停導士の引き籠もり譚

山田 武

パーティーに参加しよう



「おお! よくいらっしゃった、バスキの第三王女よ」

「ええ、今回はこのような場まで設けていただき、光栄でございます」

「いやいや、これから我が国とバスキとの間に築かれる歴史的な事柄を考えると、これくらいのことは当然のことでございますよ」

 目の先では、そのようなやり取りが行われていた。

 片方は偉そうな格好に冠を付けた王様(国名は忘れた)。
 片方は煌びやかなドレスを身に纏った美しい美貌を持った、若き王女様。

 うん、要は旅も終わって無事到着したってことなんだ。

 今は第三王女の来賓を祝したパーティーの時間、そして先程のアレがその中でもメインとなる邂逅ってワケだな。

 あれから色々とあったんだが――その中の一つ、暗殺者の回想でもして、どうでもいい対談の時間を潰そうか。

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 俺の影から飛び出した血の槍、それらは暗殺者の体に喰い込み抜けることは無かった。

「……ぐっ。な、何をした」

「何も。俺が手を出さずとも、お前達の敗北は決していたって言っただろうに」

「ふ、ふざけるな! "ウインド――」

《させると思うか?》

 代表っぽい男の抵抗は、始まる前に食い止められた。
 体に刺さった槍の形状が少し変わり、現れた逆棘がグリグリと男へと刺激を与える。
 すると、その痛みから魔法の詠唱を止めてしまい、魔法の発動は失敗する。

《偉大なる我が主への狼藉、本来ならば即座の死刑が妥当かと》

「本来って言ってる時点で、もう何をするかは分かっているんだろう」

《ですが、幸いにも言葉を話す猿は五匹。少し数を減らしても問題無いかと》

「……それもそうか。ま、後で面倒事にならないようにしてくれれば構わない」

《はっ、主の御心のままに》

 そう答える返事が聞こえると――昏い影が胎動し、暗殺者達を呑み込んでいく。

「……チッ、おい! アレを使え!」

「わ、分かった!」

 そう言って配下っぽいヤツが取り出したのは、筒のような物であった。
 ソイツはそれに魔力を流し込み、紐のような物を引っ張って起動を行う。

《クッ、面妖なことを》

「へー、まだ足掻くのか……面倒だなー」

 ボシュンッ、と筒から放たれたのは仄かな燐光であった。
 小さな光は上空に飛んでいき――強烈な閃光で世界を照らし出す。

 咄嗟に周囲への影響は遮断したが、それでもここら一帯には光が万遍なく行き届いてしまう。
 周囲に伸びていた影が俺の足元まで追いやられてしまい、暗殺者たちは血の槍の拘束から、その隙に抜け出す。

「どうする、手を貸した方が良いか? お前独りでも余裕だとは思うが……長時間この場に居ると怪しまれるしさ」

《……申し訳ありません。ですが、私だけでやらせてください》

「ああ、任せたぞ(面倒だからな)」

 第三王女に怪しまれると困るし、そろそろパパッと終わらせようとしたが……まぁ、本人のやる気に任せようか。

《いきます――"部分日蝕"》

 すると、俺の足元の影が再び蠢き、上空で燦々と光る光球の周りに集っていく。
 影は靄状になって少しずつ光へと近付いてき、輝きを奪おうとしている。

 実際、影がそこに居るだけで、だんだんと周囲の明るさが戻っていっているしな。

「そうはさせん! "ウインドブラスト"!」

 代表っぽい奴がそう言って魔法を発動させると、周りの奴らもそれに続き、色々な魔法が靄へと襲い掛かった。

「でもなー、無理だよなー」

「……ば、馬鹿な」

 まあ、靄はそんな魔法も気にせず、黙々と光を蝕する作業を進めていた。
 実際には少し違って、魔法を喰らってのが正解なんだけど……今はその説明は置いておくとしようか。

 ――既に光は月光に劣る輝きしか放てず、世界は再び影の存在を享受していく。

 靄は俺の影へと戻り、同化した。
 そして、先程のように辺りへと自身の活動領域を伸ばしていき……はい、暗殺者たちはまた捕まったぞ。

《少し侮ったことは詫びよう。今度は体を動かせないようにしておく》

 血の槍から幾つもの棘が伸び、人体の関節部分を的確に押さえていく。
 ついでに経絡も刺しているみたいだし、もう逃げ出せないな。

「それじゃあ、俺はそろそろ第三王女の元に戻る。できる限り質問しておいてくれ」

《ハッ。御心のままに》

 俺のがこの場を去った時、此処には誰もいなかったとさ。

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 そして今、パーティーに参加中だ。
 城に入ってからは何の問題も無くことが進み、王との謁見も済ませられた。
 俺も異世界人の正装として制服を着込み、このパーティーを眺めている。

 ……いや、面倒事は御免だからな。
 俺に話しかけたくない、と精神的な嫌悪感が俺を見た瞬間に感じられるようにちょいと細工をしてあるので、話しかけられるのは限られた者だけである。

「やあ、久しぶりだね。トショク君」

「……ああ」

「さっきもう君の顔を見たけど、話す機会は無かったからね。こうして直々に、トショク君を見に来てやったよ」

「そりゃどうも」

 そして、そんな限られた者の一人が、俺の目の前に立っていた。
 いかにもファンタジーの魔法使いが着そうなローブを羽織り、無駄に金の掛かりそうな宝石を嵌めこんだ杖を持っている。

 ――ソイツの名前は……あ、駄目だ。思い出せない。
 とにかく、俺のクラスメイトだった。


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