記憶共有的異世界物語

さも_samo

第71話:卓。

僕達のそのやり取りを見て、マヨイ・ヴァレンは空間に溶けて消えた。

どうやら生き返らせる話はお預けになったようだった。

僕は一言も発せなかった。
それは他のみんなも同じ....。

誰も一言も発さず、僕等は教会に戻った。

これほどアウェイを感じたことは無い。

畜生。これも僕の能力不足か。

ナエラや馬場さんを生き返らせたくないのは彼等の為...なんて言ったが、本音は少し違う。

確かに彼等にこれ以上ないトラウマを与えることになってしまうと言う話はその通りなのだが、それ以前に僕自身彼等を生き返らせるのが怖い。

彼等を殺したのは僕だ。

シュンヤをチュラル村に行かない様に説得すればナエラが死ぬことは無かったし、馬場さんをこの旅に誘わなければ彼が死ぬことは無かった。

そんなキモチが引っかかって、ハッキリ言って僕は彼等を生き返らせるのが物凄く【怖い】。

今のところこの本音は悟られていない様だが....いや、もしかすると奈恵辺りにあっさりバレているかも知れない。

それでも僕に何も言わないのは、アウェイだからだろうか?
それとも単に彼女等の優しさなのだろうか?

こんな暖かい仲間と、これからも旅を続けていけるのだろうか?

このまま行くとまた誰かが死んでしまうかも知れないし、次に死ぬのは僕かも知れない。

もういっそこんな旅はやめたほうがいいのだろう。
彼等をみんな地球に送って、僕だけがバーミアに残って旅を続ければ...。

もうそれも出来ない。
僕は【ステンエギジス】を失った。

純也の目的がなんだったのかは結局分からずじまいだったが、彼は何のために僕に憑依したのだろうか?

彼はそれを何時教えてくれるつもりだったのだろうか?

もういい。

もう....いい。


━…━…━…━…

その日は一日中アウェイだった。

僕は布団にもぐり、一日を振り返った。

■※◇◆※□■※◇◆※□

激しい頭痛を感じ、僕は悔しさに襲われた。

もう...なにもかもが嫌になる。

━…━…━…━…

そのまま朝が来た。
枕元には置き手紙が置いてあった。

――――今日の午後、卓を用意します。
    教会に境界を開くので、そこで待機していて下さい
                ヴィクセン・ヴァレン――――

文章にあの特徴的な語尾は付かないんだなと思うのと同時に、彼女が敵対的で無くなっていることにちょっとした寒気を教えた。

コツ....コツ....と教会に足音が響く。
僕が鳴らすその足音に空気が凍る。

あぁ...またアウェイか....。

アウェイ...?何故?

「おはよう」

「あぁ...おはよう」

返事をしたのはトウだけで、他のみんなは俯いていた。

「おいおいどうしたよそんな浮かない顔して、もっと明るく行こうぜ」

僕のその発言に皆の視線が一気に集まる。

何か変な事でも言ったろうか?

「お前こそどうしたよそんな明るくなっちゃって、馬場さんやナエラの事を忘れた訳でもなかろうに」

馬場さん...ナエラ?誰の事だ?

「すまん。話が全く見えないんだが....その馬場さんとナエラって誰だ?」

ガタッと椅子から立ち上がる音が教会に響き、冬弥は僕の元に走ってやってきた。

「お前その発言は上等すぎるぞコラァ!ふざけるのも大概にしろよ?」

その表情からはいつものどこか女っぽい穏やかなオーラは一切感じなく、そこにあったのは純粋な【殺気】だけだった。

「ごめん俊介。流石にそれはないわ」

奈恵が捨て台詞の様に吐いたそのセリフには重みがあり、僕の中から物凄い【罪悪感】が沸いた。

馬場さん...ナエラ....誰だ?

罪悪感のせいで言葉が出なかった。
とりあえず僕は机のうえにそっとヴィクセンの置き手紙を置いて、少し席を離して座った。

皆極端に落ち込んでいる。

なんでだ?

さっきから理解できない状況が続いている。

時計を見ると時刻は11:58を指していた。
もうすぐ境界が開く。

ぐっすり寝たからだろうか、さっきから妙に頭が軽い。
なんというかスッキリした気分だ。

時刻が12:00を指すののと同時に、教会にガッポリ穴が空いた。

その穴はどこまでも深く底が見えなかったが、縦に空いたものだからこの場合の表現は【奥が見えない】になるのかも知れない。

何処かに出かけていたらしいライリーも丁度帰って来て、僕等は境界に入った。
全員入ったところで穴は閉じ、気付くと中世ヨーロッパ貴族を思わせる食卓が広がっていた。

とてもガヤついて居たが、この場所のプレッシャーがあまりにも強い。
ここにいるのは皆ヴァレン家の神々なのだろう。

一見すると神には見えない。
中にはミレイ・ノルヴァ達と同じで能力を制限して人の体になっている者も居るのだろう。
しかし僕を包む恐ろしいまでのプレッシャーが、この場の神妙さを物語っている。

「俊介御一行様、お待ちしておりました。わたくしは【奉仕を司る神】グルヴァニア・ヴァレンでございます。お気軽にグルヴァニアとお呼び下さい」

そう言って一礼してきた男の目はとても明るかったが、その奥に深淵の様な黒く冷たい眼光を感じた。

黒髪ショートの手袋男....。

外見を簡単にまとめるとそうなるのだろう。
タクシードライバーの様な真っ白な手袋をはめて、腕にはタオルがかかっていた。

クラブとかホステスの店員を思わせるようなピシッと締まったシャツを来ているグルヴァニアと名乗った神は僕等を席まで案内してくれた。

その席には金のプレートにそれぞれの名前が筆記体で掘られており、僕の席には【Saito Shunsuke】と掘られてあった。

いつの間にかグルヴァニアが消えている。

「ミレイ御一行様。お待ちしておりました」

僕が振り返るとそこにはミレイ・ノルヴァが居た。
その奥にはニーナ・ノルヴァも居たが、その隣に知らない神が居た。

フードを被っており顔はよく見えなかったが、男の神であることは確かだった。

「ありがとう」

ミレイ・ノルヴァはそう言ってグルヴァニアの案内されるままに席に座った。

僕の隣にはニーナ・ノルヴァが座っていたのだが、彼女は僕を見るな否や不思議そうな顔をしていた。

「どうした?」

「いや、貴方....記憶が欠けてるみたいだけどどうしたの?」

え。

「「え。」」

ニーナ・ノルヴァの発言に、反対隣に居た奈恵達が一斉に彼女の方を見た。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品