停導士の引き籠もり譚
会議は裏で行われる
訓練場
そういえば、ダンジョンにはもう行かないのだろうか。
みんな忘れてるけど……洗脳に掛かったんだから、もう行くと思ったんだけどな~。
成長した能力を全部見れる機会なんて中々無い。
面倒だが、それによって手に入る物が凄いし、行く時はちゃんと行くよ。
「ふふん、どうよイム」
あぁ、どうしてそんなどうでも良いことを考えていたか、思い出してしまった。
俺の隣では和弓女子が、的に綺麗に中てたことを自慢しているんだったよ。
そう、何故か俺の練習場所までやって来た和弓女子は、俺に魅せるように弓を射ているのだ。
「…………」
「ちょ、ちょっと、なんで無視するのよ」
ま、それと俺が反応を示すかどうかは全く別問題なんだけどな。
新たに矢を複製できるスキルを入手したので、もう一々補充に行く必要も無くなった。
面倒なことはさっさと終わらせたいしな。
再び弓を構えて――放つ。
「……イム、もう少し脇を締めて。それに、引手は顎に付けた方が良いわ」
「…………」
言われた通りに姿勢を整え、弓を射る――今までより綺麗に中った気がする。
……ん? 正しく射ただけで新たにスキルが手に入った。
正しい使い方をすると、スキルも入手し易くなるのか?
「……名前」
「……へ?」
「名前は何なんだ? 今まで一度も俺に言わなかったよな? 確か」
和弓女子は、俺の隠れ蓑に使えそうだ。
どれだけ弓が上手くなっても、彼女のお蔭だと言えば、勝手に周りは理解してくれるだろう。
そのせめてものお礼だ。
今日のメモリーを使って名前を覚えておこう……というワケだ。
「言ってたわよ言ってたわよ! 言ってたわよ!! わたしは――鶴音、葉月鶴音よ!」
ツルネ……確か、弓の何かに関する言葉だよな。
それに確かハヅキって……駄目だ。
当時の思い出がどうでも良いこととだったのか、それを全く思い出せない。
ま、それより今は――
「そうか……なら、ハヅキ様。自己紹介も終わりましたので、ご自身の練習場所へとお戻り頂けないでしょうか?」
「は? 何言ってるの「ツルネ様!」……げげっ!」
おいおい、一応でも女子がそんな声を出すなよ。
和弓女子の前に、長距離武器担当の青年兵士がやって来る。
俺の方を侮蔑の眼差しで見てから、顔を変えて彼女と話す。
それから彼女は嫌がりながらも、最終的には此処から去って行った。
うん、良くやったな青年兵士。
ご褒美に犬の真似をさせようとしていたのは無しにしておいてやる。
和弓女子が居なくなったので、自分のやりたいことを思いっ切りやれるようになった。
「しかし、正しい使い方か。(元素魔法)だったら、使い方は……合成、だったよな」
(元素魔法)もコピーしたスキルで、基本属性と呼ばれる魔法を一つに纏めたような便利なスキルだった。
複数の属性を束ね、自分の望む現象を起こせる……そう詳細には書いてある。
イメージする。
矢が魔法の効果を持つような現象を。
何色もの魔法の色が絡み合い、一つの色へと変わるその瞬間を。
(付与魔法)の力も借りて、それを実現させていく――
「パクれ――赤の矢!」
折角なのでそう叫び、矢を放つと……撃った地面が発火し、土の上で暫く炎を揺らめかせていた。
……的を燃やしたら大変だからな。
地面に撃っておいて正解だった。
それから"七色弓◯"擬きを使い、俺の考えた七色の矢を放ってからステータスを見る。
「――よし、(元素魔法)も習得できてる。しかも(神聖武具術)まで! 白のイメージもプラスでやったのは正解だったな」
なので、俺の技は"七色◯箭"では無く"色纏魔矢"だな(今適当に考えた)。
混ぜればどんな色の矢でも撃てるので、大体こんな名前でいいだろう。
白は神聖、破邪の色とした。
その効果が良かったのか? お蔭様で習得できたぞ。
「さて、次は何をしようかな?」
こうして今日も、俺の面倒な日々は続いていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
???
とある城のどこかで、高級な服装をした官人が集まっていた。
そこに、王冠を被った者と綺麗なドレスを着た少女がやって来て……会議は始まり。
「勇者様の調子はどうだね? 騎士長」
「ハッ! 【勇者】ユウキ様は、私の剣術を少しずつ超えつつあります。完全に超えられましたら、異なる武具を使わせるつもり御座います」
彼らにとって【勇者】とは、最も戦力となる道具であった。
千の軍勢を退け、万の兵を撃ち滅ぼす……最大の兵器である。
神の加護を与えられた者にしか使えない聖氣を武器に纏わせ、それを完璧に振るうことのできる。
それは、魔族を滅ぼす絶対的な理由としても使える存在なのであった。
「ふむ。では、他の者で使えそうなのは?」
「直ぐに使える者となりますと……ユウキ様以外では四人となります。【護闘士】のコウヤ様、【聖女】のアユミ様、【賢者】のチヒロ様、そして……【弓聖】のツルネ様です」
兵士達は、勇者の仲間達をも兵器として使うことを知らない。
ただ、戦力になるかどうかを報告するように命じられていただけだ。
その結果、兵士達に選ばれたのは四人の少年少女。
誰も彼もが強力な唯一スキルを得、それを使いこなすだけの技術を有していた。
「そうか、まだ四人か。逆に、戦闘力で問題になりそうな者はいるのか」
「いえ、スキルを習得できていない者は例の者以外はいない……そう報告を受けています」
「ふむ。その予定であった少年は既に迷宮で死んでいる。本来であれば、"真理誘導"への抵抗で生じる感情を、全て彼へと押し付けようとしていたのだが……だがその代わりもいない、か」
"真理誘導"はその国が有する"勇者召喚"に匹敵する程、秘中の儀として封印された禁忌の魔法だ。
一度成功すればその者の生死は発動者に握られる。
召喚されたばかりの勇者達には抵抗することは不可能だ……そう考えている彼らは、少年の死で精神的に滅入っている勇者達にその魔法を発動させた。
だが、その魔法も完璧では無い。
その者自身の考え方を塗り潰されるのだ、その副作用として周りに苛立ちを感じやすくなる。
それらが自分達に及ばないよう、彼らは身代わりを用意しようとした――最も無能な勇者達の仲間の一人から。
だが、彼は迷宮で死んでしまった。
故に、彼は探していたのだ。
――新たな身代わりの代理を。
「まぁ、良かろう。不具合は全て魔族へと押し付けておけ。……それより、ダンジョンへはいつ向かう」
そう訊かれると、ローブを纏った老人がそれに答える――
「ハッ! 恐らく一月後になるかと。勇者達には未だ魔法を習わせていません。先に挙げた者達もそれなりの実力にさせるとなりますと……それぐらいの時間が必要かと」
「そうか……仕方が無い。一月待とう。しかし、その間に脱走が起きぬように思考はしっかりと縛っておけ」
「承知しました」
老人がそう言うと、王冠を被った男はこの場から去った。
他の者もそれに倣って、部屋から退出していく。
そして、その場には最初に部屋から出た者と同時に入って来た女だけが残った。
「……ふふふっ。果たして彼らにできるのかしら? わたし達の目を欺いて、この城から出ることなんて」
そう呟いて彼女もまた、その場から退場していく。
――この時はまだ、誰も気付いていなかった。
彼らの目を欺き、ステータスを隠し。
彼らの目を欺き、少年を生かし。
彼らの目を欺き、戦闘力を隠し。
彼らの目を欺き、"真理誘導"をも打ち破ったその少年のことを。
そして、彼が全く城から出る気が無く、むしろ寄生虫として城に住まおうとしていることを……。
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