記憶共有的異世界物語

さも_samo

第72話:メグロ・ノルヴァ

ニーナ・ノルヴァの発言に空気が凍る。

「僕の記憶が....欠けてる?」

「えぇ、ガッポリ....と言うよりは虫食いみたいな感じで」

虫食いみたいに欠けた記憶?
記憶に関係する能力を使えるのは僕が知ってる範囲でニーナ・ノルヴァとマヨイ・ヴァレンの2人だけだ。

■※◇◆※□■※◇◆※□

偏頭痛が走った。
病気ならウッドソードで治せると思うのだが....どうもこればかりは原因が分からない。

「また消えた」

ニーナ・ノルヴァが理解できないと言う表情をして、辺りを見渡した。

「ここにいる神で記憶を扱える神は居ないはずなんだけどなぁ~」

ニーナ・ノルヴァが独り言のようにボソッと呟いている。
記憶が欠けている原因はこの偏頭痛の様だ。

「消えた分の記憶、戻してあげようか?」

「あぁ、頼む」

ニーナ・ノルヴァが眉間に指を置いた。
その動作に一瞬ドキッときたが、命の心配は無さそうだった。

次の瞬間。僕の目の前には真っ白な空間が広がった。
その空間には無数のホログラムモニターの様なモノが浮いていた。

その空間は近未来なモノで、宙に浮くモニターには僕の【過去の記憶】が写っていた。

なる程。確かに虫食いみたいに欠けた記憶がある。

というか3分の1は食われている。
全く気付かなかった。

いつの間に僕の記憶がこんなに食われていたんだ....。

欠けたモニターが直っていく。
数秒もしないうちに元の形に戻り、そこに光が映る。

ナエラが死んだ時の記憶....。
馬場さんが死んだ時の記憶....。

【シュン】の記憶。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ」

卓がざわついた。

叫ばずには入れなかった。
大量の記憶が一度に入ってきた感覚もそうだが、それ以上に負の記憶が多すぎた。
しかしこれでもまだ完全に治っていない。
直るのに時間がかかっているモニターが有る。

「どうかされましたか、俊介様」

グルヴァニアが声をかけて来た。

「あ、気にしないで。彼の欠けてた記憶を元に戻しただけだから」

ニーナ・ノルヴァが手を振ってグルヴァニアに相槌を返した。

グルヴァニアは一礼し、別の仕事に移った。

直るのに時間がかかるモニターを直す事にニーナ・ノルヴァも苦労しているようで、眉間に当たった指がどんどん熱くなって来る。

こんなに時間がかかるなんて一体何のきお....。

知らない。

僕はこんな記憶知らない。


気付くと腕が勝手に行動していた。

パッとニーナ・ノルヴァの指を払ってしまった。

「あーもう随分危ないことするのね。何か思い出したくないものでも思い出した?」

「すまん、もう大丈夫だ。全部思い出した」

ニーナ・ノルヴァは不思議そうな表情こそしたが、空気を読んでくれたらしく下手な追求はしなかった。

クソ...なんだこの記憶....。


░░░░░░░░░░░░

パンパンと手が2回鳴らされれ、皆音の方向を向いた。

そこにはマヨイ・ヴァレンが居た。

その両隣にはヴィクセン・ヴァレンとマヨイ・ヴァレンが座っていたのだが、幹事でもやるのだろうか?

「みんな集まってくれてありがとう....。今回卓を開いたのは他でもない【ノルヴァ家との和解】についてよ」

彼女の発言に卓がざわつく。
どうやらその事を初めて聞かされた神も居るようだ。

「グルヴァニア。お願い」

「はい。」

グルヴァニアは手を宙に上げ、能力を詠唱した。

【ソメルヘル】

どこか聞きなれない発音だったが、彼のその能力が詠唱されると同時に、僕等の目の前に食事が並んだ。

魔法を思わせるかのような空中浮遊で食事が飛んできて、果実がグラスの上で一人でに絞られた。

りんご、ぶどう、レモンの順番で絞られ、その濃すぎる原液が炭酸で割られた。
黄色く神々しく光るその液体の見た目は馬場さんの【ウィッチラニーノーズ】そっくりだった。

「ミレイ。貴方達は彼の能力を知らなかったわよね、彼の能力は【ソムリエ能力】。相手が最も欲する、【最適解】を渡す能力」

マヨイの説明にグルヴァニアは一礼し、そして補足する様に話し始める。

「お相手様の欲するモノをお渡し致します。今のは【食】のソムリエ。他にも【衣】のソムリエ。【力】のソムリエ。更には....」

「【死】のソムリエ....などがございます」

そういったグルヴァニアの目は完全にこちらを向いていた。
どうやら敵対しなくなるから、それを機にわだかまりが完全に解消されるとか言った事は無いようだ。

「じゃぁ乾杯と行きましょうか!」

そう言ってマヨイ・ヴァレンは手にグラスを持った。

あ、この乾杯は人間のそれと一緒なんだ。と困惑しつつも、とりあえずでグラスを持った。

「ノルヴァ家との和解を記念しまして」

「カンパーイ!」

マヨイ・ヴァレンがそう言うと、皆一斉にグラス同士を合わせた。

グラスの共鳴音が本当に心地よかった。

一口グラスの中身を口に含んだ。

その味はやはり【ウィッチラニーノーズ】に似ていたが、どこか足りないように感じた。
これが最適解と言われたのであれば間違っている。

「ところでニーナ。そちらの神は?」

ムッシャムッシャ食べているニーナはン?とこちらを向いて、指を指した方向を向いた。

フードをかぶった神だ。

「あ、彼?」

「彼はね....」

そう言うと同時にその神はフードを下ろした。

紫色のロングヘアー。
目に真紫の冷たい眼光を放っており、その眼光からは物凄いまでの威圧感を感じた。
口元に牙が2本生えており、ニタァ...と笑うとその牙が更に威嚇して見える。

「俺か?俺は【怪奇】を司る神。【メグロ・ノルヴァ】」

怪奇を司る神と名乗ったその男の口元は微かに笑っていた。

「言ってしまえばノルヴァ家の用心棒ね」

ニーナが明るくそう言ったが、その発言にメグロはどこか不服そうな顔をしていた。


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