記憶共有的異世界物語

さも_samo

第35話:本当の目的

「いや、別にお前の存在が欲しかった訳じゃないんだ」

僕の無意識下で声が出る。

「実際に今現在いつでも分離できるし、これからも融合するつもりは無い」

一言も喋らないから、主導権というのは意識ごとすべて保持できているものだと思っていたが、普通に意識もあるし、いつでも意識ごと奪うことが出来たのだなと気付かされた。

「いや、貴方その調子じゃ【ステンエギジス】の説明もまともにしてないんでしょう?」

「おいま...」

「ステンエギジスは神の能力ってだけあって使う際はコアとの強い絡みつきが必要なの」

それってもしかして....

「つまりね、使えば使うほどに能力の強さは上がるけどその分純也との融合が進むって訳」

「それを言って欲しくなかったなぁ....」

初耳だ。
能力を使えば使うほど僕が僕じゃなくなるって事だろ?

ふざけるな。

いや、強制的とは言え、純也と契約した時点で容認したようなものか。
僕は純也に憑かれた時点で死んだ様なものなのか...。

もう諦めよう。
目的が達成できるならそれも悪くない。

主導権を奪われた状態で喋るには....強い意志をもって、ゴリ押すイメージ....。

「別に構わないさ。僕だって純也に取り憑かれた時点である程度のことは許容していたわけだ。だけどエルフを潰すって目的だけは達成させてもらう。別にそれ以外は要求はしないからさ」

「へー、変なの。それって正義感ってやつ?」

「かもね」

「くだらないよ、それは」

ニーナ・ノルヴァの冷たく鋭い目線が僕を貫いた。
その冷たい眼光には姉を思わせるものがあり、やはり姉妹なんだなと改めて思った。

フゥ...と一つ大きなため息を付き、精神を落ち着かせた。

「物心ついてからずっと生きる目的を探してた。この人のためなら死ねるだとか、これを終わらせられるなら死んだって構わないだとか、一度でいいから言ってみたかったし体験してみたかった」

「僕だってまだ高校生だ。これからの人生のどっかでそのタイミングがやって来ると思ってた。シュンヤは禁忌の書撲滅団なんて生きる目標を作っちゃったけど、僕にはそんなもの存在していなかった。だからこそエルフとの一件に遭遇した時、僕は物凄く魅力的に感じたんだよ。たくさんの人を救えて、それでいて自分の全てを確かめることのできる本の存在が」

ニーナ・ノルヴァはフーンと流すように僕の話を聞いていた。
純也も空気を読んで発言を遮るような真似はしなかった。

「今だったんだよ、そのタイミングって奴が。今来たんだ。僕はこれ以上ない絶好のチャンスを握っている。だからこそ僕はエルフの逆恨みに決着を付けたいし付けなきゃいけないんだ」

「そう...」

ニーナ・ノルヴァの性格がなんとなくで分かってきたのと同時に、口にすることで改めて僕の決意が固まった。

「まぁそう言うこった純也。僕の存在は自由にするといいさ。でもせめてエルフとの一件が解決するまでは待ってくれねぇかな?」

自分自身に語りかけるこの感覚には依然不慣れなものがあるが、聞き手がいる感覚がその違和感を緩和してくれる。

「いや、待って。なんか俺悪者にされてない?端から存在を融合させるつもりは無いし、そもそも俺の目的もエルフの種族を完全に滅ぼすことだからね?」

「「え」」

ニーナ・ノルヴァと全く同じリアクションが出た。
てっきりなんだかんだで理由をこじつけて僕の精神だったり存在を蝕むつもりなんだとばかり思っていた。

「え?じゃねぇよ...」



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