約束〜必ずもう一度君に〜

矢崎未峻

約束

 勢いよく飛び込み中の様子を確認すると、委員長以外、無事に更衣室のロッカーの中に非難していた。

「良かった!もう少し遅かったら僕も入ろうと思ってたところだったんだ」

「先に入ってて良かったのに」

 朝霧がそれに答えると信じられないことを言い放ちそそくさとロッカーに入った。
 ロッカーが一人分足りないらしい。

「あの野郎、分かってて一つ減らしやがった」

 朝霧はもうパニックになっている。これじゃ相談もできない。

「高瀬!どこに入ってる?朝霧を入れてやってくれないか?」

 コツ、コツ、コツ。
 まずい、近づいて来てる。

「バ、バカ言いうな!開けたら危ないのに開ける訳ないだろ!」

「自分の彼女を入れてやれって言ってるだけだろ?すぐ終るじゃねぇか!」

 コツ、コツ、コツ。
 さっきより近くなった!

「知るかよ!早くこねぇのが悪いんだ!」

 こいつ、彼女を捨てやがった!
 前言撤回、こいつは最低のクズだ!
「もういい。こっちで何とかする」

「俺の美咲に手ぇ出したら承知しねぇぞ!絶対に、一緒に入るな!」

 なんて無茶苦茶なこと言いやがる!
コツ、コツ。
 本気でヤバイ!

「どの口が言ってんだよ。そんなことしないけどさ」

 最後のは小声で言って朝霧を引っ張って開いてるロッカーの前まで連れてくる。
 コツ、バンッ!
 ドアを、飛ばしやがった!
 ロッカーを開け、彼女を中に押し込み、閉める。
 閉じる瞬間、彼女の顔が見えた。泣いていた。
 それに目を奪われていたせいで、次の行動が遅れた。

「ヒトリ、ミツケタ」

「わお、ビックリ。お前、しゃべれるんだな」

 いつの間にか真後ろまで接近していた“人型の何か”に向き直りながら、後ろ手で彼女が入ったロッカーの鍵を閉めた。
 そして小声で話しかける。

「朝霧、泣いてていいから聞いてくれ。お前のことだ、出てこようとするだろう?だから鍵を閉めた。後で誰かに出してもらってくれ。音が鳴るから、扉には触れるなよ。分かったら軽く一回、扉を叩いてくれ。しゃべるなよ」

 バン。
 控えめな音が聞こえたところで、改めて“人型”に意識を向ける。
 ご丁寧にこちらのやり取りを待っていてくれたらしい。

「おい、お前の本体に話したいことがある。変われ」

「・・・・イイダロウ・・・・望み通り変わったが、私になんの用だ?」

「取引をしよう。俺は抵抗せずに潔く飛ばされる。その代わり、もうこの学校のやつらは見逃してやってくれ。どうだ?」

「答えはノーだ」「なら、この部屋にいるやつらだけでいい」

 こっちが本命。どう出る?

「それなら良いだろう。貴様の取引に乗ってやる」

「ありがとう。さっそく飛ばしてもらって構わないよ」

「そうしたいのはやまやまだが、君が君の後ろの少女と話してからにしようか」

 は?こいつ、何言ってんだ?
 理解ができないままゆっくり振り向き思わず声が出た。

「え?」

 どうして?
 どうして、君がそこにいるんだ。朝霧!

「そう、させてもらう」

 ゆっくり、数歩先の彼女のもとへ歩き、目の前で止まる。
 そして、軽くデコピンをして

「なんで出てきてんだよ、出てくんなって言ったろ?」

「出て来るなとは言ってないよ。扉に触れるなとは言ったけど」

「それ、出てくんなって意味だったんだけど?」

「ちゃんと言ってくれないと分かんないよ」

 いや、これはわかるだろ。と言おうとして、気づいた。こいつはわざと出てきたということに。
 その結論に至ると同時に、制服の袖を掴まれていることに気がついた。

「・・・俺、今から飛ばされるから。離してくれ」

 いやいやというように首を横に振る彼女は、また泣いていた。

「どうして、泣くんだよ?」

「一人に、しないで」

「答えになってねぇよ。ったく」

 今度は頭を撫でてあげながら、話しかける。

「一人じゃないだろ?みんながいる。君の好きな高瀬だっている。友達もいる。一人になるのは、俺のほうだ。俺はクラスの目立たないやつ。いなくなってもなんにも変わらない。だろ?」

 あれ?自分で言ってて悲しくなってきた。

「ううん、違うよ。いっぱい、間違ってる。私は、高瀬君なんて、元々、嫌い、だよ。それに、成、宮君には、いて、ほしい。だって「無理だよ」・・・」

 最後まで言われると折れそうだから途中で遮った。
 色々、ずるいだろ。

「取引をちゃんとしないと、君も助けられない。だから、ここに残るのは、無理だ。・・・おい、俺がこの子から離れたら、飛ばしてくれ。約束、ちゃんと守ってくれよ?」

「無論だ」

 俺の袖を掴む彼女の力が強くなった。
 意地でも、離さない気かな。
 それを、少し嬉しく思いながら、朝霧の手を自分の手で包み込み、

「約束しよう。俺は必ず帰ってくる。だから、今は離してくれ」

「ほんとに、帰ってくる?」

「必ず」

「約束だよ?」

「約束だ」

 ゆっくり、袖から手を離し、そのまま朝霧の手を一瞬、強く握る。そして、
「またな」

 そう言い残し、離した。

「待って、成宮く」

朝霧の言葉は、最後まで聞けなかった。

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