記憶共有的異世界物語

さも_samo

第17話:絶望

ある時ふと思った。

もしも何かしらの超常現象に直面して、その現象を理解できなかった場合。それは超常現象と呼べるのだろうか?

ある日突然空を飛べるようになったとして、そのことにも気付かず飛ぶ事をしなければ、それは空を飛べると言えるのだろうか?

ある日突然数分後の未来が見えるようになったとして、それが未来だと分からず気色悪いと片付けてしえば、それは未来予知と言えるのだろうか?

憑依と言った現象に直面して、その現象の仕組みを理解していない場合、それは憑依と言っていいのだろうか?

きっと言わないのだろう。

空を飛べてもそれに気づけなければ飛べないのと等しいように、数分後が見えても、それが未来だと分からなければ未来予知にならないのと同じように。

そんな事を考えながら、僕は目の前にいる女神が説明しようとしている事に対する恐怖を感じていた。
どうしようもない不安という表現が正しいのだろう。
憑依現象を理解するということは、その超常現象を体験することになる。
それが怖いのだろう。それが怖くてたまらないのだろう。

瞳が左右にぶれる事を感じる。
顔が引き攣るのが分かる。

「さ、何処から話そうかしら」

「そうね、自己紹介からすることにしましょう。私はミレイ・ノルヴァ。【時と運命を司る女神】ちょうど貴方達が暦と呼んでいる概念と、文字通り運命の概念を司っているわ」

奈恵と馬場さんの顔に困惑の表情が浮かんでいる。
そりゃそうだ。
僕だって憑依時にあの世界に飛ばされていなければ理解できなかっただろう。

「女神って言うと人間が崇めている?」

「えぇ」

馬場さんの質問に対し、食い気味にそう答えたのだが、やはり信仰されるというのは神でさえも嬉しいものなのだろうか?

「私達神が住んでいる世界が【天界】、その天界を結んでチェリーの様な形で2つの世界が結ばれているの。そのうちの一つが地球」

「じゃぁもう一つは?」

「バーミア。ここから見ると異世界に当たるのかしら?あ、正確に言うなら【地球】がある世界と、【バーミア】がある世界って事ね」

「で、何故かしらね、どっちの世界の住人も揃って神に対抗してくるの、地球の人間はタイムマシン理論なんて言って時間の概念を捻じ曲げてくるし、バーミアのエルフは高度な占い技術なんてので運命の概念を捻じ曲げてくるし...」

「でね、今問題になってるのがそのエルフ。エルフはその高度な占い技術で地球の存在を見つけてしまったの。それの何が問題って、異世界を見つけたって事は当然莫大な知識が入ってるわけじゃない?それが完全に問題なの」

「地球の常識じゃ考えられないかもしれないけど、バーミアの世界では、莫大な量の知識を一カ所に集める...知識をまとめる行為自体が禁忌とされている。理由は簡単、向こうの知識を悪用すればば天界に悪影響が出るから」

「つまりは地球がそのバーミアより圧倒的に劣っていると?」

「いえ、地球だって充分天界に影響するわ。タイムパラドックスを起こさないように~みたいな事を聞いた事は無い?それも似たような理由」

何故だろうか?馬場さんが異常なまでにミレイ・ノルヴァに敵対的に見えた。

「そしてエルフは一人の男の子を予言することで地球の存在を発見した。それが俊介。彼が最初にエルフに発見された地球人」

「天界は下手な混乱を避けるために、バーミアと地球にドッペルゲンガーを配置していたんだけど、エルフにそれを発見されちゃってね、そこで見つかったのが」

「シュンヤ...」

「そう。そうなったらもう大変でね、エルフ達はその知識欲のために禁忌に触れた」

やはりシュンヤと僕はドッペルゲンガーのような、2人の1人なのだろう。
本当にややこしい

「地球とバーミアの違い。地球人が辿る運命。地球の文明。【魔法】の存在しない世界に存在する【機械】の存在。調べられる限りの事は全て調べてまとめた」

「当然禁忌を犯したエルフの集落は、自身が調べ上げた【スペイン風邪】で滅びた」

「でも集落外に出ていたエルフはかろうじて生き残ったの、今バーミアにいるエルフはほとんどが人間とのハーフよ」

「人間とのハーフって....エルフと人間の間に子が生まれるのか?」

「えぇ。最も10人妊娠して1人生まれるかどうかだけどね」

「で、その大スキャンダルが天界内で騒ぎになって、私は仕事に追われる毎日。かなりのバッシングを喰らったわ。でも、ドッペルゲンガーは全部分離させたし、エルフが見つけた運命は全て別の運命に塗り替えた...はずだったの」

「でも俊介。貴方の運命だけはどうしても変えられなかった。この話は前にもしたよね?エルフは君の運命に深く干渉しすぎた。貴方のそれは【運命】ではなく【宿命】にされたの」

「で、その僕の宿命が書かれた本に新しい項目ができた挙句、自分達のやろうとしている事が失敗に終わるって書かれた訳だ」

「あら、随分あっさり飲み込んだのね」

「そりゃどうも」

あぁ畜生。どうしろってんだ。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く