記憶共有的異世界物語

さも_samo

第84話:万物を司る【神】

消えた空間の歪みから液体の様なモノが落ちだした。

ポタ....ポタ....と黒い液体が空中から垂れる。
その液体は物凄い高温を持っているようで、湯気と共に地面に食い込み始めた。

「なんだこれ?」

ファティマスがその液体に手を伸ばす。
どこをどう見ても超高温なその液体を触り、手からジュワーッという聞くも無惨な音が聞こえた。

「熱くないのか?」

「ん?あぁ。まぁ普通の人間が触ったら溶けるぐらいには熱いんじゃないか?つってもマグマ程度の熱さだがな」

「えぇ....」

「んで?その液体はなんなの?」

「パッセ....お前なら見てわかるだろ?この温度とこの色、そしてこの粘土って事は....」

「....やっぱり【アイツ等】の血液よね」

「待て待て。勝手に話を進めないでくれ。そのアイツって一体誰なんだ?」

「....エルフの血液よ」

「やっちゃったね、ミレイ。」

ミレイ・ノルヴァはハァ....と深い溜息をついた。

「まぁいいじゃない。どうせ元々滅びる予定だった種族だったんだし」

「そんな滅茶苦茶な....」

「インティート。私は【運命を司る女神】よ?てことは私が滅ぼしちゃってもそれは運命だったって事に」

「なりません」

「...ごめん」

そこまで聞いて、僕はやっと理解できた。
さっきミレイ・ノルヴァが消したあの空間の歪みの中には、エルフが丸ごと入っていたのだ。

あの歪みを設置したのがシュンなのか、はたまた異空間に閉じ込められたエルフの努力なのかは分からなかったが、ミレイ・ノルヴァはその空間ごと消してしまったようだ。

そして、その空間の中にあったエルフの血液が、消したあとの残骸として垂れた....と。

いや、いやいやいや。
目の前で一つの文明が滅びた。それも神のミスで。

恐ろしいを通り越してもはや理解不能だ。
僕等と行動を共にするのが神であることを忘れかけていた。
ミス一つで文明が滅ぶレベルの強者と行動を共にするのだ。

心強いが、同時に僕の心配がMAX値を超える。
これは杞憂か?

いや違う。

神でさえこれ程恐ろしい力を持っているのに、その神が恐れる存在と戦おうと言うのだ。
これは杞憂でもなんでもない。

僕はなんて無謀な事をしているのだろう。

「まぁここでウダウダやってても始まらないし....行きましょうか、教会に。」

マヨイのその言葉で僕の身が締まる。
限界値に到達していた僕の恐怖心は限界を超えて、僕の行動意欲を極度に下げる。

精神力。

これ程までに精神力を欲したのは生まれて初めてだ。

奈恵も同じ様だった。
足が妙に震え、表情も引きつっていた。

しかし、トウと冬弥は違った。
ただ前だけを見据える表情をしている。

彼等に一体なんの動機があるって言うんだ。
彼等は一体何故あそこまで真っ直ぐ向き合えるのだ。

その精神力はどこから...。


━…━…━…

重く苦しい足をなんとか動かして、僕等は教会までやって来た。
そこには椅子に傲慢な態度で座っている【シュン】が居た。
顔には僕の血が付きっぱなしだったが、シュンにそれを気にする様子は無かった。

血の匂いが漂うこの空間で、僕等は異様な緊迫感に包まれた。

「こりゃぁ...意外だなぁ.....まさか戻ってくるなんてなぁ....」

シュンは最悪なニヤケ面で禁忌の書をちらつかせた。
嫌味な奴だ。

彼が禁忌の書を持っている限り、僕の行動は手に取るように分かってしまう。
だからこそ僕はここに戻ってくる以外の選択肢が取れなかったのだ。

「悪いが気が長い方じゃ無いんでね」

ファティマスの腕は熊のように毛深くなり、口からは牙が生えた。
その様はさながら【狼男】のそれであり、その豹変ぶりに開いた口がふさがらなかった。

その太く鋭くなった腕でシュンに飛びついた。
その一撃はシュンにダイレクトに入り、彼が後ろに吹っ飛ばされる。
ファティマスは追撃に追撃を繰り返した。

一撃が入るごとに物凄い揺れが発生する。

一体どんなパワーで殴っているんだ?

トドメの一撃で、ファティマスはシュンに噛み付いた。

その瞬間、カチン....と鋭い音が教会内に響いた。
ファティマスの長く鋭い牙は僕の頬をかすり、そして壁に突き刺さった。

頬から血が垂れるのが分かる。

ファティマスが後ろにジャンプし、折れた牙が生え変わった。

「肉体はダメージに耐える事が出来ないのさァ....でもダメージを喰らう事が無ければぁ.....」

シュンが右手を振り下ろした。

上から天井が落ち、地面に着くと同時に大爆発を起こした。
ミレイ・ノルヴァが両手を広げ瞬時にバリアを張ってくれたおかげで命拾いしたが、あたり一面が更地になった。

馬場さんの墓もさっきの一撃で吹っ飛んだ。

ヘヘヘと気色悪く笑うシュン。

「ね?ダメージが無ければどんな攻撃にも耐えられるんだよぉ~」

「てめぇ....シュン!」

僕は【ウッドソード】を唱え、地面にあった石を銃に変えた。

銃をシュンに向けて乱射したが、全て空中でキャッチされてしまう。
シュンが弾丸を指で弾くと、僕が撃った倍の速度でこちらに飛んできて、僕は被弾した。

肩からジワリと血が染み出し、猛烈な痛みが僕を襲う。

【ウッドソード】

「あぁ...!そうそぅ....。耐えられなくてもぉ?回復すれば耐えられるねぇ~」

シュンはこの状況を楽しんでいるのだろうか?

彼の冷たい眼光が遠い【何か】を見据えているようで、僕は身の底からの恐怖を感じた。

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