運命の人に出会えば

太もやし

出会いは夜会で


 夜の半ばに、今夜の会場であるリッチモンド邸に着くと、ミリィは使用人の待合室に通された。
 そして、ミリィは目的を果たすため即座に行動に移った。
 忙しそうなリッチモンド邸の使用人を捕まえ、紋章貴族の話を聞いた。

「旦那様は紋章貴族も普通の貴族も関係なく、ご招待されるお方だよ。そう聞くってことは、差別するお家に使えてるのかい? そう聞けって言われたのかい?」

 呼び止められた時は迷惑そうにしていたが、喋ると口が止まらないのか、ついにはミリィが興味深そうに質問されていた。

「いえ、私がお仕えしているお家はロンドンに来たばかりなんです。ロンドンでは、紋章憑きはどう扱われているか知りたかっただけなんです。」

 紋章憑きと言ったところで、使用人の片眉がつり上がり、仕える家はどこか聞かれる。
 どうやら、ロンドンでは、紋章憑きという言葉は使ってはいけないようだ。
 ミリィは自分の失言を詫び、急に外の空気が吸いたくなったと待合室から逃げたした。


 ラルフ・ブラッドレイは、リッチモンド邸の夜会に来たのはいいものの、自分を狙う視線に嫌気を感じバルコニーに逃げていた。

 彼は国土を守るための戦争に行き、同じ紋章貴族の中でも一目置かれるほどの活躍を成し遂げ、少佐の地位まで登り詰めた。これからも軍で活躍することを期待されていた彼は、二年前に突然、二十三歳という若さで侯爵になった。それは誰しもが想像していないことだった。

 ブラッドレイ家の所領で、たちの悪い流行り病が蔓延し、ラルフの父と兄がこの世を去った。だから、ラルフは軍を辞め、爵位を頂戴した。
 侯爵となったラルフは、まず病気により荒れ果てた領地を立て直すことに専念した。回復した領民に仕事を与えることで、錆び付いていた経済の歯車を、もう一度潤滑に回すこともできた。
 なんとか所領の問題を良い方向に向かわせることができたラルフは、今年のシーズンに参加することを決めた。
 父と兄に先立たれた母たっての願いである花嫁を探すこと、領地経営が順調であることを宣伝することで、新たな取引相手を見つけ、もっと領地を豊かにすること、この二つが目下の目的である。

 紋章貴族であることを考えても、自分は良い結婚相手になると、己を評価していたラルフだが、その見積もりは外れてしまった。
 彼は、今回のシーズンにおける最上級の結婚相手の内の一人だったのだ。

 戦争では獲物を狩る側だったラルフが、狩られる側になった。ラルフは、世界は移ろいやすいな、と空を見上げ、星を探そうとした。
 しかし、満ちた月はとても大きく、そして明るいので星を見ることは叶いそうにない。
 今さら気付いたことで、自分が余裕をなくしていることを知った。
 自嘲していると、下からかすかな声が聞こえる。ラルフはつられるように、音の出所を探した。

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