記憶共有的異世界物語

さも_samo

第32話:刑罰執行

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とにかくこれ以上家を荒らされても困るし、何より警察とかを呼ばれたら厄介なことになる。
ここは一旦広い公園かどこかに逃げたほうがいい。
幸い外は夜だ。
戦闘しながら逃げても何の問題もないだろう。

「一旦逃げるぞ」

「あぁ」

窓を開けようとしたら先回りして電撃魔法を撃たれたが、シュンヤが打ち消してくれた。
玄関側は冬弥に塞がれていたので、窓側から逃げることにしたのだが、その判断はただしかったようだ。

窓を開け逃げ出した。
あとはただ公園に向かってがむしゃらに走った。
僕、奈恵、シュンヤの順番で外に出たのだが、不思議なことにあの電撃以外追撃はしてこなかった。

5分もしないうちに公園に着いた。
エルフは追ってきたものの、これといって目立った攻撃はしてこなかった。

「なぁ奈恵、今向こうはどうなってる?」

「うん、やばいかも。エルフの魔法で閉じ込められて、別のを見抜いたところまでは良かったんだけど、このままだと...ミレイ・ノルヴァ?なんであいつが....」

奈恵は目をつぶって送られて来る記憶を必死に読んでいた。

「ミレイ・ノルヴァ?お前今なんて言った?」

「ミレイ・ノルヴァがいるの、そこに。鉄格子みたいなのに閉じ込められてたんだけどそれもミレイ・ノルヴァが壊したわ」

理解不能の状態が続いている。

シュンヤと冬弥の実力は互角だった。
それ故に傍観状態になってしまっているのだが、奴がバーミアにいると言うなら話は別だ。

「すごい....あんな数のエルフを一度に...待って、その本は....」

「その本?もう少し詳しく説明してくれよ」

「ごめんちょっと待って、記憶の整理がまだ付かないの」

奈恵は映画でも見ている子供のような純粋な笑みを見せていた。

「ミレイ・ノルヴァがエルフに対して無双している、んで本物の禁忌の書の場所を聞いてる」

「ウッ!?」

腹パンをくらった様な声を出して奈恵はその場に倒れ込んだ。

「奈恵...?おい奈恵!」

「シニタクナイ....シニタクナイ.....」

奈恵の目には涙が浮かんでおり、その様子からは怯えしか感じなかった。

「おい!何があったんだよ。おい!」

「シニタクナイ....」

ただ無機質にシニタクナイと繰り返している奈恵を見て、ナエラが致命打を負ったのだなと理解した。
記憶の共有は言ってしまえば超リアルな小説を読んでいる時のようなものだ。
情景、聴覚、痛み。ありとあらゆる感情が頭の中に展開される。
だからこそ記憶の共有を読んでいる状態で片方が死んでしまえば、もう片方も【追体験】によって臨死体験してしまう訳だ。
最も奈恵だってその危険性ぐらいわかってるだろうから記憶の共有にのめり込むと言う事はしなかったのだろうが、そのシチュエーション故に必要以上にのめり込んでしまった。

「ハハハハハ!これで目標は達成したよ、このクソ殺人鬼共め!」

「目的?禁忌の書から俺らを突き放すのがお前らの目的じゃなかったのか?」

「ほんっとうまいこと引っかかってくれたよねぇ...?うんうん。君達は本当にバカだよ、我々の目的は昔からずっと変わらない。君らに対する【復讐】だよ」

「復讐?」

「あぁ、復讐さ。遠い昔、エルフの種族はお前らを研究した。好奇心を埋めるためだ。しかしお前らはなんだ?お前らは存在そのものが我々にとって害だった。できることなら世界から存在ごと消してやりたかったよ、でもどうせお前らの事だ。復活だのなんだのって言ってやはり私たちに害をもたらす。少なくとも禁忌の書は我々にそう説いた」

「お前らのせいで我々の種の数は激減。今や純系のエルフなんて20以下だぞ?集落にも雑種が混ざり込む始末...。これが害と言わずしてなんと言う?」

「逆恨みだろ?」

「黙れ!だからこそ我々はこうしてお前ら全員をバーミアから追い出した。お前らが置いた捨て駒はちゃんと殺しといてやったぞ?」

「捨て駒...おい!それって...」

「あぁ...ナエラだよ、心臓を一突きだったさ.....」

シュンヤは我を失っていた。ほとんど活動していないとは言え、シュンヤにとってナエラは大事な仲間だったのだろう。
しかしダメだった。
シュンヤの攻撃は全て躱され、全ての攻撃にカウンターを喰らっていた。
先程まで互角に見えていた戦いは全て演技だったのだ。
全部エルフが目的を達成するための....。

クソ、最初からエルフの手のひらの上で踊らされていた。

騙された。

【ステンエギジス】

無意識のうちに右手が勝手に動き、その右手は冬弥の精神を鷲掴みにしていた。

「この恩知らずの種族めが!恥を知れ!」

僕の口から出たその言葉は、僕が意識的に出したものではなく、無意識に出た言葉だった。
右手が振り上げられるのと同時に、冬弥が2重にブレて見えた。
冬弥から引っ張り出された何かはエルフの様な見た目をしており、若い好青年のイメージを受けた。

右手を握り締めると、悲鳴と同時にその精神体のようなものは木っ端微塵に消え去った。
辺りに訪れた静寂と、奈恵の繰り返されるシニタクナイと言う言葉を聞いて、この空間に対する恐怖が限界値を超えた。



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