全然怖くないわ!」

 ソフィーは立ち上がり、金色に光る紋章を撫でる。一息でそう言うと、両手を前に出した。

「だって、あなたは、リトスは私の友達だもの! 友達を怖がらない! だって、大好きなんだもの!」

 ソフィーが泣きながらも、リトスを安心させるように笑う。ミリィには彼女の笑顔が、とても美しく思える。

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