異世界召喚された俺は、チャットアプリを求めた

山田 武

スレ30 死体と書いてアンデッド



 今更だが、死体はアンデッドと呼ぼう。
 生きていないが体が無い種類の魔物もいるし、とりあえず生きていないと言う意味だけで理解できるアンデッドの方が説明し易い。

「"虚無限弾・追尾"――レッツゴー」

 腐臭のするアンデッド達には近付きたくないので、指先から大量の魔弾を放って殲滅していく。
 ナツキ辺りなら、この周辺全てを一気に浄化するなんてこともできる、とか言いそうだが……(無魔法)しか使えない俺にはそれはできないからなー。
 地道に倒していくしかないんだよ。

「"虚像偶像"……回収を頼む」

 これは旅の途中、人手が欲しくて生み出した魔法だ。
 魔法の仕様からか実像が無く、ノイズが体中に走っているのだが、俺の頼みたいことはできるので気にしていない。
 "虚像偶像"――以降は人形と呼称――は俺の倒したアンデッドの元へ向かい、そこに散らばった小さな石を拾い集めていく。

 魔石、魔物を倒した際に極偶に現れるというのが一般の常識なのだが、異世界人が倒した場合はほぼ確実に出現する。
 落とした魔物によって色が付いていたりいなかったり、大きかったり小さかったりするのだが――今回は色なしの小さなヤツ。
 つまり、一番価値が低い種類の魔石だ。

 だが、それは一部の者にとっては異なる見解である――

 例えば錬金術師、魔石を束ねて大きくさせることのできる彼らには、どれだけ小さい魔石であろうともそれは宝の山と観ることができる。

 例えば魔物使い、魔物は基本魔力を有する物を好んで食べる。
 魔石の中には魔物が蓄積していったこの濃度の魔力が含まれており、それを食すことで成長を促すのだ。
 ……その魔力の持ち主によって更に特殊な反応を起こす場合もあるらしいが、今は置いておこう。
 そんな魔物を育てる為、魔物使いには魔石が必要なのだ。

「俺には錬金術に関するスキルは取れなかったし、魔物を飼うようなこともしていない……けど、使いようはなる」

 そうして、複数の窪みが空いた杖のような物を取り出す。

「魔道具って便利だよなー。自分にできないこともできるようになる」

 人形が集めてきてくれた魔石をその窪みに嵌めこみ、少量の魔力の流す。
 すると、ボッと小さな火が先端に灯る。

「さすが、勇者の持っていた魔道具だな。無色の魔石でもしっかり機能しているや」

 色付きの魔石には、一属性の魔力のみが籠められている。
 赤なら火、青なら水……まぁ分かり易い。
 無色の物よりも出る確率は低いが、その効果は無色の物を遥かに超えている。
 ……というより、魔道具の場合は属性が合わなければ機能しない物が多い。

 生活用の魔道具は、極限まで効率を高めた結果無色の魔石でも問題は無い。
 だが戦闘用となると、効率と威力を両立する為に色付きの物が必要となる。

 今回俺が使った魔道具は、戦闘用であり巨大な火の球を生成可能な物である。
 ――例えるなら、◯ラだけでなくメ◯ガイアまで使える代物だぞ。

 本来、そんな超絶火力を誇る魔道具を使う為には、迷宮の最下層辺りで手に入る巨大な色付きの魔石を使わなければならない。
 しかも、一度使ったら恐らく魔石の中に貯まっていた魔力全てが尽きて壊れるだろう。

 だがこの魔道具は違う。
 勇者アキが仲間と集めた高品質の素材で作られており、かつて使われた高度な技術が要所要所に見受けられる。
 無色の魔石内の魔力を増幅し、使われた素材とその技術で属性を帯びた魔力へと変換する術式を、魔道具に刻むことで発動――それは、国宝級の魔道具でも不可能とさえ、言われることだ。

「これはこれは……メイカと言うチートは例外として、どれだけ魔道具に人生を費やせばここまでの物になるんだか」

 魔道具の作る、ということはそう簡単では無い。
 使う素材を考え、発動する術式を刻み、適性な魔石を嵌める――それだけなら簡単にも聞こえるが、絶対にそんな甘い考えでは辿り着かない領域にあるのがこの魔道具だ。

「会ってみたかったな、これの製作者に」

 弟子がいるなら、きっと今のその技術は継承されているだろうか。
 勇者は製作者を老人と言っていたので、未だに生きているとは考え辛い。

 いつか、そう考えて旅の目的にするのも良いかも知れないな。

◆   □   ◆   □   ◆

 そうして"虚無限弾・追尾"と"虚像偶像"を発動し続け、墓場の中を歩いていく。
 運が無いのも関係しているのか、未だに色が付いた魔石は発見できていない。

「……うげっ、遂に来たか」

 あぁ、説明していなかったな。
 こうした迷宮では倒した魔物の素材は残らず、ただ魔石だけが残る。
 なんでも迷宮が魔石以外の全てを回収し、迷宮を運営する為のエネルギーにしているらしいぞ。

 だがしかし、それは迷宮で産まれた魔物だけであり、それ以外の存在は勝手が違う。
 例え死んでも死体はアンデッドになるまでその場に残り、倒されるまでは魔物として迷宮を彷徨い続ける。

 俺が見つけたのは、そうしてアンデッドになる途中の死体だ。
 入り口から近い場所なら専門の冒険者が回収しているが、奥地になるとそうした者の手が届かなくなり、回収できない死体が残ってしまうのだ。

「ま、死体自体はもう慣れたけどな。ご冥福祈りますよ~っと」

 魔道具の火力を少し上げて、死体に火を付ける。
 あ、持ち物はある程度人形が漁り済みだ。
 ある程度なら俺より先に行動してくれるから、本当に楽なんだよな。

 火が点いた死体は、そのまま体を燃料に燃え上っていく。
 肉が焼けていくその匂いを嗅いで……腹が減ったな、と思う俺であった。


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