記憶共有的異世界物語
第63話:無意識という名の脅威
死までのカウントダウンが着実に近づいている中、僕の頭は何故か冷静だった。
僕の体質なのだろうか?
正直あまりよろしい体質ではない。
ライオンに襲われる時に「あ、あのライオン近づいて来るな~」なんて呑気に考えてたらライオンのエサになるのがオチだ。
これも同じ。
マズイ。
非常にマズイ。
でも、それでいて尚僕は冷静で、体が全てを判断してくれていた。
気付くと腕が動いていた。
地面に手をつき、跪く形になるのと同時に、僕の体が、喉が。勝手に叫んだ。
【ウッドソード!】
突如地面にとある一文字が浮かび上がった。
【生】
その文字がヴィクセンの文字を突き抜けて上へと登って行き、死の文字と激しくぶつかる。
物凄い風圧が発生し、その風圧にヴィクセンの小文字は全て吹き飛ばされた。
体が起こしたその奇跡に僕の頭は追いついていなかった。
生と死の文字の格闘は【引き分け】...。
そう...。そう表現するのが適切だろう。
【引き分け】
生と死の文字は物凄い風と光を産み【消滅】した。
後には砂埃だけが残り、僕とヴィクセンは共に困惑の表情を浮かべた。
「アンタ...今なにしたさね...」
フゥ...と一つ息を吐き捨て、僕はまっすぐ無言でヴィクセンを睨みつけた。
「もう純也は憑いてないハズさね...なんで神の力が出せるさね...」
ヴィクセンの困惑の表情と共に、彼女の顔に恐怖が浮かんでいることに気がついた。
彼女が怯えている。僕の能力に...。
それって最高じゃぁないか。
僕が足を一歩前に踏み出すと、ヴィクセンは後ろに一歩後ずさりした。
僕は走り、彼女は身構えた。
彼女の怯えた表情は僕が近づくほどに深くなっていった。
しかし近づけば近づくほど、僕の感じている違和感が大きくなって行く。
「そんなに怯えてどうしたよ、そんなにさっきの攻撃が怖かったっか?」
「アンタ...本当に俊介さね?...いや...」
ヴィクセンが何かに踏ん切りを付ける様な表情をするのと同時に、彼女の構えは攻撃態勢に戻った。
僕はそのままの流れで拳を固くし、ヴィクセンに一撃喰らわせようとしたが、彼女はハラリと避けて僕の背後を取る。
ヴィクセンは僕の背中に蹴りを入れて吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされた勢いで内蔵が出そうになる感覚を味わったが、その痛みよりも先にヴィクセンが怯えていた理由を理解した。
彼女が怯えていたのは僕の能力ではなく、僕の【正体】の方だった。
僕は僕だ、俊介。ここはブレてはいけない。
で、彼女が怯えていたのは僕ではなく【シュン】にだ。
もうここまで来ると認めるしかないのだろう。
シュンは僕だ。
一体何がどうなってこうなったのかは僕自身ちっとも分からない。
現状自体に困惑している。
しかしこれだけは言える。
シュンは神からも恐れられるほど恐大であると言う事。
だからこそヴィクセンは僕がシュンであることを恐れたのだ。
さっき反射的にやった行動。【生】の文字を画くあの行動。
彼女曰くあれが神の力らしい。
僕は無意識に神の力を使ったという事か?
んなバカな。
もう訳が分からない。
神の力が如何に優れているかは分かる。
純也が僕にそれを教えてくれた。
何故突然居なくなったかは未だに分からないが、でもその力の強大さは思い知らされた。
そもそも神の力を持っていない人間が神に挑むこと自体無謀なのだ。
でも僕は純也の加護でそれを可能にした。
最も今となっては失っているが。
失った状態でヴィクセンのあの一撃を回避したのは、やはりそういう事なのだろうか?
ヴィクセンの蹴りによって壁に激突させられながら、僕はそんな事を考えていた。
ならば、ならばこそ。
【ウッドソード】
ダメだ...出来ない。
さっきのように文字を作り出そうとしたが出来なかった。
よくよく考えればそうだ。
そもそも僕のウッドソードは変換したモノに能力を付与することは出来ない。
時を止める懐中時計だとか、テレポート機能つきのドアとか言った便利機能付きのモノは作れないのだ。
なのに僕はやった。
【生】の文字を作り上げたのだ。
土壇場の馬鹿力?
それはない。
いくら馬鹿力でも限界がある。
さっきのアレはどう考えてもそれを超えている。
普通の人間に神の力が出せるはずないのだ。
「アンタはもしかすると...私達にとって非常にマズイ脅威になるかもしれないさね、だから....」
「ここで殺しておくさね!」
ヴィクセンの顔に現れた紋章が紅く光る。
その光からは湯気が出てるようにも見えたが、血液の流れが顔に出てるのだろうか?
なんて悠長なことを考えていた瞬間、僕の体に穴があいた。
ガッポリ深々と。
あぁ....だからこの体質はマズイと言ったんだ....。
░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░
【ウッドソード】
遠くから声が響いた。
気が付くと腹にカッポリ空いた穴は完全に塞がっていた。
「なぁ、前々から思ってたんだけどさ。お前【ステンエギジス】使えなくなってるだろ」
シュンヤだった。
記憶共有は相手の感情や思考までは共有されない。
奈恵は脳内補正でナエラの思考を半強制的に補っていた様だが、僕等にそれは不要だった。
だからこそシュンヤは疑問そうに僕に問いかけた。
「ご名答」
「ご名答じゃねぇよ、なんでもっと早く相談してくれなかったんだよ」
ヴィクセンがトタタタと走ってきて、その速さに僕とシュンヤはどちらも驚いた。
【【ウッドソード】】
僕とシュンヤはお互いを守る壁を作った。
超速で突進してきたヴィクセンはそのまま突進してその壁を壊していたが、その奥に設置した僕の壁に阻まれた。
【ウッドソード】
シュンヤが再び能力を唱え、ヴィクセンに突破された壁の破片は大きな爆発を起こした。
辺りに沈黙が走り、僕は壁を溶かした。
そこには血まみれのヴィクセンがいて、彼女は弱っているように見えた。
「アンタ等は....本当に....脅威に...なるさね」
そう言ってムクリと起き上がった彼女は激昂した表情になり、雄叫びをあげていた。
しっぽの数が一本また一本と増え、顔の紋章も心なしか光って見えた。
体が一回り大きくなり、こちらを喰らうかのような眼差しで睨む。
どうやら僕等は彼女を本気にさせてしまったようだ。
僕の体質なのだろうか?
正直あまりよろしい体質ではない。
ライオンに襲われる時に「あ、あのライオン近づいて来るな~」なんて呑気に考えてたらライオンのエサになるのがオチだ。
これも同じ。
マズイ。
非常にマズイ。
でも、それでいて尚僕は冷静で、体が全てを判断してくれていた。
気付くと腕が動いていた。
地面に手をつき、跪く形になるのと同時に、僕の体が、喉が。勝手に叫んだ。
【ウッドソード!】
突如地面にとある一文字が浮かび上がった。
【生】
その文字がヴィクセンの文字を突き抜けて上へと登って行き、死の文字と激しくぶつかる。
物凄い風圧が発生し、その風圧にヴィクセンの小文字は全て吹き飛ばされた。
体が起こしたその奇跡に僕の頭は追いついていなかった。
生と死の文字の格闘は【引き分け】...。
そう...。そう表現するのが適切だろう。
【引き分け】
生と死の文字は物凄い風と光を産み【消滅】した。
後には砂埃だけが残り、僕とヴィクセンは共に困惑の表情を浮かべた。
「アンタ...今なにしたさね...」
フゥ...と一つ息を吐き捨て、僕はまっすぐ無言でヴィクセンを睨みつけた。
「もう純也は憑いてないハズさね...なんで神の力が出せるさね...」
ヴィクセンの困惑の表情と共に、彼女の顔に恐怖が浮かんでいることに気がついた。
彼女が怯えている。僕の能力に...。
それって最高じゃぁないか。
僕が足を一歩前に踏み出すと、ヴィクセンは後ろに一歩後ずさりした。
僕は走り、彼女は身構えた。
彼女の怯えた表情は僕が近づくほどに深くなっていった。
しかし近づけば近づくほど、僕の感じている違和感が大きくなって行く。
「そんなに怯えてどうしたよ、そんなにさっきの攻撃が怖かったっか?」
「アンタ...本当に俊介さね?...いや...」
ヴィクセンが何かに踏ん切りを付ける様な表情をするのと同時に、彼女の構えは攻撃態勢に戻った。
僕はそのままの流れで拳を固くし、ヴィクセンに一撃喰らわせようとしたが、彼女はハラリと避けて僕の背後を取る。
ヴィクセンは僕の背中に蹴りを入れて吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされた勢いで内蔵が出そうになる感覚を味わったが、その痛みよりも先にヴィクセンが怯えていた理由を理解した。
彼女が怯えていたのは僕の能力ではなく、僕の【正体】の方だった。
僕は僕だ、俊介。ここはブレてはいけない。
で、彼女が怯えていたのは僕ではなく【シュン】にだ。
もうここまで来ると認めるしかないのだろう。
シュンは僕だ。
一体何がどうなってこうなったのかは僕自身ちっとも分からない。
現状自体に困惑している。
しかしこれだけは言える。
シュンは神からも恐れられるほど恐大であると言う事。
だからこそヴィクセンは僕がシュンであることを恐れたのだ。
さっき反射的にやった行動。【生】の文字を画くあの行動。
彼女曰くあれが神の力らしい。
僕は無意識に神の力を使ったという事か?
んなバカな。
もう訳が分からない。
神の力が如何に優れているかは分かる。
純也が僕にそれを教えてくれた。
何故突然居なくなったかは未だに分からないが、でもその力の強大さは思い知らされた。
そもそも神の力を持っていない人間が神に挑むこと自体無謀なのだ。
でも僕は純也の加護でそれを可能にした。
最も今となっては失っているが。
失った状態でヴィクセンのあの一撃を回避したのは、やはりそういう事なのだろうか?
ヴィクセンの蹴りによって壁に激突させられながら、僕はそんな事を考えていた。
ならば、ならばこそ。
【ウッドソード】
ダメだ...出来ない。
さっきのように文字を作り出そうとしたが出来なかった。
よくよく考えればそうだ。
そもそも僕のウッドソードは変換したモノに能力を付与することは出来ない。
時を止める懐中時計だとか、テレポート機能つきのドアとか言った便利機能付きのモノは作れないのだ。
なのに僕はやった。
【生】の文字を作り上げたのだ。
土壇場の馬鹿力?
それはない。
いくら馬鹿力でも限界がある。
さっきのアレはどう考えてもそれを超えている。
普通の人間に神の力が出せるはずないのだ。
「アンタはもしかすると...私達にとって非常にマズイ脅威になるかもしれないさね、だから....」
「ここで殺しておくさね!」
ヴィクセンの顔に現れた紋章が紅く光る。
その光からは湯気が出てるようにも見えたが、血液の流れが顔に出てるのだろうか?
なんて悠長なことを考えていた瞬間、僕の体に穴があいた。
ガッポリ深々と。
あぁ....だからこの体質はマズイと言ったんだ....。
░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░░
【ウッドソード】
遠くから声が響いた。
気が付くと腹にカッポリ空いた穴は完全に塞がっていた。
「なぁ、前々から思ってたんだけどさ。お前【ステンエギジス】使えなくなってるだろ」
シュンヤだった。
記憶共有は相手の感情や思考までは共有されない。
奈恵は脳内補正でナエラの思考を半強制的に補っていた様だが、僕等にそれは不要だった。
だからこそシュンヤは疑問そうに僕に問いかけた。
「ご名答」
「ご名答じゃねぇよ、なんでもっと早く相談してくれなかったんだよ」
ヴィクセンがトタタタと走ってきて、その速さに僕とシュンヤはどちらも驚いた。
【【ウッドソード】】
僕とシュンヤはお互いを守る壁を作った。
超速で突進してきたヴィクセンはそのまま突進してその壁を壊していたが、その奥に設置した僕の壁に阻まれた。
【ウッドソード】
シュンヤが再び能力を唱え、ヴィクセンに突破された壁の破片は大きな爆発を起こした。
辺りに沈黙が走り、僕は壁を溶かした。
そこには血まみれのヴィクセンがいて、彼女は弱っているように見えた。
「アンタ等は....本当に....脅威に...なるさね」
そう言ってムクリと起き上がった彼女は激昂した表情になり、雄叫びをあげていた。
しっぽの数が一本また一本と増え、顔の紋章も心なしか光って見えた。
体が一回り大きくなり、こちらを喰らうかのような眼差しで睨む。
どうやら僕等は彼女を本気にさせてしまったようだ。
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