停導士の引き籠もり譚

山田 武

面接をしよう



トショク邸


 ほぼ全ての者が記憶から忘却していると思うが、『トショク』とは俺の名字だ。
 昔調べたけど、俺の家系以外でこの苗字を持っている日本人はいなかったな。
 ここだけは、なんだかラノベの主人公みたいだな、と思っていた時期がある。
 ……珍しい苗字としてテレビに挙げられることも無かったので、結局は直ぐにその思いも消え失せたけどな。

 トショク邸は俺の居る国の建物の中でも、ベスト10ぐらいに入る大きさだと説明されたけど……そんなに広くても正直引くだけだ。
 日本人は狭い場所を好むんだ。
 一所懸命という言葉が生まれるぐらいだしな(適当)。

「――ま、そんなワケでお前達には、早速面接をして貰う」

「め、面接……ですか?」

「そうだ。まぁ、一部生きる意志も無いような奴もいるが、ソイツは後回しにして全員がこれを行う。自分のやりたいことを既に見つけてあるというのなら、俺はそれを全面的にサポートするつもりだ」

 ……何せ、自分が努力しなくても一流の技術者が手に入るんだからな。
 最初の職場探しとか機材の用意ぐらいだったら、恩を売るという体でやってやるつもりである。

 あ、話しているのは奴隷の内の一人だ。
 俺に関する情報の内、開示してある物は従魔から聞いているだろうし、面倒なことにはならないだろう。

「それじゃあ、えっと――金髪。君から始めようじゃないか」

「き、金髪って……。ワタシには、ちゃんとスルフと言う名前が」

「え、そうなの? なら――はい、これを付けておいてくれ」

 そう言って渡したのは、今殴り書きで『スルフ』と書いた名札である。
 ……いや、本当に人物名なんて面白そうな奴以外は忘れるからさ。
 今はあんまり価値を感じられない奴隷達の名前を、直ぐに記憶するのは難しいんだよ。
 だからこそ、今回名前を確認したらこうして名札を渡す予定だ(奴隷なのに名前を主張している、それは彼女の奴隷歴が浅いという証明なのだ。彼女はまだ、売り物にされる前の状態だったしな)。

 金髪の奴隷はそれを見て嫌そうな表情を浮かべたが、自分の立場を鑑みて大人しくその名札を留めた……バッチリだな。


 面接には、執務室っぽい場所を使う。
 他の奴隷には従魔が飯を配っているだろうよ……俺の作った(料理)スキル実験用の数々の品をな。

「それじゃあ、面接を始めるぞ」

「は、はい。お願いします」

 金髪……じゃなかったスルフは少し緊張しているようだが、ここは地球の(圧迫)面接会場では無い。
 (催眠魔法)で呪いを掛けてから、幾つかの質問を行っていった。

 ま、必要なことだけであって、相手のトラウマを抉るような質問はしなかったがな。

「――はい、お仕舞いだ。最後に一つ、お前はこれから何をしてみたい?」

「……強く、強くなりたいです。もうこんな風に未来をグチャグチャにされるのは嫌ですから」

「了解。なら、二つの職場を用意するから、その二つから自分の未来に合った方を選んでおいてくれ」

 そう告げて置いて、面接を終了した。
 スルフには次の奴隷を呼ぶように指示し、その間に従魔を通してその職場に関する支度やら何やらを済ませておく。
 ……いや、俺独りで準備するとは、一言も言って無いじゃないか。

◆□◆□◆

「……これで、全員終わったか」

《お疲れ様です》

「あぁ、疲れたも疲れた。今まででベスト5に入るぐらいの疲れっぷりだぞ。催眠も調整しながら掛けないと壊れるし、面倒だったぞ全く……」

 全員の面接が終了して大きく伸びをしていると、マチスから労いの言葉が入る。

 本当に大変だった。
 最初の方の奴隷は大体簡単にできたんだけど、後回しにしていた奴隷の中には、精神が病んでたり崩壊していたり異形だったりとヤバいのが多かったからな。
 それを全て俺の望むように調整を行い、尚且つ調整で壊れないように、と細心の注意を払うんだぞ……実に面倒だった。

《主よ、それで結果の方は》

「普通に侍従として働きたいのが少しと、復讐をしたいのが少し。後は……大体とにかく強くなりたい的なヤツだったな」

《……その者らはどちらに》

「さぁな。俺も考えてはいるが、正直見せただけだと片方に人員が集中する気がしているからな。無理矢理押し込むか、その危険性を知らしめ……ても諦めないか」

《主がいなければ、その者らの未来はより悲惨なものであったと思われます。ならば、その未来から逃れる力を得る為、平気で修羅の道を歩もうとするでしょう》

「バランスよく行ってもらって、スキルの派生を増やそうと考えてたんだが……普通安全な道を選ばないか?」

 細かいことは説明しないが、俺が力を求めた者に用意していた道は二つ。

 主人公的スキル覚醒ルートと、モブ的成長ルートである。

 俺としてはモブ的成長ルートでゆっくりとしてほしかったんだが……まぁ、主人公的スキル覚醒ルートでも良いか。

「……やれやれ、どうしてみんな前に進もうとするのかね。矛盾した思考を植え付けようとすると、それはそれで導きから解き放たれる可能性が上がるんだよな」

「停める者を選ばれればよろしいのでは?」

「それしかないんだよな~」


 面接内容を改めて纏めてから、今日はもう寝ることにする。
 ……頭脳労働が半端無い一日でした。


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