停導士の引き籠もり譚

山田 武

クラスメイトの敵を討とう



大迷宮 王家の迷宮


 否が応でも参加せざる負えなかった。
 ……嗚呼、時間は過ぎ去ったよ、少年の夏休みのように。
 俺は日々楽をする為に努力していた。
 うん、毎日同じようなことをして、ずっとクラスメイトのスキルをコピーするのに励んでいたよ。

 そして、気が付けば一月が経っていた。
 ……早すぎるだろ!
 俺にゆっくりとする時間をくれよ!

 思えば色んなことがあった。
 ……あったけど回想するのも面倒だし、もう諦めよう。

「行こう、みんな!」

『オォーー!!』

 "真理誘導"は効果を発揮しているし、クラスメイトのやる気は満々だ。
 今回は編成もだいぶ纏め、集団での行動となった。

 もうクラスメイトの洗脳は終わっているんだし、確かに纏めておいても問題無いな。
 俺以外の誰がそれを防げているかは知らないけど、ソイツが批判をしようとしても、数の暴力でどうにでもできるか。

 護衛の騎士もしっかり付いており、前や後ろでサポートに入っている。
 クラスメイトは彼らの指示に従って攻撃をし、少しずつLvを上げている。

「さて、俺もやらないとな」

 道の奥の方に出現した犬型の魔物へと、構えた矢を射る。
 (神聖武具術)で補正を受けた矢は曲線を描き、その魔物へと直撃する。

 ……うん、他の奴の魔法と同タイミングで命中だ。
 ほんの少し先に当たったから、経験値は俺の方に来るな。

「……フゥ」

 集中して疲れた……みたいな感じにして、俺はゆっくり休憩する。
 仕事はしてるんだから、誰も文句は言えないだろう。

「というか、言う気にならないだろう」

 (催眠魔法)で騎士の方は既にどうにかしてあるし、クラスメイトは元々俺に関わらないだろうから……問題無いな。
 面倒な和弓女子に関しては、ユウキと共に行動しているのでバッチリだ。
 俺の矢が飛ぶ度に、ちょくちょくこっちを向くのは止めてほしいけどな。

 さて、もうちょっと冒険だな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 魔物を狩り尽くし、5階層に辿り着いた俺達を待っていたのは、ヒ……ヒラリ君を地下へと落とした龍であった。
 だが、彼らの意思は変わらない。

「行くぞ! ヒデオの敵を討つぞ!!」

『オォーー!!』

 勝手に死んだことにされている彼に多少の同情を感じながら、適当に弓を射っていく。
 龍はクラスメイトの攻撃を受けても、あまり変化は見られない。
 まぁ、前回も最終的には落とさないと倒せなかったんだしな。

 龍も時には攻撃をする。
 尻尾を払い、爪を振り、牙で噛み、鱗で攻撃を弾く。
 息吹は吐かないが、それでもクラスメイトと騎士を相手に上手くやっているよ。

 俺のちっぽけな矢も丁寧に弾いてくれているし……いや~実に楽だ。

「力を貸し――」

 あ、ユウキの声はもうどうでもいいや。
 催眠で周りの声を聞こえないようにして、適当に戦闘を行っていく。

 弓を射る、射る、射る――弾かれる、弾かれる、弾かれる。
 弓ってのは本当にありがたいな。
 弓自体で戦うんじゃなくて、それを用いて矢という武器を放つ。
 弓にも矢にも付与が可能だから、通常の武器よりも威力を増すことが可能だ(まぁ、今はやらないけど)。

 ――――――ッ!!

 パカッと龍が口を開けて、周囲にピリピリとした空気が訪れた……と思う。
 威圧による恐慌も状態異常の一つだしな。
 同じ状態異常である催眠にどっぷり浸かっている俺に、それは効かないようだ。

 だから俺には、ちょっといい感じの風が吹いて来たようにしか思えなかったよ。

 クラスメイト達はそれに竦み、どうやら怯えているようだな。
 "真理誘導"は思考を誘導するのであり、俺同様に状態異常を発生させるものではない。
 ならばクラスメイトの皆様方がそうなるのも、仕方が無いっちゃあ無いだろう。

「――――」

 えっと……クラスの女子の一人が魔法を唱えると、全員の状態異常が無くなったみたいだな。
 立ち上がり、再び龍へと挑んでいる。

 ……ったく、余計なことすんなよな。
 怯えて今回も撤退になれば、またゆっくり休めたのに。

 彼女の魔法がどういう原理で恐怖を取り除いたかは分からないが、少なくとも俺の催眠は解けていない。
 冷静になる魔法とか、そういうのか?

「――――、――――!!」

 ここでテンションを上げたユウキが、剣を純白に光らせ始める。
 すると他のクラスメイトも武器に変化が起きたり、今までより強そうな魔法を使い始めたり……うん、総攻撃って感じかな?

 なら俺も、少し強めにしておかないとな。

「放て――水の矢」

 青の矢と白の矢を混ぜた水色の矢。
 魔法によって創られたそれを番えて放つ。
 今まで以上に正確に龍の鱗――それも逆鱗に当たったその矢は、龍の中へと浸透していき――

 ――――――――――ッ!!

 ……より元気にしてくれた。
 水色の矢は回復の矢。
 どんな存在であろうと癒し、体を活性化させてくれる。
 これで龍も今まで以上に暴れてくれて、クラスメイトも俺を気にしなくなるだろう。
 逆鱗に刺したのは、より浸透させる為だ。

 ……え、お前なら倒せるだろ?
 うん、その気になればそこの龍ぐらいなら余裕で倒せるぞ。
 補助系統のスキルを全開で使い、(神聖武具術)の力を籠めて白の矢を放てば……あれぐらい一撃だし。

 でも、それを俺がやったら面倒なことばっかりだしな。
 そういうのはやりたい奴が、無駄にカッコイイスキルでも使ってやればいいんだよ。

 クラスメイトが盛り上がる中、俺は一人、回復の付与を行った矢を龍へと放ち続けた。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品