記憶共有的異世界物語

さも_samo

第91話:【万物】を司る神

僕の刺が眼球に刺さる中、シュンはふてぶてしく嗤う。

その声はこの無の空間によく響き、そして僕の不快感の限界値を遥かに越す。
突然空間に歪みが生まれ、そこから奈恵達が帰ってきた。

奈恵は今の状況を飲み込むと同時に絶句し、ライリーとファティマスはシュンを睨んでいた。

「やぁみんな!いらっしゃ~い♪」

シュンの顔が溶け、地面にボトリと落ちて再び元に戻る。

僕の無意識は相変わらず僕を無視する。
しかし、段々意識がハッキリしてきた。

意識すれば無数の刺を自由に操れるようだった。

自分の【意思】で【操作】できる物体。
ウッドソードの最悪の弱点【能力】を付与できないコト...。
僕はこれを克服したのか...?

「奈恵!ミレイ・ノルヴァの腕に回復魔法かけられるか?」

「私じゃ無理よ...上級女神の治療なんてどうしたらいいかサッパリ...」

「いや、ナイスタイミングよ奈恵。私の能力と、貴方の魔法なら行ける。私はナエラの気概を全て受け継いでいるんだから、その魔法だってナエラがベースなの。だからこそ今の貴方と私が合わされば実質【2倍】の能力ってワケ」

マヨイの助言に、奈恵が生唾を飲む。
覚悟を決めてミレイ・ノルヴァの元に走る奈恵。

シュンがカッ!と睨むと、空中に浮かんだ暗黒物質が爆風と共に爆速で奈恵に飛んでいった。

が、今の僕なら見切れる。

走る奈恵を尻目に彼女の前に立ち、シュンの飛ばした暗黒物質に触れる。

【ウッドソード】

その暗黒物質は僕が腕ごと持って行かれそうになるほどに強い【ねじれ】の力を発しながら空中に分解され、奈恵は無事にミレイ・ノルヴァの元に付いた。

2人で回復魔法をかけると、ミレイ・ノルヴァの腕はみるみるうちに回復していった。
しかしどこか違和感を感じているようで、その腕を自由に使いこなせるようになるには少しばかり時間がかかる様に思えた。

「ありがとう」

「感謝は後。私はほぼほぼ回復要員と化してるんだから、戦闘要員の貴方が戦わなくてどうするの」

「ハハ、まさか貴方に諭される事になるとはね....マヨイ!」


ミレイ・ノルヴァが時を止めた。

ミレイ・ノルヴァはシュンに向かって走り出す。
それは僕も同じだ。

「貴方当たり前の様に止まった時の中動くのね、正直不快だわ」

「だろうな。でも僕をここまで育てたのはアンタだぜ...?」

「フフッ....面白い」

ミレイ・ノルヴァがシュンにむかってロストブランクを唱えると同時に、シュンの四肢のパラメーターが【0】になり、シュンはダルマ人間になった。

しかしシュンの顔はギョロリとこちらを向き、シュンの四肢はすぐさま復活した。

「そっかぁ...じゃぁ俺がぁ...君にカウンターを決めた時はぁ....さぞかし不快だっただろうねぇ...?」

「これだから強者はやめられないよぉ!」

「黙ってろ精神弱者が」

僕が右手をかざすと、無数の棘がシュンを串刺しにした。

「ヘヘ...君にこの攻撃が出来るって事はさぁ...?俊介。それは俺にも出来るって事だよ?」

背中に感じる鋭い痛み。
視線を下に落とすと、そこには刺に貫通させられている僕の胴体があった。

「か....カハッ」

ミレイ・ノルヴァが急いで時を解除する。
時間が進む瞬間。マヨイが僕を見て【ウッドソード】を唱える。

僕の傷口は埋まった。
しかし、体内に棘が残り、その刺が再び僕を貫いた。

「ムゲンループの始まりさぁ!」

瞬間。地面から無数の棘が生えてきて、それは【針地獄】を連想させるものだった。

一つの太い針が地面から生え、その針はミレイ・ノルヴァを貫いた。
いつか夢で見たあの光景そのものだった。

恐ろしいまでの恐怖。
恐ろしいまでのおぞましさ。
恐ろしいまでの気色悪さ。

<a href="//19508.mitemin.net/i261288/" target="_blank"><img src="//19508.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i261288/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

そんな感情が僕の中をかける。

手刀でシュンの刺を折り、僕はそれを自力で引き抜いた。
その光景を見てシュンは不快そうな眼差しをこちらに向けたが、知ったことか。

不快な眼差しで睨み返してやった。

無数の棘はあっという間に辺りに生え、それはみんなを貫いた。
大量にこぼれた血が地面に溜まり始め、僕は生まれて初めて【血溜まり】を見た。

血液が貯まる光景がこれほどまでに恐怖心を煽るものとは知らなかったが、もう時間は無い。

助かったのは僕だけだ。

悲痛な絶叫が無の空間に響く。
僕の刺はみんなを貫く刺を根元の方から折り続け、僕はウッドソードでそれらの刺を抜いた。
しかしミレイ・ノルヴァのそれは余りにも太く、僕の棘では壊せそうにも無かった。

「ほ~らよそ見しちゃうとぉ~。命取りだぞ♪」

シュンの拳が僕の顔面に入る。
歯が折れているのがわかる。

口の中に苦い味が広がる。

まずい...死ぬ。

とっさの判断で後ろに避けると、さっき僕が居た地面に太い棘が生えた。

「へぇ~今のをよけられるんだァ~」

口に熱がこもるのを感じ、僕は喋れなくなっている事に気付いた。

マヨイが瀕死の中【ウッドソード】と自身の回復魔法を合わせた【合わせ技】で回復し、みんなも順に治していた。

「おめでとう....君はもう既に【万物を司る神】と言っていいほどの力を手に入れている...」

「君は確かに成長したさぁ~。少なくとも人間の域はもうとっくに越してると言って良いと思うよぉ~?でもねぇ...俺は神をも超越する【死神】」

「君は俺を....」

「殺せない!」


シュンの不快な高笑いが、無の空間に響く。

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