記憶共有的異世界物語

さも_samo

第45話:同じ目的

グリシア・ヴァレンは、目の前で起こったことの気味悪さ故に引きつっていた。

「俺が純也。【存在を司る神】さ」

「あたいの空間は能力が使えないはず...なんで...」

「純粋なパワー負けだよ。この俺がお前ごとき小娘にパワーで負けるなんてまずないからな」

と、まぁ威勢張っているのはいいんだが、この喋り方に違和感しか感じない。
無意識下で出た喋り方がこれだったから無理やり合わせてはいるが、やはり彼の言った通り結び付きが強くなってもベースは僕の様だ。

彼女の表情に怒りの様なものが見えた。
その表情には子供のようなあどけなさがあり、おもちゃを取り上げられてキレる様なそんな感覚があった。

「あたいが....小娘?」

あぁ。キレてる。めっちゃキレてる。
ここまで簡単に乗ってくれるとは正直思わなかったが、これで攻撃が単調になった事は確かだ。

神の攻撃はその威力ゆえに頭脳戦に持ち込まれるとかなり厄介だ。
だから僕みたいな人間が勝ちたいなら、まず相手を挑発して単調な攻撃にさせなくちゃいけない。

彼女が右手を振ると、突然僕の体が重くなった。

地面に叩きつけられて、血反吐を吐きそうになったがなんとかこらえた。

「まさか貴方がノルヴァ家の味方をするとはね....頑張って【中立】保ってたのにね、これでおじゃんだね」

彼女の口調は完全にキレたそれであり、実年齢は20でも精神年齢は見た目と同じなんだなと思った。

「中立...ねぇ....俺の目的がエルフを潰す事に決まった時点でもう中立じゃないんだけどね」

彼女はゴミでも見るかの様な目でこちらを睨みつけている。
ゆっくり近づいて思いっきり僕を蹴った。

女性、それも子供とは思えない筋力。物凄く重い一撃だった。
しかし僕は吹っ飛ばなかった。
まるで体に【重り】でも付けられてるかのようにその場にとどまった。

彼女は繰り返し僕を蹴飛ばしたのだが、攻撃される瞬間に【ウッドソード】で皮膚を固めているから実質ダメージは0だった。

やはり相手をキレさせるのはかなり重要だなと再確認するのと同時に、自分の詰んでいる状況にどうしようかと頭を悩ませた。

そりゃそうだ。いくらウッドソードで皮膚を固めてるからと言っても、それがバレれば別の攻撃を仕掛けてくる。
でも現に僕は動けない。地面に固定されてしまっている。

ダメ元でウッドソードで腕の筋力を20倍以上にした。
重力のようなものを重りにしているのであれば、それを押しのけるレベルの力を加えてやればいいと思ったからだ。

ビンゴだった。右手が少し上がり、彼女は腕に力を入れ直した。

どうやら重力をいじった場合、その重力に【歯向かえば】その歯向かった力と同じ力が彼女の腕に行くようだった。

なら簡単だ。

「ほらな?結局パワー負けしてるじゃないか。お前がニーナ・ノルヴァに負けた理由もお前のその慢心なんじゃないか?」

「...こ...す」

「あ?聞こえねぇな?」

「殺す!」

彼女は完全に激昂していた。
その表情はもはや子供のものではなかった。

重力がさっきの何倍にも上がり、もはや血反吐をこらえることにも限界を感じていた。

しかし、これでいい。

「【ウッドソード】」

僕がそう唱えるのと同時に、僕の体からプチ...と鳴ってはいけない音がした。
全身の筋肉を230倍にした。

もはや人間の持てる筋力を遥かに超えた筋力なわけだが、正直体がめっちゃ痛い。

負荷がすごいのだ。
しかし効果はあった。

この恐ろしく重い重力の中無理やり立ち上がったものだから、彼女はその力に耐えきれず、腕を前に出したまま後ろに吹っ飛んだ。

ウッドソードを解除して体を身軽にした。
体に対する負荷がエグかったらしく、内出血の量がおかしい。

「なん...で」

グリシアの表情がまさしく『理解できない』と言っていた。

純也の記憶が断片的に入っているのだが、彼女はノルヴァ家に仕えている下級の神を何人も殺してきた。
その神々もそこそこの強さを誇るものだったが、グリシアはかなり強く、どれもほぼ瞬殺だった。
そしてニーナ・ノルヴァに目を付けられ、接戦。そして敗北したそうだ。

だから「慢心のせいで負けた」と言ったのだが、彼女はやはり気にしていたらしく本気でキレていた。

「だからさっきから何度も言ってるじゃないか。お前のその【慢心】が、その傲慢さがお前の弱さを物語ってんだよ」

反動があまりにも強かったらしく、彼女は壁に叩きつけられ動けなくなっていた。
絵面的にあまりよろしくないが、冬弥にエルフの事も聞かなくてはいけないし、何よりバーミアに乗り込むのは早いほうがいい。

だから申し訳ないがグリシアや他の神に構っている時間はそんなにない。

ウッドソードで右手を固くした。

そして動けなくなったグリシア・ヴァレンに近づいて、少し見下ろした。
彼女は殺意の眼差しでこちらを睨んでいたが、やはり動けないらしく腕を動かしては「イッ...」と繰り返していた。

「僕は純也じゃなくて俊介だ。でも君からしたら純也なんだろう。でもね、僕も純也も目的は同じ。それはノルヴァ家の味方をしているわけでもなく、単に【やらなくちゃいけないから】やってるだけなんだよ」

そう言って僕は彼女の首筋に手刀を入れた。
脳に酸素を行かせなくして気絶させるこの技だが、かなりの力がいる。
当然手加減なしでやったわけだが、首が吹っ飛ばなかったあたり流石は女神だ。

ウッ...と呻き声を上げてグリシア・ヴァレンは気絶した。
辺りが波のように歪み、グリシアは何処かへと消えた。

後ろを振り返ると、そこにはシュンヤが居た。

どうやら僕は戻ってきたようだ。

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