記憶共有的異世界物語

さも_samo

第21話:存在を司る神

ゴォオンと頭に響く重低音が鳴り、サーサーと鳴る雨音が静かすぎるバーによく響いた。

黒い髪、日本人のような顔立ちをしているが、目は黄色く光っていた。
若干太っているようにも見えるが、その立ち振る舞いに鈍さは感じなく、髪に波のようなウェーブがかかっており、知的に見えるその容姿からか彼の浮かばせている笑顔に物凄い【狂気】を感じた。

「おい、馬場さんをどうした...」

「よかったよかった。やっぱり君はこの老人の事を忘れてはいないんだね?」

質問に答える気は無いようだった。
相手が何を考えているのかさっぱり分からない。
この男の目的も分からないし、何より僕はこの男の名前すら知らない。

「君は驚いているはずだ、なにせ人の存在が一人【消えた】のだからね」

男の声のトーンが一つ下がった。
それに何の意味があるのか僕にはサッパリだったが、彼の声に無性に【恐怖】を感じていたのは事実だ。

「何故消えたかって聞かれると俺の能力としか言い様がないんだがな、俺が確認したかったのは君がこの老人の記憶をしっかり保持してるってことだ」

「質問に答えろ、馬場さんをどこにやった」

男は数秒黙り、辺りに沈黙を走らせた。
甲高い舌打ちがバーの中に響き、僕の【恐怖】は跳ね上がった。

「だからさぁ、さっきから見せてるじゃないか....これだよこれ」

男はそう言ってカードをちらつかせ、カードの端を破った。
破れた破片からは赤色の液体が出てきた。
紙から液体が出るという極度に気味の悪い光景だったが、その液体が血であることを理解してしまった。
吐き気が全身を襲い、さっきこの男がやろうとしていた行為の意味を理解した。

「分かったやめろ!」

男はいたずらをする子供の様な無邪気な笑顔で笑っていた。
気色の悪さにただただ吐き気を覚え、今にも狂いそうになる自分をなんとかして抑えていた。

「お前は一体誰なんだ!それが本当に馬場さんだって言うなら非人道的すぎる!相手は人間なんだぞ?」

「そんな事は分かっているさ。僕は【存在を司る神】高橋純也....元人間だ」

<a href="//19508.mitemin.net/i246771/" target="_blank"><img src="//19508.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i246771/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

男のその発言に一瞬思考が停止した。
神...ミレイ・ノルヴァと同じ様な....?
元人間....もはや僕の常識じゃ理解出来そうにない。
ただ一つだけ分かったことがある。

馬場さんはこいつに【存在】を操作された。
何故か僕だけがその影響を受けていないようだったが、こいつの目的がますます分からない。
僕が馬場さんの記憶を保有している事を知りたがっていたが、それが何になるって言うんだ...。
僕が彼の能力の影響を受けていないことを確認したかった?何のために?

「俺が言うのもアレなんだが、君はもうちょい自分が置かれている状況を理解した方がいいと思うんだ。君の記憶共有の原因がエルフだって事は知ってんだろ?それを誰に教わった?...そう、ミレイ・ノルヴァだ。君は神にその事を教わったんだ。つまりエルフのその一件には神が関与してしまっている。君は記憶共有の件を解決しようとしているみたいだが、それは言い方を変えると神に対する宣戦布告になっちまうんだぜ?分かってんのか...って表現は間違ってるな、理解しろ俊介。君は神に狙われている」

訳が分からない。分かるはずもない。
神の関与?宣戦布告?狙われている?
超次元すぎる話に普通の人がついていけるはずがない、サッパリ分からない。

「訳がわからない、仮にお前の言ってることが本当だったとして、その警告を僕にする意味が分からない」

「俺の目的は君に警告することじゃない、君が僕の能力の【影響外】である事を確かめたかっただけだ。だからこそ馬場さんにはカードになってもらった...最もこれ自体は僕の能力じゃないんだけどね」

そう言って純也と名乗った男はカードを弾き投げた。
回転のかかったカードは空間に歪みを産み、その空間の歪みから馬場さんが出現した。

馬場さんは目を抑え耳に響く雄叫びをあげていた。

「あ~あ、ごめん。さっき破ったところ目だったのか。すまん」

そう言って純也の狂気じみた笑顔は、ますます恐ろしくなった。

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