記憶共有的異世界物語

さも_samo

第64話:最悪のコンビ

ヴィクセンが灰色に似た光を発し始め、それはオーラの様にも見えた。

沈黙が走り、読み合い試合が行われる。
ヴィクセンは傷口を秒速で治していた。
向こう側が見えるほどの穴はみるみるうちに修復されて行き、彼女の自己治癒力に驚きと恐怖を覚えた。

ヴィクセンが宙を舞い、【棘】の文字を大量に飛ばす。

その文字は僕等の周りに円を描くように設置された。

なる程、逃げ場を無くす...ってか。

【ウッドソード】

地面を少し盛り上げて棘の文字を動かそうとした。
すると一つの棘の字が強く弾け、強い連鎖的爆発が起こった。

なる程、逃げ場を無くしてからの攻撃ねぇ...。

【ウッドソード】

シュンヤが地面を使った簡素なバリアを張ってくれた。
しかしこの行動までヴィクセンの予想範囲内だったらしく、彼女は上から重い一撃を加えバリアを壊した。

カァ....と獣のような息を漏らすヴィクセン。

気付くと彼女の爪が長く伸びていた。
口元には牙が見え、彼女がニヤリと笑う。

【ウッドソード】

銃を作り、0距離でヴィクセンに向かって発射したものの、ジャンプで回避されてしまう。

なんつうジャンプ力だよ...。

撃った弾が摘まれ、爪で弾き返された。
その弾丸は僕の頬をかすり、そこから血が垂れた。

獣じみた身体能力は獣のそれだった。

ヴィクセンの呼吸がどんどん荒くなり、彼女は【壊】の大文字を2つ作り上げた。

壊の文字が動くと、その文字に触れたありとあらゆるモノは破壊され【消滅】する。
辺りがあっという間に更地にされ、僕等はウッドソードで防御壁を作ったものの、それもあっという間に壊された。

靴を力が加わった状態のゴム素材に変えてジャンプすることで逃げた。
こうでもしないと死ぬ。

壊の文字が猛スピードで追ってきた。
ゴムに変えては飛んでを繰り返して逃げているが、完全に時間の問題だ。
どんどんスピードを上げてくる【壊】の文字に、僕は当然ながら、シュンヤさえもたじろんだ。


━…━…━…━…━

突如空間に歪みが生まれ、そこから未知の生物が出現した。
【壊】の文字はその生物と衝突し、物凄い光と風を生じ消える。

シュー....と焦げる音が聞こえ、その場に無の静寂が訪れた。

「敵との戦闘は控えてって言った貴方が戦ってどうするのよ」

奈恵だった。

ライリーと奈恵が来てくれた。
どうやら奈恵の魔法で架空の生物をぶつけた様だ。

文字が無機物を破壊しながら進んでいるのを見て有機生命体をぶつければいいと言う考えに至ったのだろうが、よくまぁパッと見でそこまで考えが至ったものだ。

ヴィクセンはキッとした表情でライリーを睨んだ。
ライリーは何故かニヤニヤしている。

「アンタ...本当にノルヴァ家に入ったさね...?」

「だとしたら?」

「残念さね、アンタとは仲良くしておきたかったさね」

ヴィクセンのその言葉にライリーはクズの顔になった。
口がニヤリと歪み、意地悪な上目遣いを見せた。

「私に顔を売っても母はなんにも考えないと思うわよ?」

ヴィクセンはフンと鼻を鳴らし、再び【壊】の文字を作り出した。
一度に3文字作っていたのだが、それなりに体力が必要だったらしくヴィクセンの息が切れているのが視認できる。

ライリーがその文字を飲み込んだ。
壊の文字を飲み込んで平気なのか?と思ったが、特に問題は無いようだった。

「貴方は本当に傲慢なのよ、俊介に攻撃を防がれた時点で理解しなさいよ」

ヴィクセンの眉間にシワが寄る。

怒っている。

カンカンに怒っている。

顔の紋章は今までにないほど紅く光り、彼女の激昂した表情が歪んで見える。
沢山の小文字が生まれ僕に向かって飛んできた。

しかし...。

【ウッドソード】

僕の周りに簡素な壁のバリアが作られた。
大文字は無機物を突き抜けるが、小文字はその例外であることぐらいならもう気づいている。
僕だってそこまでアホじゃない。

壁に火を点け文字を燃やした。
文字は紙に火をつけたときのように燃えた。
そして宙に灰が舞い、その灰が台風の様な形を作る。

その台風に対しシュンヤが近くの石で反対回りの台風を作りぶつけた。

台風同士はぶつかり大きな台風を作ったが、数秒もしないうちに【シュー...】と音を立てて消えていった。

ヴィクセンの焦りの表情が見える。

ドォーン....と鈍く大きい音が辺りに響き、僕はその方向を見た。
そこには魔法で岩を抑えている奈恵が居た。
上から巨大な岩が落ちてきて、奈恵は反射的にその岩を魔法で抑えていた。

ライリーが吸い込もうとしていたが、岩はビクともしなかった。

【ウッドソード!】

シュンヤが大きめの弾丸を作り、飛ばす。
奈恵を潰そうとしていた岩は砕け散り、奈恵は前に倒れ込んだ。

「ホラ、だから一人で行くのはおすすめしないって言ったのよ。俊介一人ならともかく、数人に囲まれて貴方が勝てるはずないじゃない」

コツ...コツ...と靴の音が辺りに反射する。
その容姿、立ち振る舞い、その声。

僕の髪が逆立つのを感じる。

そこにあったのはドス黒い強い怒りの感情のみ。
鼓動が早まるのを感じる。

「グリシアーッ!」



僕の無意識の叫びが辺りを騒がしく包む。

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